第2夜 地方楽しんでる建築家 TOPIC1|Between Figure and Ground 図と地の間(佐々木翔さん/INTERMEDIA)
この記事は、よなよなzoom#2 「地方楽しんでる建築家(2020年4月11日)」でのプレゼン内容です。
よろしくお願いします。
1984年に長崎県島原市に生まれて今年で35歳になります。九州工科大学を卒業して、2009年から2014年まで東京のSUEP.という事務所にいて、廣岡さんは1年後輩になります。
2015年に島原に帰ってきて5年程経ったところです。
島原の自然と暮らし
島原は地形が入り組む長崎の中の、熊本に面する側にあり、九州の中でも有明海に面した内海の穏やかな場所です。
島原は、30年くらい前に噴火した雲仙・普賢岳という山があって、その山の恵みを受けて大地が広がっているような場所です。自然の広大な風景と田園風景が広がっていて、夏になると田んぼに水がはって美しい風景が見られます。
仕事は、農村地域の中にある本社オフィスと、歴史的な街並みの中にある武家屋敷オフィスの二拠点があり、建築家の父と親子2人でやっています。基本的に本社の方に父がいて、武家屋敷オフィスの方に僕がいますが、スタッフ含め全員が自由に行き来できます。
©︎INTERMEDIA
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島原は湧き水が多く湧いていて、この武家屋敷オフィスの敷地内でも3箇所湧いています。麦茶を湧き水で冷やしてお昼に飲んだりしています。
あと、有明海は遠浅なので、スタッフと貝とりに行ってオフィスで一緒に貝を食べたり、スタッフが捌いてくれた刺身をみんなで食べたりしています。あとは水が湧いているので、そうめんが美味しいです。
これは僕の大学の恩師の1人である土居義岳先生に教えて頂いたことですが、「フランクロイドライトはタリアセンで弟子と一緒に暮らして、そこでみんなでまとまって建築の議論をして、地方の牧歌的なところで建築を生み出していった」という話をされていました。地方にいると、スタッフや事務所が周りにないのもあって、スタッフとみんなで何がいいのか、何が面白いのかと、日々話しながらこもってやっている感じがラボ的だなと思っていて、タリアセンの話に近いものを感じています。
さて、ここからは実作の話を進めていきますね。
湧水場|湧水と土間床の家
2018年に竣工した、島原で建てた住宅です。
先ほども紹介した島原の湧水に着目しました。湧水は、昔は至るところに湧水場があって、野菜を洗ったり、食器洗ったりと、人々のコミュニティの場になっていました。
©︎INTERMEDIA
この敷地の角にも湧水が湧いていたことから、この湧水をうまく使えるように計画しました。まずは薄い排水側溝を奥に配置して、ずっと水が流れる小さな小川のようにしました。次に、昔からある湧水場の堰と溜まりのようなディティールを参考に、外構に堰を入れる場所を作って、小さな溜まり場で野菜洗ったり、子どもが足を洗ったりする場所にしました。
そして、南側の庭は大きく溜めて、打ち水のように家の中に涼しい風が入るようにしました。水は流しきることができるので、衛生面でも安心です。
©︎中村絵
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©︎中村絵
基壇地形の改修
諫早という隣町で2019年に竣工した作品です。もともと予算が少ないうえに竣工までの期間が短かったため、はじめは既存建物を改修する予定でした。しかし内部を解体すると、柱が梁と離れていて、楔で留めて辛うじてつながっているような状態でした。これをみた瞬間に改修を諦めて、計画を練り直しました。
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9ヶ月くらいで竣工させるのに必要な構法を検討するとともに、基壇のあり方に可能性を感じました。この敷地の真ん中には1.2mの段差がありました。敷地周辺の地形の歴史を調べると、もともとなだらかな場所がだんだんと造成をされて、人々の営みの場所に変わっていったということが分かりました。基壇と建物がそれぞれ切り離された関係ではなくて、建物と地形が入り混じるというか、どこまでも続いていくような関係をつくろうと計画しました。
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基壇によって生まれている溜まりの空間をミーティングスペースとして、その上にオフィスがあります。それらを内包するように、基壇のレベル差に合わせ断面的に屋根を下げています。
©︎中村絵
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地形と営みと建築の関係|長崎の地形
ここ4年間くらい、ただ目の前の作品を作り続けてきましたが、諫早の基壇は、自分がどういうことしたいのか、改めて振り返るいい機会にもなりました。斜面地の多さが特徴的な長崎。それをどのように考えるのかを整理しようと思いました。
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例えば、なだらかな地形の場合は水平面を大きくとって出来る限り簡単に造成をして棚田が生まれていくということが古くからの農業の営みとしてあったと思います。
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逆に急傾斜の地形の場合、少しずつ平場を作っていって、そこに果樹を植えると、段差が十分あるので光が根元まで行き渡って果樹園が広がる、という営みがなされます。
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このように、地形がその形だから「こそ」、こういう営みをしようという、主従関係が無い状態が重要な気がしています。つまり、本来の地形と人の対峙の仕方なんじゃないかなと考えています。
現在は長崎でも、斜面地を出来る限り敷地をフラットにして、不動産としての利用価値を最大限化する、大きな法面が奥の方に生まれる開発が多く見られます。でも、それはもともとの営みとか地形と建築の関係と完全に切り離されているというか、どの場所でもいい建築の作り方をしているのではないかと思っています。
色々考えて、最近では、かつてのような、地形と使い方で折り合いをつけた場が相応しいと思うようになりました。例えば長崎だと、階段に沿ってもともと棚田だった場所に家が建つ、という関係を、新築やリノベーションでも生み出せないかということを考えています。
地面のレベル差|基壇地形の竪穴
これは現在進めている案件です。長崎は平場が少なく埋め立てちが多いのですが、敷地の歴史を辿るとこの敷地周辺も海岸線がだんだんと埋め立てられ内陸になった場所であることが分かりました。この敷地は、主要道に合わせられた土地のレベルと、かつての土地のレベルにギャップがあり、それをうまく生かせた建築を作れないかなと計画しました。
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敷地内の1.2mのレベル差をもともとあった地形のレベルまで掘り下げて居場所を作っています。更に、屋根が地形に対して下りていくような断面計画にしましたが、残念ながら、このプロジェクトはコロナもあってとまってしまっています。
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微高地|長崎のカステラ工場
次は現在進行中のカステラ工場です。敷地は諫早市で、基壇地形の改修から山一つ越えてまた違う海の側にあります。諫早市は山間に囲まれた田園風景が広がっていますが、敷地のすぐ周りは住宅群やアパート、消防署、公民館、あとは葬祭場があって牧歌的かといえば割と人為的だったりするような、なんとも言えない場所です。
当初はカステラ工場をつくる予定でしたが、工場をやるには見込んでいたよりもお金がかかることがわかってきて、半年前に施主から、工場を作ることはやめて何か新しい小規模の新拠点施設のような場所に切り替えたいということを言われました。今、必死で練り直しています。
そこで、改めてもう一度敷地を見ると、山側と海側で2m近くのレベル差があって、敷地自体は造成されていますが、なだらかに下がっていく地形になっています。
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この地形をうまく生かすために、まず駐車場のための切土をして、さらに広場を作るために中央にも切土をしました。そうして生まれた土を広場の周囲に盛り、そこに埋まるようにショップとカフェ、そして道路側には新しいカステラ商品を生み出し、地域の接点となるラボをおいて、全体が地形そのものみたいな場所となるように計画をしています。
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敷地の外周部のレベルは変えずに真ん中だけ盛り上げるので、元々の地形のままズルズルと繋がっているような感じをイメージしています。
廣岡|ありがとうございます。続いて、小野さんにプレゼンしていただきます。よろしくお願いします。
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編集:伊藤萌、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)