雨上がり、灼熱のグリーン
フレデリック・マルの「SYNTHETIC JUNGLE」をとうとう使い切ってしまった。返す返すも夏に最適な、爽快でビターな近未来グリーンであった。この1年はもとより愛用していた香りの他に、「SYNTHETIC JUNGLE」にほれ込んでしまったことから期せずして3つの香りを使い分けることになったが、なんといっても「SYNTHETIC JUNGLE」の登板がダントツであった。
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天然香料礼賛主義よ、●喰らえとばかりに、気鋭のクリエイターが合成香料による冒険に勤しんだこの現代の名香。私はともかくもそういったレジスタンスな気風が大好きなので、実際の香りに加えてそのスタンスが実に気に入った。以前も書いたが私はパフューマリーとしてのエスティ・ローダーを愛しているので、この香りがかつてのエスティの某コレクションを土台として現代に蘇らせたという試みも、完全に精神的にノックアウトされてはいる点のひとつ。
かなり挑戦的攻撃的で、爽快でありながらもエロティックなグリーンなものだから、ときにボトルを手にしても「うう、そんな気分でないやい…」と、躊躇する朝などもあったのだが、ひとたび吹き付けるとあっという間に香りが一日の扉を開きゆく。そうやって何度もつらい朝も扉の向こうへ連れ出してくれた相棒であった。しかし、せっかくだからこのきわめて挑戦的野心的なメゾン、「フレデリック・マル」の他の香りも識りたい。それは、少しずつ距離を近づけて「憧れ」から「恋」はたまた「愛」へと進展する余地があるのか?と計るような気持ちに似ている。ような、気もする。
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前回購入時にパウダリーな香調の「イリス プードゥル」と、甘く爽やかな「オー ドゥ マグノリア」をいただいた。いずれも良い香りではあるがピタッとこなかった。今日は能書きを読んで関心をもっていた「ロー ディベール」を中心に店頭で試してみたのだが、んんんー、、ピタ!っとこない。ピタっとこないのなら変える必要もないし、フレデリック・マルにこだわる意味もない。ひとつ心惹かれたのは、「ローズ&キュイール」。私の大好きなゼラニウムの香りがぐっと前面に出たもので、この香りもまた調香師の非常に挑戦心が顕現されている。なにしろ、ローズと名付けているがバラを使っていないのだもの。帰宅して調べると、こちらに非常に詳しく出ている。
最後に、念のため「SYNTHETIC JUNGLE」をムエットに吹きかけてもらう。鼻に近づけるやいなや、「!!」と私が見えない何かにこの身をパンチされたのを店員さんが見ていて、「笑。これにだけきわめてわかりやすく反応されていますね」と笑う。ええ、そうなのです。やはりこれしかないみたいだ。
そうして「ローズ&キュイール」のサンプルをもらい、2本目となる「SYNTHETIC JUNGLE」を購入した。これから盛夏があっという間に終わると、演劇の場面転換さながらに季節が変わる。その頃、この圧倒的グリーンを日常使いしているのだろうか。そして日照時間が減少してくる日々において、この挑発的なグリーンがどう香るだろうか。楽しみでもある。
今年は本当に期せずして「SYNTHETIC JUNGLE」一辺倒になってしまい、“あの人の香り”と他者から気取られるように意図をもって使おうと決めていたあれだとか、気軽さが心地よいあれだとかが登板が少ないと思っていたがいずれもボトルが空になりかけてきた。そうか、単純に日々がものすごく早く去っているのだな…。
☆13年越しの念願が叶って、甲斐庄楠音の「横櫛」の現物を目にすることができた…。それは次回に書くことにします。