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「もっちゃんの いいところ」 はらまさかず

わたしも、いつのまにか50になった。
一人息子は就職し、家のローンも終わった。
だんなは、何でもできる人。
だからかな。やる気がでないというか、
お役御免というか、
そんな気持ち。

今の楽しみは、日記を読むこと。
誰の? 父の。
父はずっと日記をつけていた。
その名も、「もっちゃん日記」。
そう、わたしのことだけを記した日記。
わたしが生まれた日から、父は「もっちゃん日記」をつけはじめたらしい。
子どもの時、「どうして、書いてるの?」
と、きくと、父はいつも、
「タイムマシンが開発された時のためだよ」
と、冗談っぽくいった。
「もっちゃんが、泣いちゃったのはいつか、
 もっちゃんがかぜをひいたのはいつか、
 もっちゃんに困ったことがおきたのはいつか、
 書いておいたら、もっちゃんを助けに行けるからね」
「ふーん」

父がタイムマシンに乗って助けに来てくれたことはなかったが、
この日記は、今のわたしを大いに楽しませてくれている。
「ああ、おぼえてる。わたしが水たまりで転んだのは、この日なのね」
わたしは、思わず笑ってしまう。
それにしても父はなんと几帳面で、なんときれいな字を書く人だったのだろう。それらは少なくとも、私には遺伝していない。

わたしは、今夜も日記を読む。
日記は1年に1冊。わたしが結婚して家を出るまで、27冊もある。
まだまだ当分、楽しめる。
そんなある日、
15冊目を読んでいた時のことだった。
日記のなかに、1ページだけ、違うスタイルで書かれたものがあった。

1 まじめで頑張り屋さん
2 困っている人がいると助けようとする
3 人の気持ちを考えて話す
  (でも、気をつかいすぎないでね)
4 悪口をいわない
5 人をばかにしない
6 おいしいものを一人で食べない
7 やさしい

こんなことが、ぎっしり、
なんと100も書いてあった。
このページのタイトルは、
「もっちゃんの いいところ」

わたしは、何度も読み返す。
もっちゃんのいいところは、
今も、わたしに残ってる?
うん、
残ってる。
なぜか、涙があふれてくる。
お父さんがタイムマシンに乗って、
助けに来てくれた!

わたしは、明日、早起きしたくなった。


みぁばぁばさんによる朗読です ↑

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