第7夜・自らも作る建築家 TOPIC1|自らの手で作ることによる発見(廣岡周平さん/PERSHIMMON HILLS architects)
©PERSIMMON HILLS architects
僕らは施工ボーイズという自らの手でつくるという部活動を行っています。もとは僕は中古住宅を購入して自分で住みながら改修して誰かに貸す、というモデルの「ヤドカリプロジェクト」を思いつき、コストカットのため、自主施工することをえらびました。このプロジェクトでは、建築・都市的思考を持った良い街を作り出そうという大家が増えて行くことが重要だと考えていて、建築家が大家になって、ローコストで住宅を生み出し、街に投資するようになれば、もっと凄い街になると考えています。
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住みながら作る面白さ|窓回居
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まず、川崎で自宅をベースに実践をしました。ここは未接道の土地に建つ、路地の奥にある改修が重ねられた窓の多い住宅です。元々1枚もなかった耐力壁を中央の壁に集めるように作ることで、特徴的な窓を保存しました。
桟木のルーバーが空間を仕切っていますが、桟木はルーバーとしてだけでなく、構造耐力を補強したり、フックを掛けたり、棚板を挟んだりと、様々な用途が生まれる装置としても機能します。ここで用いた材料は全てホームセンターやインターネットで購入できるものです。このプロジェクトを通して、自主施工が金銭面でも気軽にできるということ、そしてディテールを考えながら進めることの面白さを実感しました。
より身近な自主施工を目指して|羽曳野の光井戸
続いて、実家の改修を手掛けました。
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敷地がある大阪では、1970年頃から長屋を参考に戸建化した建売住宅の開発が進みました。今回の住宅もそんな条件下のもので、間口3.6m、奥行き10m程の構成となっています。大阪のこのような開発は、京都や奈良の町屋のように坪庭などを設けていない上に、横に窓が無い構成のため、屋内が暗いという共通の課題があります。また、階段が急勾配で、高齢者が2階を頻繁に利用するのは少々厳しいです。
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ここには母と妹が暮らしており、今後、高齢の母が1人でも暮らせるように、平屋として暮らせるよう改修しました。
生活の中心となる広く白いホールを1階の中心に設けます。その周りにキッチンや玄関、寝室を設け、2階は将来家から出ていく可能性のある妹の部屋と息子家族が止まりに来た時の寝室ともなる屋根裏としました。奥に行くほど光が差し込まれなかった状態を解消するため、ホールの上部の2階床を開閉式にしました。床を開けると、ホールが2階の窓から光を取り込んだ明るい空間になり、閉じると2階を宿泊スペースとして使用することもできます。
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ここではいかに短期間で完成させることが課題だったため、施工にも工夫を凝らしました。初日10日間で大工さんに下準備をしてもらい、それから10日間で学生や大工見習を含めた施工ボーイズで集中的に作業をしてほぼ完成させ、残りの家具などはその後3週間ほどで、仕事で大阪に通っていたため、週末に訪れて作成しました。
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すべてが売り物であり、売り物で場をつくる|集落のホームセンター
続いて、羽曳野の光井戸で共に作業をした大工の「いとうともひさ」さんと実施した「Re Shimizuura Project」です。和歌山県の冷水浦という集落にある伊藤さんの自宅を人を呼び込む施設にする計画を手掛けました。
僕達は「すべてが売り物であり、売り物で場をつくる」というコンセプトを掲げました。いとうさんは仕事柄、沢山の建材や作品のストックを持っているため、それらを集めてホームセンターのようにできないかと考えたわけです。建材は売り物としてあると同時に家具としてディスプレイされています。
敷地全体に道を通し、物を作る場所と売る場所が一体となるような平面計画としました。また、ゲストハウスの様子を、道、そしてまちに展開しながら、色んな人々を呼び込む余剰を作ろうとしています。
このプロジェクトでは、実は私は企画のみを担当して現場監理もしておらず、いとうさんが図面を基に現場でディテールを決めながら施工をしており。このような関わり方も面白いと感じた事例でした。
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生活の中の素材を活用する|川崎区の生活場
現在、川崎区で2軒目の自邸を新たに計画しています。今回は諸事情あり、新築で行うことになったのですが、まずは街として川崎区がどう面白いのかを紹介します。
川崎の、放射線状に道が延びた三差路や、増築や改築を繰り返したいびつな建物があるところ、また、工場など産業のスケールや超大規模マンションなど様々なスケールが混在するところを魅力的に感じ、それらの状況を引き受けたような住宅を目指しました。
ここで僕がやろうとしていることは、生活の中の素材を活用するということです。今までは売っているものをどう組み立てるか考えていたのですが、何で組み立てるか、ということに立ち返って考え直そうと思いました。普段私たちが物に囲まれて生活している中で、ゴミになっていく生ごみや空き缶、裏紙などを積極的に利用することで、住宅の在り方が変わるのではないかと考えています。
同じ川崎区内の住宅でも、スーパーのレジのかごが植木鉢になっていたり、どこからか拾ってきたような物で外壁ができていたりと、都市の中でも野性的にものを見ている人がいることにも感銘を受けてこの建築を計画しました。工作的なことの積み重ねで物質は出来上がります。この工作的なことをもっと生業とか暮らし方、普段の生活といったものから考えることで、建築としての物質化のあり方への探求ができるのではないかと考えています。お金を中心に回っている都会の生活から抜け出せるのではないかとも思っています。
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編集:伊藤萌、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)