「タイムマシン」 はらまさかず
もっちゃんが寝る前、お父さんはいつものように絵本をよみおえると、
「ああ、もっちゃんとこうしてるのは、二度目の気がする」
と、いいました。
「この絵本、もうなんども読んでるから?」
もっちゃんが、ききます。
「いや、そうじゃなくて」
お父さんは絵本を閉じ、あおむけになると、
「なんっていったらいいかなあ。たとえばね」
といいました。
「うん」
「たとえば、お父さんはね、ほんとうは今、もう、おじいちゃんで。病院のベッドに寝てて。それで、神様がね、死ぬ前に一つねがいをかなえてくれるって。一番、楽しかった時に一度だけつれてってくれるって。それで、今ここにもどってきて、こんなふうに、もっちゃんと絵本を読んでるのかなあって。そんな気がするんだよ」
お父さんがそういうと、もっちゃんは、
「ふーん」
といって、お父さんと同じようにあおむけになりました。そして、
「でもさ、やっぱり、お父さんはベッドの上にはいないんじゃないかなあ」
といいました。
「どうして」
「だってね、お父さんがもう一度もどるとしたら、絵本を読んだ時じゃなくて、読んでもらった時だよ」
といいました。
お父さんがわらって、
「お父さん、子どもの時、絵本読んでもらわなかったもん」
というと、
もっちゃんが、
「ちがう、ちがう。
もっちゃんが大人になったら、お父さんに絵本を読んであげるもん。その時にもどるんだよ」
といいました。
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