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「扉」 はらまさかず

「ゆめおさんの家が見つかったけどね、一足おそかった」
ある日、沼水さんから電話がありました。
『ゆめおさん』と、ぼくらが呼んでいるのは、建築家の夢尾五郎のことです。
といっても彼のことを知っている人はほとんどいません。
趣味で建築家をしていた彼の家は、一見どれも普通だったので、彼の家の良さはあまり知られていないのでした。
「すぐいく」
ぼくは、指定の場所に行ってみました。

そこにあったのは、取り壊された家、
と、扉が一つ。
「これだけ?」
「うん」
 沼水さんは残念そうです。
「ねえ、この扉、あけてみて?」
沼水さんがいいました。
扉をあけるといったって、扉しかないので、むこう側もこっちと同じ。
でも、ぼくは扉をあけ、向こうに行きました。
すると。
「ね、なんか変でしょ」
「うん。たしかに。なんか、子どもになったような」
ぼくは、もう一度、こちら側にきました。
すると、とたんに大人に戻ったような気がしました。
「おそらく、この部屋はね、子どもに戻るための部屋だったんだよ。この部屋では、子どもに戻ってお父さんとお母さんと暮らすんだ。でも、この部屋を出たらね、奥さんと娘さんと暮らすんだ」
「なんとか、元通りにできないかなあ」
ぼくがいうと、
「扉があるからね。これさえ大切にしておけば、なんとかなるかもしれないね」
と、沼水さんがいいました。

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