第8夜 ローカル楽しんでいる建築家#2 宮城島崇人

こんばんは、宮城島です。札幌の建築事務所を拠点にしつつ、全国各地で設計をしています。色々な地域から学びながら、自分の思考回路を発展させていくような感覚で設計に携わってきているのが自分の特徴だと思います。今日はいつも考えている「環境の全体性を構築する建築の試みー建築が環境の一部になり、環境を鼓舞する。」というテーマでお話しします。
僕は卒業してすぐに独立したので、実務の師匠がいないなか手探りで建築を考え、プロジェクトに育てられながらやってこられた、というような実感があります。実質的なデビュー作は「丘のまち交流館 ビ・エール」、企画構想から実施設計まで運よく携わることができました。

敷地ならではの空間の粒度や重さを大切に|民家と城端
まずは、富山の「民家と城端」というリノベーションプロジェクトです。

1_城端外観_竹内吉彦のコピー©竹内吉彦

クライアントの移住と将来的なゲストハウス運営を視野に入れた設計が求められました。既存の住宅は無断熱でそのままでは住めませんでしたので、耐震改修と断熱改修が絶対条件の中、何ができるのかを検討した作品です。
コストが限られていたため、外壁をいじらずに断熱・耐震改修・間取りの変更をするという考えで、設計を進めました。サッシの取り替えが必須でしたので、そこに、外部との新たな関係性をうむ窓辺を作り、内側はきちんと耐震改修をしました。

2_城端アイソメ_オリジナル©宮城島崇人建築設計事務所

出窓に新しい意味や機能を見出せるようにしています。出窓が風景を切り取り、視界を方向づけながら遠くのものと関係づけるよう計画しています。写真の、川を挟んで旧市街地が見渡せる出窓のように、場所場所で多様な居場所を作っています。街での体験と建築の体験がどう関係するのか、という試行錯誤をした作品で、その敷地ならではの空間の粒度や重さの感覚を大切にしました。

2'_城端内観1(追加希望)_竹内吉彦のコピー©竹内吉彦

3_城端内観2_竹内吉彦のコピー©竹内吉彦

長い時間軸で環境を解釈し、建築群で環境を鼓舞する|北海道の牧場プロジェクト
続いて、北海道の牧場のプロジェクトを紹介します。
膨大な13haもの敷地面積の中で、どう効果的に建築を更新していくべきかを丁寧に検討して、牧場の未来像を模索しています。というのも、牧場は、今の経営者の代が変わっても、僕がプロジェクトから離れても、続いていくんです。だから、より長い時間軸で環境を適切に解釈して、次代に繋がるようにメッセージを残す必要があります。

4_RH現状配置図と改修前写真©宮城島崇人建築設計事務所

牧場は、牧草地を取り囲むようにして厩舎が建ちます。お施主さん(厩務員)は馬が見える場所に住みたいこともあって、パドックを中心に建築のまとまりが構成されるという牧場のルールが見えてきます。
今までに竣工している「パドックの家」「丘の家」「牧場のロッジア」を説明します。

6_RH_各建築_丘の家、パドックの家は阿野太一のコピー©阿野太一

大きな環境を観察する中で得た知見をうまく活かしつつ、個々の建築表現に応用し、建築相互にアイデアを参照・発展させながら設計を進めてきました。こういったいくつかの建築が群となっているプロジェクトでは、それぞれの建築に明快な役割を与えるよう計画し、全体の環境をつくっていくことが重要な気がしています。
まず、「丘の家」です。既存の空き家は、牧場の牧草地に面しており、開放的で気持ちが良いのに、その環境とのインタラクションが乏しいものでした。そこで改修案はロの字型平面にして、周辺との関係性を高める設計としました。断面計画としては、回廊の天井を下げて外側への意識を向けるようにしています。この真ん中の天井高が高いハットのような構成は、暖かい空気を集めて床下に送るという暖房計画にも寄与しています。
「パドックの家」は、全長80mくらいのダイナミックな厩舎に並んで建つものです。建築の両妻面に大きなポーチを設け、パドックのカーブに沿って建つように、両脇のポーチに少し角度を与えています。パドックのスケールに合わせて生じた角度が、小さな建築にとっては大きな変化となって体感されます。内部空間はロの字型平面で、可動式間仕切りによって事務所と住宅を一体的に利用できるようにしています。
「牧場のロッジア」は、ゲストロッジに来た人が自分の滞在するロッジと牧場の環境との繋がりを強く感じられる場所を作りたいな、と考えて計画しました。軒に、土を混ぜたセメントモルタルの左官を施すことで、大地が転写したような屋根になっているのですが、土の天井という新しい空間のボキャブラリーによって、既存の牧場の風景とゲストロッジの双方が新鮮に感じられるような物を目指しました。

公園との関係をチューニングする|Oプロジェクト

7_O_外観©宮城島崇人建築設計事務所

最後に、「Oプロジェクト」です。公園の一角に立っている既存の2*4住宅の改修増築です。周辺環境はとても良いのですが、既存の建物は高いフェンスで区切られた小さな庭があるだけで、公園の前に建っていることを活かしきれていないような印象がありました。クライアントは食に関心のある方で、新しい機能として食のラボラトリーのようなものを求められました。そこで、公園と既存の住宅と間に、食のラボラトリーにあたる、キッチン棟を増築しました。もともとあった庭はリフトアップして屋上のガーデンファームとし、既存住宅のバルコニーからアクセスできるようになっています。その屋上庭園と、GLから1200mmで浮いている床スラブを、コンクリートの2本の柱で支えています。

8_O_ダイアグラムのコピー©宮城島崇人建築設計事務所


(以下ディスカッション)

廣岡|宮城島さんは観察力が鋭く、コンテクストと建築との応答がとても調和していながら、一方でその建築自体がどこに持って行ったとしても空間・建築的強度があります。観察から創作していく、というと師匠であるアトリエ・ワンの活動を思い出しますが、出来上がった建築表現はアトリエ・ワンとは異なっていて、独自性がある。あと、言葉尻がすごくいいですね。
工藤|些細な角度による視界の変化にびっくりしました。城端で板張りを選択したことの狙いはなんなのでしょうか?あと、牧場のロの字型の開口の取り方も気になりました。
宮城島|経年変化して馴染んでいくような木の素材を選択しました。周りに下見板張りに縦桟の建築が多く見られたのも理由の一つにあります。牧場に関しては、小さな室内空間で周辺の大きな環境をどう感じられるかを考えました。光や外との関係をより感じたければ外に出ればいいので、建築の開口はある程度絞って、風景を感じる感覚器みたいな存在としての建築を目指しました。
後藤|確かに効果的で、遠くが見える、というフレーズが印象的でした。
工藤|北海道の人って、外部に対する積極性を持っているのですか?
宮城島|夏、外が気持ち良いので、意外にすごく積極的なんですよ。ちょっと晴れたらみんな屋外でBBQしているんですよね。とはいえ寒さに対して守らなければならない部分もある。だから住宅は、ひらけた場所と閉じた場所をどちらも持つのが重要な気がしています。一つの建築の中にいろんな場所をがあったり、様々な役割を与えてあげることが重要なのではないでしょうか。
廣岡|確かに。一方で、日本でなかなか外部空間自体に価値を見出している事例は少ないのは課題ですよね。
宮城島|BBQをするなど人の感覚的なものが現れていることに可能性はあるけど、文化的なものまで結実していない感じもします。建築を通して、文化まで至る手助けができればと思います。
五十嵐|壁の厚みがちょっと気になりました。ガッツリ断熱しないでも寒くないんですか?
宮城島|色々な考え方があるのですが、一般的には、柱間充填断熱に外断熱の付加断熱をどれだけ与えるかという違いで、その厚みの違いによって壁厚は大きく変わります。屋根の断熱は明らかに厚いですが。それ以外に木造か、RC造による熱容量の違いや、暖房方式などの工夫も大事です。僕自身、ひとつひとつのプロジェクトで、バランスを見ながら検討を重ねています。
廣岡|
最後に、五十嵐さんのレクチャーに移りたいと思います。

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編集:佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)


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