第12夜 建築家と構造家の間の議論|全体ディスカッション
この記事は、よなよなzoom#12:構造家と建築家の間の議論(2020年11月13日)で、ディスカッションされたものを編集しています。
よなよなzoom#12:構造家と建築家の間の議論
廣岡:みなさんこんばんは。今日のテーマは「構造家と建築家の間の議論」です。よなよなzoomは週末の夜中に建築家などのクリエイターが集まって議論する勉強会です。普段のシンポジウムよりも長い時間議論することで、発表する人を中心にたくさんの気づきをもたらしたいと思っています。
今回の形式は今までとは少し違っています。9/5の公務員会を行った時に設計者と発注者による二人の掛け合いのプレゼンに気づきが多かったのを参考に、構造家と建築家の掛け合いから学ぶ会にできればと。
今日のプレゼンテーターは、
円酒昂さん+佐々木翔さん・浜田晶則さん
金田泰裕さん+403architecture dajiba
です。
人類の経験をつくる構造(廣岡周平/PERSHIMONHILLS ARCHITECTS)
円酒昴さん(円酒構造設計)と浜田晶則(浜田晶則建築設計事務所)のコラボレーション作品
円酒昴さん(円酒構造設計)と佐々木翔(INTERMEDIA)のコラボレーション作品
金田さんと403architecture[dajiba]のコラボレーション
(以下、全体ディスカッション)
廣岡:さて、ここからは全体のディスカッションに移っていきたいと思います。
お二人とも、佐々木睦朗さんからの影響も大きいのかな、と思いました。円酒さんは金田さんのプレゼンテーションをどうお考えでしょうか?
円酒:そもそも事務所が従妹同士みたいなものなので、昔から知っていましたので、やはり金田さんは言語化を大事にされている、という印象があります。僕は打ち合わせの中でのスケッチや雑談で決めていくことが多いので、その違いはありますね。あとは金田さんは大事にされていることは建築のすごく繊細な部分で、僕は建築じゃない人にも分かりやすいものにしたいなとある程度大雑把になっていて、そういう繊細な部分は疎かにしているところはありますね。
金田:そもそものベースはやはり近いですが、そこから先は個人の設計に対する態度が出てくるところですよね。僕の場合は、やはり抽象的なところから固めていって、その後初めて構造エンジニアリングのことを考えるということを意識しています。もう少し構造設計と向き合えているところが、円酒さんの良いとことですよね。すごく簡単な力学で説明できる構造計画をされているのが印象です。かなりハッとさせられるプロジェクトもあり、同世代でここまで構造設計に対して志というか、熱量を持って進んでいる方は稀有だと思いますし、共感しています。
廣岡:建築家の皆さんはどうですか?
辻:単純に、他の建築家が金田さんとどういうやり取りをしているのか、と新鮮な驚きもあり面白かったです。僕は似ているところも多く感じました。浜田さんであれば構造に意見を求めるタイミング、佐々木さんであれば地域性に対するアプローチといった部分ですね。違うところは、構造的に成立させる、ということに対する考え方の違いでしょうか。金田さんとのコミュニケーションに、明確な目標を持たせるというよりは、全然違う提案に育つというか、そういう展開を期待している部分もあるのが、違いかもしれませんね。
橋本:金田さんからは、なぜこれはこう在るのか?みたいなことをよく聞かれますね。
金田:僕はよく問いかけます。こういう形だったらありうる、という可能性を探りたいんです。どこに面白さを見出しているのか、建築家も整理しきれていない部分もあると思います。そこを問いかけることを通して、何か説明できるものにしていく、という意図で質問をします。
工藤:金田さんはARUPの金田充弘さんとどこか似ている気がします。あとは、お二人の師匠の佐々木睦朗さんは、こうだ、と、強い構造の形式を提案くださる印象があります。
円酒:確かに佐々木先生は強い哲学をお持ちですね。でも、そこで、食いついてくる人を求めている部分もあると思います。
工藤:なるほど。僕はまだ食いつけなかったな。でも、構造家によってスタンスは違いますし、意匠と設計にはどういうバランスがいいのか、難しいですよね。
廣岡:他の方のプレゼンを聞いて浜田さんはどうでしょうか。
浜田:金田さんのお話を聞いていて、禅問答のような感覚でした。笑。ひとつひとつの意味を深く考える姿勢がとても特徴的でした。あとは、そうですね。僕も打ち合わせのために準備をしっかりとしないこともないんですが、すぐに円酒さんに電話して聞いていることがよくあります。断面寸法をすぐ聞き出すとか、スピーディーなやり取りはあります。
彌田:我々もなるべく早く断面寸法を聞き出そうとはしています。でも日本から距離をとられてしまっているので。笑。あと、我々もすごく準備するのは最初だけですね。円酒さんも建築を一緒に作り上げるというスタンスでやられており、そこは、共通していますよね。そういう意味では違いを見いだす方が難しかったです。工藤さんの指摘を受けて恵まれた環境だな、と思いましたが、他の構造家の方はどんな感じなのでしょうか。
円酒:構造家の作品は、すごく性格が出てきますよね。やっぱり、その建築を見た時にその構造家っぽいなぁ、と思いますよ。
廣岡:佐々木さんは色々な方とのやり取りを経験されていると思うのですが、どうでしょうか。
佐々木:金田さんも403も、言語化をしながら物事を考えていくのかな、と思っていましたが、そうでありつつも、でも、どこか似ているな、と思いました。境遇が違うからモノに違いはありますし、言語化の程度の差異もありますが、今の時代に必要なものは何かを探求している点は共通しているなと思いました。
とはいえ、403と金田さんは、本当に、物事の成り立ちを緻密に考えている点は、すごいなぁ、と。金田さんは、他の建築家ともこういう緻密なやり取りをやられているのでしょうか?
金田:もちろん、建築家によって関わり方は全く違います。人間と人間の関係なので、本当に色々ですね。でも、度合いとしては、403は濃いめに、ものすごく議論してやっている方かなぁ、と思います。建築家に強いイメージがあったりする場合は、そこからどういう風に解釈していくのか、話を聞きながら、そこに存在する不合理などを知るために、やはり質問しますね。帰ってくる言葉のチョイスや空気で、絶対にそうでなきゃいけないものなのか、そうではないか、などを探ります。そこから仮定断面を出すときに修正したりしますね。そういう強い形態をイメージするタイプの建築家でも、プロジェクトによっては長い時間の相談の電話をする場合もあります。
批評的な態度はベースにあり、価値づけするにはどうすればいいのかを自分の中で整理しながら喋っている感じです。
廣岡:建築家はどのタイミングで相談するのがいいでしょうか?カチッと決まっている方がいいのでしょうか?それとも早い方がいいのでしょうか?
金田:もっと早く相談してほしい、という状況はありますよ。次回からはもっと早く聞いてくださいね、ということもありますし、設計期間を伸ばすこともあります。
円酒:僕はどっちでもいいですけど、設計時間は長いほうがありがたいです。
廣岡:建築家は、どこか相談する際に、気合が入っちゃう部分はありますよね。
橋本:僕らは3人のチームでやっているので、言葉にしてやり取りする時間がそもそも長い。基本的に金田さんに持っていくのは、ある程度言語化に耐えられたものになります。
工藤:例えば、僕だったら403の駐車場プロジェクトでも、どうやって合理的に作れますか?とかを早い段階で聞くかなぁ、と思います。
辻:確かに人数の違いは大きいですよね。
浜田:僕は割と形が決まってますね。どっちが構築物を作り上げたい欲望が強いのか、空間が作るのが好きか、という違いかな、とも。僕はどこか構築物が好きなんですよね。笑。だから考えたくなります。
廣岡:僕の相方も浜田さんと同じようなタイプです。僕はふわっとした感じなのですが。笑。同じ事務所でも全く違うアプローチですね。複数人数の事務所は、各々が何が好きかを持つので、建築家のチーム内で齟齬があると議論が発生します。そういう意味で、そこを引き戻す構造家の力というか、建築家間の議論にまで介入する金田さんはすごいですよね。他にもすごい構造家にはそれを飛び越えて別の案に飛んでいく構造家がいますが、それら昔から連綿と続くすごい構造家とは違う、新しい構造家の凄さだと思います。
辻:あとは、金田さんとの関係でいうと、文章ベースで、誤読も含めて思考が進んでいく感覚があります。ほとんど電話もしませんし。
浜田:あの構造と文章のやり取り。あれは手紙ですよね。笑。
辻:あれはテンションが上がるんですよ。笑。
彌田:テストの回答みたいなね。笑。
工藤:金田さんはどういう風にスタッフとやり取りをしているのでしょうか?難しいプロジェクトの管理は難しそうです。
金田:もともとほぼリモートで行なっています。スタッフは日本にいるので、スタッフとのコミュニケーションはかなり密に連絡を取っていますね。現場始まったら電話したり、っていうのもあります。これから、現場が大きくなっていったら、現場にいく機会も増えるかと思います。
浜田:コラボレーションするときに、できるだけコミュニケーションでの摩擦みたいなものを減らしたいんですよね。なるべく同じチームで継続すると、信頼関係も築かれますし、阿吽の呼吸が出来上がっていきます。
廣岡:僕はすごく浮気をしてしまうんですよ。笑。色々な構造家がいらっしゃいますし、プロジェクトによって、こういう建築だったらこういう構造家だな、とお願いしています。みなさんはある種の信頼関係の中で全てをやっているというのは面白いな、と思う反面、ある種のレッテルを貼ってしまっている部分もあるなと認識しました。でも、その作業を通して、構造の考え方などを自分自身、捉えている部分もあります。
円酒:聞いていて思った共通点ですが、多分、人と喋るのとか言語化するのが好きなことだと。構造家の中には、人と話すのが好きではない、得意ではない人もいますしね。
廣岡:403は学生の頃から知っていますが、金田さんとのやり取りは3人にとってすごく理想的ですよね。
橋本:僕らは執拗に質問してくる人が好きなのかもしれません。笑。構造家というのは構造的なアイデアをいろいろと自発的に出してくれる人というイメージがあったのですが、金田さんは勝手にポンポン出してはくれません。まずは質問に答えないといけないので。笑。今回のプロジェクトにおける「構造」とは何か、みたいな議論を通して最善解が見えてくるわけです。そんな進め方というか、どうすればかみ合うかというのが長く付き合ってきてわかったところはありますね。
あとは、やはり建築で最も重要なのは構造だと思っています。おもしろい建築にはしかるべき構造がそこにあると素朴に信じています。そこを信頼できる人とやれているというのは、非常に重要なことではないでしょうか。
廣岡:こないだ辻くんと話したんですが、ともすると、金田さんが意匠のコンセプトを決めている部分もあるんですね。笑。
橋本:基本メタ合戦ですね。笑。
辻:メタ合戦というか、プロジェクトの勘所を一緒に探っている感じですね。笑。
金田:笑。
辻:だから、構造と意匠はほぼ一体ですね。例えば、意匠的にこの部分をずらしたい、という些細な変更でも、構造的に成立するのか、意匠的な意味はなんなのか、という議論の投げ合いを経て決定していくような感じです。
廣岡:そういう意匠と構造の合致は円酒さんとのプロジェクトでも感じます。ある種の潔さにおおー、ってなることも多いです。意匠と構造が揺れ動く瞬間というか。それは佐々木さんの重ね梁とか浜田さんの扁平柱なんかもそうなんじゃないかな、と思いました。
佐々木:円酒さんも、金田さんと別のアプローチで、意匠と構造の垣根がないのを考えている気がします。例えば、どんな人がくるのか、とか、ビジネスが成立しているのか、みたいな。構造と全然関係ないところにも興味を持って、そこから構造の提案が現れることもあります。
浜田:あとは円酒さんは、建設コストをすごく気にかけてくれるのはありがたいです。笑
佐々木:それすごくあります。
円酒:僕はプロジェクトを達成させたいんです。予算が合わないと施主の心が折れることもありますし、お金で無くなるプロジェクトも多少なりともあります。できた後に事業に失敗して壊されるのも嫌なので、建築のソフト面にも興味があります。現場で嫌われるのも嫌なので、現場の空気をみて、VE案を出して調整もしますね。
廣岡:そろそろ25時になってしまうので、そろそろまとめますね。僕が想定していた構造家との関わりかた以上の学びが多かったです。すごかった。今回は建築家がすごく聞いていてですね。それもおもしかった。
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編集:中井勇気、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)