第5夜 若手建築家プレゼン大会|TOPIC3 街の関係を改良する建築を(廣岡周平さん/PERSHIMON HILLS architects)
この記事は、よなよなzoom#5「若手建築家プレゼン大会(2020年5月30日開催)」でのプレゼン内容です。
街の関係を改良する建築を|(廣岡周平さん/PERSHIMON HILLS architects)
「街の関係を改良する建築を作りたい。」と、最近考えているんです。そもそも、自分たちは、Overlay Multiple Values(価値を重ねる)というものを掲げています。これは、「もったいない思想」からきているんですよ。というのも、一個の役割しかないのはもったいないと。空間と役割が硬直しない関係を生みたい。という意思があるんでしょうね。
空間をものとして扱う、つまり、ものと役割の関係を硬直して扱うのが機能主義だと思っています。それに対して、最近、ものから生まれる振る舞いから考える、ストラクチュアリズムというもの興味があります。これはとても魅力的である反面、空間に役割がはっきりしないため、明確に言語化しにくく経済的に価値を認めにくいという問題があります。
この概念をブラッシュアップして行くには、思考方法とプレゼンテーション方法を変えるべきだと考えているわけです。
最近は、色々な文献を参照しながら建築理論に関する思考をしています。
・ストラクチュアリズム/H.ヘルツベルハー
・アクターネットワーク理論/ブルーノ・ラトゥール
・小さな矢印の群れ/小嶋一浩
・ふるまい学・コモナリティーズ/アトリエ・ワン
・Simple/hibrid/伊藤維
・小さな風景からの学び/乾久美子
ダイアグラムで説明すると、
機能主義とは、建築の役割と目的がそれぞれ単一になるわけで。これではもったいない。
©︎PERSHIMON HILLS architects
建築の役割と目的が複数あること、これを自分たちは評価しているわけです。
©︎PERSHIMON HILLS architects
さらにこれを街の関係の中で効果的な改善箇所を提示して、街に入り込んでいくことが大切なんじゃないかな、と思っているわけです。
©︎PERSHIMON HILLS architects
これをもう少し詳しく考えていきますね。例えば、専用住宅の中ではそれぞれの役割や空間が硬直してしまう部分があります。この中に仕事場として事務所を入れると、家族にとって自分は夫で父であるとともに建築家であることがわかるわけです。
一方で、例えばここに少し腰掛けられるような部分が外にでると、まちに少し開かれますよね。すると登場人物が増えて空間と役割が柔らかくなるのではないでしょうか。
いろんな役割が入れ替わり、人と空間と役割が硬直しない関係からは対話が生まれ、すごいまちができるのではないかと思うわけです。僕はそんな街を作りたいんです。
川崎区の住居
住居とは活動していくための拠点であり、ベースと捉えられるのではないでしょうか。いま住んでいる「窓回住」は、中古住宅を買い、住みながら改修し、その後賃貸するという空き家をなくす循環を考えた作品です。旗竿地にもかかわらず窓が多いことに面白さを感じ、耐力壁を中心に集めて建物の実質的耐力性能を担保しようという設計です。
©︎PERSHIMON HILLS architects
この建築は、完全に自分たちで作ろうと決めていたので、施工ボーイズという自主施工集団を作りました。自主施工は本当に色々なことを学んだ時間でもありました。材の重さや値段、性質などを身をもって知ることができましたし、色々なことに挑戦しました。
©︎PERSHIMON HILLS architects
さて、ここからは「川崎区の住居」の話になります。設計と同時併行して、この住宅ができた後の自分たちの生活がどのように変わっていくかを考えながら、川崎の関係図を書いています。
川崎という街について考えると、三叉路や曲がった道が多いところや、生業と住居が近く、増築と改修がよく見られるところ、大きなマンションや屋根の上に生えた草など色んなスケールが共存しているところなどが、面白さとして挙げられます。
路地の間から入る1階部分は大きな階高の空間「路地間」があります。ここで僕や奥さんが教室をしたり、地域の人と卓球なんかできたらいいな、と思っています。2階部分にはLDK等の住宅機能がある1室空間にしています。2階はできるだけシンプルな、片流れの屋根の下の空間です。
©︎PERSHIMON HILLS architects
©︎PERSHIMON HILLS architects
この作り方をもっと面白くしていきたいと考え、自分の暮らしの関係図を書いていきました。
©︎PERSHIMON HILLS architects
生活の中に素材が結構あって、それらを面白がれないかと思っています。例えば、ヨドバシで買ったコピー用紙の裏紙、メーカーからもらったサンプルなどもゴミになってしまいます。こういうものにどう抗っていくのか、と考えています。ゴミとなっていくものに介入していく、というような挑戦も考えており、この建築の表現につながっています。
暮らしが建築を作る、というか、生活の関係を組み替えること、つまり、色々なものと小さく混ざり合っていくことによって、もっと街は面白くなるだろうと考えています。
©︎PERSHIMON HILLS architects
■レクチャー感想
榮家:廣岡さんは色々な人を関係者として拾い上げていて、誠実で優しすぎるというか、え、こんないい人いるの!?と思いました。笑。その奥底にあるものが知りたいです。
廣岡:自分が住みやすくしたい、という本音もありますよ。川崎にもっと面白い人が集まると、自分の生活が面白くなる、という感じ。そのためにはいい街にしないといけないかな、と。街の人に、自分が何をやっている人なのかは、やっぱり知ってもらいたい。街の人と対話するのが大事だと思うんです。僕がこういうことをやりたい、ということから話していかないといけない、のかな。
同時にね、建築家にかかわらず街の人全員がもっと公共のことを考えないといけないと思っているんです。人が住むときに自分の街のことを考える、ということが薄れてきているというのは、大学時代から思っていて、自分の中では学生時代から連続しています。
工藤:廣岡さんの誠実さはすごく共感できるんですよ。でも一方で、なんというか、建築を介した暴力性みたいなものは出てくる可能性はあるんでしょうか?
廣岡:ちょっと話はかわるかもしれませんが、ブラジルはモダニズム建築と人民の抑圧の解放がマッチしている部分があると思うんです。文化と土壌、マインドの作り方によってモダニズムが合う合わないがあるのですが、それがすごくハマった国です。
でも、合うからといって全てそれで解決するのも違和感があります。色々なものがあった方がいい。
最近ね、他の人が作ろうとしている世界と手を取り合わないと、地域とか都市にならないと考えているんです。
現代社会では、支配的に大きなものを作るのは難しいと思います。アルティガスやリナ・ボ・バルディ、コルビュジェのように、ある程度の範囲で横に雑多なものがある中で大きなものがあるのはおかしくないと思っています。難しいですよね。
工藤:廣岡さんはもっと強引でもいいのでは。
廣岡:ある程度は押し通すべきところはありますが、それはきちんと伝えないといけないと思います。強引すぎると、人や文化は育たない気がします。こちらが説明して納得させるのでは相手は考えてくれない、という部分はあるのかなぁ、と。
ちょっとしたことで一人が独裁的になることは怖いですよね。インフルエンサー同士の対話には学びがあって、インフルエンサーに憧れてなにかをするのは意味があまりない。
ただ、まちづくりなどの仕事で、民主的に街のことを考える人だけが選ばれる世界になったら終わりだとも、同時に、思うんです。使う側をはじめ、もっといろんな人がいてもいいし、もっといろんなチャンスがあってもいいと思います。
榮家:今、パブリックスペースについて考えた時、隣人との間が1番身近なパブリックスペースだと思っています。例えば、今の隣人が時々うるさかったとして、その解決策として、隣人に腹が立たない自分に変われるような空間を考えるのって、大事なんじゃないかなぁって。他人は変えず、自分が変わる。廣岡さんは周りを変える、という文脈で話していましたが、実際は廣岡さんが変わっているのではないかとも思いました。連鎖的に周りも変わっているかもしれないけど、初めは廣岡さんが変わるための空間を考えているのかなと。
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編集:金森あかね、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)