「まねき猫」 はらまさかず
いつのまにか、2月もなかば。
時が過ぎ去るのは、早いですね。
久しぶりの喫茶ギンガ。
「マスター、なにこれ? いいねえ。
もしかしてマスターが書いたの? なーんて」
「ちがうちがう。あー、知らないんだ。これは、有名な先生が書いたんだよ」
「えっ、だれ?」
マスターは、わらっている。
なかなか立派な字だ。
力強くて、見ていると、なんだか元気がわいてくる。
「だれが書いたか。そこに書いてあるよ」
「どこに?」
「そこに」
目の前には、『大福』の文字。
「これを書いたのはね、大福っていう猫なんだよ。ここらでは有名だよ。たまに神社で字を書いてるんだ。もらいにいってみたら。おもしろい猫だよ。腕がつかれるのか、ぐるぐる回しながら書くんだけど、まるで招き猫みたいだよ」
「ふーん。
招き猫かあ」
ぼくは、もう一度、大福の字をながめました。
その字は、ぷっくり太って福々しく、見れば見るほど、いい字なのでした。
「よし、もらいにいってみよ」
ぼくは、大福の字が、ほしくてたまらなくなりました。
(喫茶ギンガ 第9話)