第8夜 ローカル楽しんでいる建築家#1 後藤周平

私は静岡県磐田市で設計事務所を構えています。磐田は東京-京都間のちょうど真ん中辺りに位置する、人口13万人くらいの地方都市で、有名どころとしてはサッカーのジュビロ磐田の本拠地になっています。駅前はバブル期に建てた再開発ビルが閑散として活気を失っているような状況なのですが、最近、そんな駅前に中古物件を購入し、事務所を移そうと改修の設計をしているところです。地元の建築家が設計したらしい2階建のRC造で、既存建物の図面起こしをしていると色々なところで黄金比や1:1プロポーションが現れる、興味深い建築です。これについてはまたいつかご紹介できればと思います。

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さて、本日は神戸と浜松の住宅、オフィスのインテリアの3作品を紹介します。

平面・断面方向のずれが織りなす空間の抜け|公園に暮らす家

 まずは神戸の「公園に暮らす家」からです。敷地正面にある公園の良好な環境を住宅に取り込むような意図で設計しました。

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間口5m、奥行き27mくらいの敷地で、ベランダや庭、駐車場スペースを確保しつつ、長手方向に大小2分割した長方形平面で建築を構成しています。

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小さな長方形に設備系を配置し、大きな長方形が玄関から公園までの抜けを有するような建築となっています。平面的にも断面的にもズレを作ることにより、水平方向の抜けと、断面方向の抜けが同時に現れてきます。

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2層分の吹き抜けを持つ大きな半屋外空間も特徴のひとつです。2階のベランダから視線が抜けます。


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続いて、浜松の「段丘の家」です。

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周囲の地形を取り込むことを意図しています。
敷地は、河岸段丘になっているエリアに立地しています。敷地周辺も小さな起伏があるような地形が続き、それを雛壇状に造成した土地が並んでいます。周辺環境としての地形の段が建物の中にまで連続していくような建築を考えました。

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壇上の地形で、間口方向に3つに分割した建築が、断面的にもずれていくような構成です。神戸の「公園に暮らす家」と同じく、平面的なズレと断面的なズレが同時に起きるような建築になっています。視線が抜け、同時にいろんな状況が発生するような内部空間です。

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立体的なオフィス空間|CODO

最後に、静岡のCODO という、オフィスのインテリアを紹介します。鈴与というJリーグの清水エスパルスをグループ内に持つ物流会社の本社最上階にある講堂を社内で自由に使えるワークスペースに転用したものです。東京のロフトワークという会社がプロデュース、プロジェクトマネジメントとして協働したプロジェクトです。

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実はこれ、ジュビロ磐田のお膝元にいる自分にとっては、ちょっとドキドキする案件だったんです。静岡やサッカーに縁のない方にはわかりにくいかもしれませんが、清水エスパルスの本拠地に磐田から行くのは、ライバルの応援席最前列に一人でいくようなもので非常に緊張したのですが、お施主さんはそんな意識はなく、暖かく迎え入れてくださいました。笑
既存の講堂の天井高は3mくらいだったのですが、天井を開けてみると天井高が1.5倍くらいの空間になりました。その高さを活かして、建築と家具の間のスケールの箱のような床のようなものを積んでいき、高いところや低いところなど、いろいろな場所を作っていきました。

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床の高さの変化や、テキスタイルデザイナーの森山茜さんと協働したグラデーショナルに色が変化するカーテンで、ワンフロアの空間に様々な居場所を作っています。箱の内部は、地域の防災拠点となるこの空間の備蓄倉庫や、電話ボックスになってい
ます。

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ここでは、立体的に働けるようなワークスペースをつくりました。視線がずれることで仕事の効率を上げたり、周りを気にせず休憩ができたり。そういった日常的な利用・いわゆるケの利用に加え、イベント時、つまりハレの日には、段自体が客席やステージになります。

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(以下ディスカッション)


廣岡|ズレというものが建築の多様性を生んでいて、同時に外部空間との応答でズレを位置付けている姿が素晴らしいですね。あとはプロポーションの美しさがすごいです。その辺は意識的なんでしょうか?模型写真が表現的なのも面白いですね。同時に、視界が斜めに抜けていくような、ある種、モンドリアン的な内部空間があるのも、作品を見に行った時に感じた空間の面白さでした。

後藤|自分ができているかはともかく、プロポーションがよければそれだけでいい、という気持ちはどこかにあるかもしれません。また、先に建築を学んでいた兄の影響で、初めて見た建築家の作品集はPeter Markliというスイスの建築家のものでした。プロポーションやファサードへの興味はその影響が大きいかもしれません。自分自身、正面性みたいなものを意識している面はあると思います。竣工写真や模型写真でも正面からのアングル、それもアイレベルではなく建物の高さの真ん中辺りからの写真が多いのも特徴みたいで、写真家の長谷川健太さんからも指摘されたことがあります。

工藤|色々聞きたいことはあるのですが、4つ、気になる点を聞かせて下さい。1つは修行先である中山英之建築設計事務所の影響です。2つ目は、内部の快適性と、外部との距離感。3つ目は静岡という比較的温暖な気候への回答。最後に、構造的な回答と意匠的な表現について。

後藤|中山事務所の影響はそこまで自覚的ではないですが、スケール感などいろいろな影響があると思います。外部と地域性については、確かに静岡の温暖さはテーマとしてありますね。同時に強い風など地域特有の問題もあり、外部に開くことの難しさも感じています。ファサードに対する興味と外部空間、さらに構造体との連続性は今後のテーマかなと思っています。それらのバランスを取ることも難しいですよね。あと、僕は大学時代、岸和郎先生に教わったんです。岸先生は、京都や大阪の狭小な町家の敷地での自身の設計に対して、「どこかで人間スケールを超えた空間がないといたたまれない」というようなことを仰っていました。狭い敷地に対して高い天井によって空間的にバランスを取る、という意識はその影響からきているのではないかとも思います。

廣岡|同時に、平面的に間口を割る構成に新規性が見られるし、それでいて、2階や内部空間を広々と作るという建築の構成は斬新だと感じました。
話は積もりますが、続いて、宮城島さんのレクチャーに進んでいければと思います。

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編集:佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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