「始発の会」 はらまさかず
人工クラゲの研究をしている沼水さんとぼくは、始発の会という会のメンバーです。といっても、会員は沼水さんとぼくだけ。
「そろそろ、やろうか」
と、どちらともなく誘い合い、始発電車に乗ります。
日曜日の朝、4時53分。
ぼくは下り方面の電車に乗ります。がらんとした車内。ぼくは、電車にのること自体を楽しみます。
五つほど、駅を過ぎて、
「やあ」
沼水さんが乗ってきました。
人のいない各駅停車に向かい合わせに座って、おたがい後ろの窓の向こうを眺めている。ただ、それだけ。
「この時間の空気って、どこにもないよね」
沼水さんがいいました。
「うん。まよなかの空気とも違う」
と、ぼく。
ぼくらは、朝6時になると、いったん駅をおりて、またすぐ反対側の電車に乗りこみ、もどります。
「ほら、もう空気がちがう」
沼水さんがいいました。
「うん、ちがう」
と、ぼく。
たったこれだけのことですが、始発の会の後は、なぜか心がすっきりします。