「さむい日のプー」 はらまさかず
めっきりと寒くなってきました。
きょうは、ダウンジャケットを着て、ギンガへ。
だるまストーブの前で、マスターが何やら読んでいます。
「いらっしゃい」
「あれっ、ちょっと早くない?」
「寒いから出しちゃった。
なんにする?」
「ストーブが出たということは、あるんでしょ?」
「うん、あるよ」
しばらくして出てきたのは、おしるこ。
これこれ、身も心もあったまる。
「ところでさ、さっき何読んでたの?」
ぼくは、マスターに聞いた。
マスターが黙って見せたのは、ずいぶん古い本。
タイトルは…
「プー横丁にたった家」
「そう。読んだことある?」
「ないけど。アニメで見たよ。どうして今さら」
「いや、子どもの時に読んでもらったんだけど、なつかしくてさ。こういう日はとくに」
マスターはストーブに手をかざした。
「おもしろいの?」
「うん。とってもいいんだよ」
「プーさんが家をつくる話でしょ」
「そうだけど。それより、プーが家をつくろうと思うところ。ここが、何度読んでもいいんだよ」
ある、さむい、さむい日。
くまのプーは、雪がふるなかを歩き、こぶたと話し、歌をうたったりしながら、時間をかけてあることに思いいたります。それは、こんなに寒い日なのに、イーヨーには家がないということ。みんなには、家があるのに。おかしいですね。それで、プーは、風があまりあたらないこの場所に、イーヨーの家をたてようと決めるのです。
「そんなの、あたり前の話じゃない?
どこがおもしろいの?」
ぼくはいった。
「そうなんだ。あたり前のことなんだよ。
でも、今日だって、寒い思いをしている人はいないかなって、心配する人はどれだけいるだろう。プーみたいに、家をたてようとする人は、どれだけいるだろうな」
「…そうだね」
「子どものころは、わからなかったな。だから、ぼくは、プーのことがずっと大好きなんだ」
マスターはわらった。
いい年して、クマのプーさんか。
でも、読んでみようかな。
(喫茶ギンガ 第17話)