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「うたたね」 はらまさかず
お花の香りにつつまれて、女の子は舟にのっています。
ひらひら
ひらひらと、
花びらが舞いおちます。
「この辺に一本だけあるんですよ」
船頭さんがいいました。
ぎっちら、ぎっちら、
舟が進みます。
「この辺だったかなあ」
船頭さんはそう言って、桜並木を見上げます。
「一本だけ、もどるんです。それは、見事です」
風がさあっと吹いて、桜吹雪がさあっと、
女の子の顔を通りすぎました。
「あ、あそこだ」
船頭さんが指さす方を見ると、一本ぽつんと桜が浮かんでいました。
風がさあーっと吹いて、桜吹雪がさあーっ。
花びらは水面につくまえに、さあーっと枝にもどったのです。
さあーっ
さあああーっ
落ちた花びらは、また、枝にもどって、いつまでも満開の桜。
「うそね」
女の子が言いました。
「桜は散るからきれいなの」
女の子がそう言うと、
「バレちまいました」
と船頭さんが言って、女の子は目が覚めました。
(絵・カワダミドリ)