第9夜 TOPIC 4|クリエイションが持続するガバナンス(能作淳平/ノウサクジュンペイアーキテクツ)

独立して仕事を進めるうちに、「プロセス」を語った方がいいのではないか、と思うようになりました。プロセスを優先すると、クライアントや地域という環境に左右されやすい傾向があり、自分の主張を抑えるような部分は少なからずあると思います。作品づくりにおいて、「地域性」と「個性」は対立し合うような印象がありますが、地域に根付く「地域性」と「個性」はそもそも位相が違うものなので、本当は対立軸になりえない。大切なのは「どうクリエイションを持続させるか」。つまり、クリエイティブな状況が持続することではないでしょうか。

大学時代は、近代的な社会の要求を分解しながら図面を書いていくというような時間だったように思います。一方で、実社会では、もう少し広域で建築を捉える必要があります。地域性の範囲は学生時代に捉えていたよりもずっと広いし、近代産業の範囲への挑戦も必要になってきます。
また、新築とリノベーション、保存を等価に扱うというか、一連で捉えることの重要性も感じています。完成後の可変性を考慮した新築のプロジェクト、建っていたものを移動させたリノベーションプロジェクト、廃材の再利用など、多様な時間軸を意識して設計に携わっているのが僕の特徴だと思います。

画像1©ノウサクジュンペイアーキテクツ


プロセスをデザインする|ショウワノート高岡工場 2018

敷地は、片流れの建物のなかにジャポニカ学習帳のノートを作る生産ラインが入っていて、その周りに倉庫やオフィスが増改築されている建物です。リニューアル工事はしたいけど生産ラインは止めてはいけない、という難しい設計条件でした。
「Stewart Brand:How Building Learn」の目次に興味深い3つの表現があるのですが、The Low Road:誰も気にしない建物/ The High Road:誇り高い建物 / No Road:建築雑誌的建物と定義されています。そして、これは自分なりの解釈ですが、ショウワノート高岡工場は、The Low RoadをThe High Roadにするような計画だと。

画像2©ノウサクジュンペイアーキテクツ

昭和40年当初は、縦長の工場に3つボリュームが付いているというわかりやすい構成のものでした。そこから増改築していったのですが、平成27年に背後に北陸新幹線が通ったことで立体倉庫が景観条例に引っかかるところからプロジェクトがスタートしました。

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画像4©ノウサクジュンペイアーキテクツ

既存の工場自体は残さないといけないので、一番右の片流れのボリュームを連続させる設計を採用しました。この工場は、生産拠点であると同時に発信拠点にもリニューアルしたいという計画のため、鋸屋根が連続したアイコニックな建築を作りました。このようなアイコニックな新築をつくると街に痛々しい影響を与えてしまうこともありますが、創業者の建物を解釈することで、昔から佇んでいるような建築になっていると思います。

画像5©KentaHasegawa

プロセスには続きがある|さんごさん/2017

プロセスには当然続きがあります。プロジェクトによって引き渡しで終わるものがあれば、そうでないものもあります。それに気づかされたのが「さんごさん」というプロジェクトです。
敷地は長崎県の五島列島にある福江島。かつてはさんご漁で栄えた島も今では過疎化が進み、島特有の技術や産業も少しずつ見られなくなっています。一方で、島の第一印象は3万7千人という人口でサイズ感がよく、モノが淘汰されずに残っている地域な気がしています。一方で、それらをメンテナンスする技術は消えかかっているのが現状です。
この建物のオーナーは普段東京に住んでいるので、別荘として使うだけでなく、地元の方にも使って欲しいという要望を持っていました。地元の方々にヒアリングすると、地域の図書館が閉まったこと、島にはサードプレイスがないということなどがわかり、築80年の民家を図書館にするプロジェクトの骨子が決まりました。

画像6©新建築社写真部

このプロジェクトでは、島にあるモノや、その作り方の組み合わせ自体を変えることで、建築を構成できないかと挑戦しています。間取りに大きな変更はなく、ここでは主にマテリアルの話をしています。サンゴを使ったテラゾー、溶岩を再利用した土間の作り方、周辺の民家に使用されている赤色の外壁など、島のモノを読み解き再構成しました。
このプロジェクトでは、だんだんと新しいプロジェクトが生まれていく経験をしたのが印象的でした。コーヒーブランド、アクセサリーなど、さんごさんができたことを通して、いろいろな人と関わり、新しいモノをどんどん作っていく連鎖が続いていったんです。この経験はとても大きく、なぜこのようなことが生まれるのかを考えました。
一般的な建築設計はユーザーからの要求がありそれをデザインで返すという、つまり「オーダー型」です。

画像7©ノウサクジュンペイアーキテクツ

一方で、僕がさんごさんで実践したこと、そして富士見台トンネルで試みようとしていることは、「プロジェクト型」と呼べるのではないかと考えています。アーキテクトやデザイナーの他に、地域を知るためのリサーチを重ねてストーリーを構築するリサーチャー・ディレクターが入ることに特徴があります。建築物だけをアウトプットになるのではなく、ストーリーとアンサーとしてのコンテンツが少しずつ蓄積することで、ぐるぐるとプロジェクトが進んでいくようなものです。

画像8©ノウサクジュンペイアーキテクツ

プロジェクト型の実践|シェア商店富士見台トンネル
最後に紹介するプロジェクトは、「富士見台トンネル」です。こちらは僕のオフィスでもあり、シェアする商店スペースでもある場所づくりです。主婦さんや高齢者が多く住む郊外の団地の商店街では、いろいろなスキルを持っている人が多いのですが、子育てや介護によって、自分たちのスキルを発揮することができません。そこで、週1回、月1回からお店を開けるシェアスペースをつくることにしました。内部空間としてはひと繋がりのテーブルを真ん中に配置しています。奥の方は事務所、手前はレジや物販、真ん中はキッチンとして使われています。一つのテーブルを連続させることで、色々な人がこの場所でいろんな仕事をする感覚になります。ここでもさまざまなスキルが集まり、どんどん新たなプロジェクトが生まれています。

画像9©新建築社写真部

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編集:中井勇気、佐藤布武(名城大学佐藤布武研究室)

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