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『キッチン』吉本ばなな

”「うまく口に出せないけど、本当にわかったことがあったの。口にしたらすごく簡単よ。世界は別に私のためにあるわけじゃない。だから、いやなことがめぐってくる率は決して、変わんない。自分では決められない」”
”なぜ、人はこんなにも選べないのか。虫ケラのように負けまくっても、ご飯を作って食べて眠る。愛する人はみんな死んでゆく。それでも生きてゆかなくてはいけない。”

私たち人間は世の中の大きな流れや運命といった自然的なものを操ることはできない。
だからこそ同じ苦しみの中にいる人同士にしかわからない心の領域がある。みかげや雄一みたいに天涯孤独同士、まるでこの世に二人しかいないみたいな世界観がある。

だれかに心の空洞を見られないよう明るく振る舞うけど、その暗さを完全に隠しきれる人っていないです。けど完璧に生きられない人というか、不器用にちぐはぐ生きてしまう私たち人間って愛おしいんですね。

それから台所について。
台所には生かす・活かす力がある。だから、みかげが、そこにいると落ち着く気持ちはなんとなく分かる。この本を知らなかった大学生のとき、なぜかよく眠れるので冷蔵庫の前に布団を敷いている時期があった(その行動が共通していたからびっくりして内容に一気に引き込まれたのだと思う)。冷蔵庫は自分の中に小さな命をたくさん抱えていて、母性じゃないけど不思議な安心感がある。

ただ、みかげにとって台所は本当に命綱で、魂の一部なので、生ぬるい気持ちで本当毎日のように雑につくったパスタばかり食べている私と似ているなんて思っては彼女に失礼。
でも、そこ(台所)で自分が実はひとりぼっちで、人生選べない辛さとか、すごく寂しいときにどうしようもなく自分を恨んだりする気持ちを知ってると言葉にしてくれたみかげにはすごく感謝してる。

ひとりぼっちが月みたいに輝く小説。

前の投稿も冷蔵庫関係だったな。(2021.12.16)

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