名探偵よんしかの理想と現実
理想通りではない現実も、悪くない。
そしてまわり道をしたからこそ得られる果実もある。
たとえば、僕は先週初めて、ロートフィールドに参戦した。
理想は、爽やかな秋空の下でスタグルを楽しんでから気分よく観戦。
ところが現実は大雨、新幹線の遅延で前半25分にようやくロートフィールドに到着というもの。
でも、悪くない観戦体験だった。雨だからこそ奈良クラブに有利に働いた試合。濡れながら飛び跳ねる快感。雨上がり、難しい試合で勝ち点を拾った歓びとともに飲み干すビールは最高においしかった。
今シーズンの奈良クラブは理想と現実のはざまでもがき苦しんだ。その先に希望はあるのだろうか。今季の闘いぶりを振り返ってみたい。
【奈良クラブの2024シーズン】
・シーズン初期(第1戦~第10戦)
奈良クラブらしいサッカー/立ち込める不満
2024シーズン、奈良クラブは理想のポゼッションスタイルをより強固なものにするために、ハイラインハイプレスを志向した。エキサイティングで見ごたえがあり、奈良クラブの理想形を垣間見るようなゲーム。
しかし勝ちきれない。
チームにも、サポーター界隈にも、もしかしたらフロントにも、もやもやとした空気が立ち込めていたと思う。2023シーズンの好成績から高まっていた期待感とのギャップが大きい時期だった。
開幕10戦の結果は1勝5分4敗。満足はできない。
・シーズン中期(第11戦~第20戦)
疑似カウンター/結果と内容の間延び
リードしながら終盤に追いつかれる、逆転されるゲームが続いたことでチームは戦術をシフトする。自陣深くでボールをまわし、相手を食いつかせながら、手薄な前線のスペースへつなぐ「疑似カウンター」へ。
この期間の結果は3勝4分3敗。数字上は好成績。
しかし、内容はどうだったか。
ハメ技的に疑似カウンターが成功したこともあった。しかしキープ力やパススピードが思うように上がらず、ぎりぎりまで相手を食いつかせられない。中盤を経由する形の構築もできない。
そして「間延び」が生じた。
攻めたい前線とリスクケアしたい守備陣の思惑のずれも「間延び」に拍車をかけた。
中盤の人数負けが発生し、セカンドボールが拾えない。攻められ続けている印象の試合が続いた。
・シーズン後期(第21戦~第26戦)
持つのではなく持たされる/理想の崩壊
この期間は、1勝1分4敗だった。
お盆前21~23戦の内容は悪くなかった。特に琉球戦は、これぞ奈良クラブというゲームだった。
しかし盆明けに事態は急変。鳥取・北九州・今治との3戦で強いプレスへのもろさを露呈した。奈良クラブ攻略法として、「持たせて強い圧をかけ、高い位置で奪ってゴールに迫る」が確立された3ゲームだったと思う。
この3戦は、奈良クラブに自分たちでボールを動かしているのに「やるべきことをやっているのに勝てる気がしない」という混乱をもたらした。
このまま奈良クラブのやり方を続けても勝つことができない、そんな空気がチーム内外に漂った。
・シーズン終盤(第27戦~)
「らしさ」より残留?/現実or理想?
崖っぷちのクラブは決断を下す。フリアン監督から中田一三監督へ。そして攻撃的ポゼッションスタイルの4-3-3から、3CB/2ボランチの3-4-3(5-2-2-1)戦術へ。
「らしさよりも、アイデンティティよりも、とにかく残留」という決断に異論はない。奈良クラブの志向するサッカーを実現するには下部組織からの選手供給が不可欠だし、Jの舞台にいないと下部組織も先細る。だから何よりJリーグ残留が最優先。そう思っている。
この期間の結果は8分1敗。残留という現実に向き合った結果のように思える。
しかし、果たして本当に奈良クラブは「らしさ(アイデンティティ、あるいは理想)を放棄」したのだろうか。そうではないと思う。
今季のラスト3試合と
これからの奈良クラブ
【現実至上主義?】松本頼み
一見すると今の奈良クラブの戦術はディフェンスラインに重心がかかり、攻撃になると縦一本での松本選手頼み、と見える。まるで守備的でリアクション型戦術を志向するチームだ。ポゼッションを放棄するチームだ。
しかしシーズン全体と直近試合のプレーエリアを比較してみると、高い位置でプレーする機会は決して減っていない。むしろ直近の試合の方が増えている。
試合内容としても相手ゴール前に迫る回数こそ物足りないが、シーズン中期・後期と比較して高い位置で戦えていると感じているのは僕だけだろうか。
【奈良クラブの現実】ポゼッション率と奈良クラブ
はっきり言おう。奈良クラブにとってポゼッション型サッカーは勝ち筋ではなかった。あるいはポゼッションゲームの勝ち方を、まだ知らない。
実際に今シーズンの最高ポゼッション率は、大惨敗を喫した8月の今治戦。2023シーズンも15勝中11勝をポゼッション率50%未満のゲームで挙げている。
【現実から理想へ】現実の先にしか理想はない
奈良クラブ伝統の4-3-3システムはパスコースを多く確保するためのトライアングルをつくりやすいポゼッションスタイル向きの戦術だが、このシステムで勝ちきるにはいくつかの条件があると言われている。
1,攻守に大活躍する2人のインサイドハーフ
2,ウイングのドリブル力
3,即時奪回
しかし奈良クラブはラインが下がることでインサイドハーフが活躍しづらく、中盤が間延びするために即時奪回ができず、ウイングがドリブルを仕掛けようにも既に相手陣形が整っている、そんなゲームが多かった。2023シーズンも2024シーズンも。
ポゼッションサッカーに不可欠な「コンパクトな陣形」を保つための、こうしたプレーを継続することは、いまの奈良クラブにとって困難ということだ。
【現実のなかに見つめる理想】希望的観測ですよ
この現実を中田監督は理想の実現にむけて改革しようとしているのではないだろうか。
・松本選手にボールを集め、強制的に前向きにプレーする選手を増やす。
・松本選手の個人能力を活かしてラインを高く保つ
・人数を増やした中盤でのボール奪取で、相手陣形が整う前にウイング(今はシャドウ)がドリブルを仕掛ける状況をつくる
・ウイングのドリブルで混乱したアタッキングサードに駆け込む選手をつくる(讃岐戦の吉村選手のゴール、福島戦の神垣選手のゴール。いずれはインサイドハーフの役割に)。
・そうしたゲームメイクで、1対1でガツガツと負けない強さを選手から引き出す
それは、残留争いという現実に対して失点リスクを減らし勝ち点をしぶとく拾うことと、来シーズンにより奈良クラブらしさを追求し高めていくための布石を両立させるための戦術だ!、というのは期待しすぎだろうか。
【理想を追い続けた福島の現在地】うらやましい
福島ユナイテッドFCは強かった。強さの根源はシーズンを通して追い求めた自分たちのスタイルへの自信だろう。試合後の選手コメントにも、自分たちのスタイルへのこだわりと自信が満ち溢れている。
ボールを扱いづらいピッチの中、奈良クラブの選手がプレスをかけてもリスクを覚悟で自陣からつなごうとする福島DF陣。ピッチの状態を意識しながらドリブルの仕掛け場所・楔のパスの入れどころを探り続ける攻撃陣。
敵ながら拍手を送りたくなるほどあっぱれだった。
1年をかけて折れることなく理想を求め続けてきた結果だと思う。本当に素晴らしい。
苦難は理想のために
この日見た福島のように、来季の奈良クラブがシーズンを通して理想を追い、シーズン終盤には自分たちのサッカーに確固たる自信を深めて躍動する。そんな未来を願い、そのためにJ3残留という現実を乗り越えてくれることを信じて。
日曜日、相模原ギオンスタジアムで、あいましょう。
おしまい
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