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『呼び声の柔らかさ』ExEp.1【教会にて】
前書:これはなんですか
FF14の二次創作小説です。自機とリテイナーの話です。【前作】から連なるエクストラエピソード。【こちら】の話と対になっています。
SCREEN SHOT/©SQUARE ENIX
『呼び声の柔らかさ』ExEp.1【教会にて】
月も見えない夜のことです。聖アダマ・ランダマ教会の窓を雨が激しく敲いています。フレカニ・チライキナは独り、褥の中でまんじりともせずに過ごしています。
昼間にベスパーベイからここまで、キャリッジに乗って暁の血盟の遺骸を運んできたのです。疲れていないはずがありません。まぶたの裏に、ノラクシアがフレカニを超えさせ、見せてくれた砂の家の惨劇が、繰り返し映し出されます。イダもパパリモもミンフィリアも皆、捕縛されました。砂の家に残っていたのは、晒し者のように転がる仲間たちでした。一緒に戦って、蛮神タイタンを討滅せしめた仲間たちでした。ララフェルの暁の呪術士も、エレゼンの暁の槍術士も、ルガディンの暁の斧術士も、今は墓庭の土の下に居ます。
フレカニは寝返りを打つ代わりに、目を見開き、起き上がりました。居ても立っても居られません。
礼拝堂はイリュドさまが『いつでも埋葬できるように』と不寝灯を点してくださっていますし、濡れたガラス窓の向こうではバーニングウォールの偏光クリスタルが爛々と輝いています。明かりには困りません。
フレカニはベンチに腰掛けました。紐で綴じた紙束をめくって、揃えた膝を文机にペンを走らせます。ニムファーレの宿題です。最初の方はよく知っている人たちや物の名前でしたから、そう間違うものでもありませんでした。この頃は文章を書き入れるようになりましたので訂正が増えています。
『声に出して読むと良いんだってさ』と、ニムファーレは教えてくれました。夜半の教会で声を出すわけにもいきません。ニムファーレが読んでくれたときのことを思い出しながら、宿題に綴りつけていきます。聴けば憶えられます。読めなかった頃から、フレカニはそうしてきました。冒険を始めたばかりの頃には、ミューヌさんに冒険手帳や討伐手帳を読んでもらっていました。
「眠れませんか」
いつの間にかベンチの隣にマルケズが座っていました。フレカニは頷きました。
「はい、なんだか落ち着かなくて」
「書き物、ですか」
フレカニはペンを止めました。
「宿題です。私、読み書きが得意じゃなくて。リテイナーの方が作ってくださいました」
「拝見しても?」
「ええ、どうぞ」
フレカニはマルケズに冊子を渡しました。雨音に冊子をめくる音が混ざり始めます。フレカニは宿題の代わりに字引を膝に置いて読み始めました。乳母姉やリテイナーの名前など、売りものの字引に載るはずもありません。手製です。ニムファーレや乳母姉のニサトゥニコロに書いてもらい、どの文字が誰か解るようにフレカニが似顔絵を描き入れ、草花の字には押し葉、押し花を挿し入れました。そっくり同じ写本を、ニムファーレもニサトゥニコロも持っています。
さっ、とマルケズが冊子を閉じました。
「ありがとう。よい課題です。あなたは良い師をお持ちのようだ」
マルケズは教会のカウルをすっぽり被っています。その表情は窺い知れません。しかし声音はとても優しく聞こえます。
フレカニは恭しく宿題を受け取りました。今までに出会ってきた人々がフレカニの脳裡を駆け巡ります。おばあちゃん、ニサトゥニコロ姉さん、育った里の人たち、麓の街の人たち、ミューヌさん、エ・スミ・ヤン師、シルフィーさん、冒険者指導教官殿、ニムファーレさん。皆良き師です。
「本当に、そう思います。とても」
宿題を作ったのはニムファーレです。必ず見てもらわないといけません。
ざあっ、と窓に雨がひと際激しく叩きつけられました。寝転がっていた時は剣戟のように聞こえた雨の唄は、雨足はさほど変わらないのに、今は鼓舞のようです。
【おわり】