芸大・美大のオンライン授業化――「学生支援法案」と“嘆き”
“授業料半額免除”を盛り込んだ「学生支援法案」
野党共同会派と日本共産党は5月11日、議員立法「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための学生等に関する特別措置法案(コロナ困窮学生支援法案)」を衆議院に提出しました。
この法案は、新型コロナの影響で経済的に困窮する学生等への支援のために
①授業料の半額免除
(授業料を半額免除した大学等に国がその免除分全額を負担)
②バイト減収学生等に最大20万円の一時金給付
(現行の「持続化給付金」制度をベースとし、収入が前年同月比等で一定以上減少している学生等に20万円(減収分を上限)の一時金を給付)
③貸与型奨学金の返済免除
(返済期限が今年度中の貸与型奨学金等の返済が困難な場合はその返還を免除)
を3本柱として盛り込んでいます。法案作成担当者の国民民主党・城井崇衆議院議員は、この法案の狙いの一つとして、「高等教育は未来への投資だ、という観点に立って今回も踏み込んだ措置をやるべきだ」と説明しています。
詳細は、国民民主党のHPに法案の概要、要綱、本文が載っているので、是非そちらを参照してください。
また、与党も経済的に困窮する学生への支援に向けて動いています。
公明党は5月8日、自民党は12日にそれぞれ文科相に対し、生活に困っている学生らに10~20万円を給付するよう提言しました。萩生田文科相も「思いは同じで、早急に対応していきたい」「支援を早く実現できるよう努力したい」と前向きな姿勢を見せました。安倍首相も11日の衆院予算委員会で「(学生支援について)与野党で検討してもらい、追加的な対策を講じていきたい」と発言しました。
ちょっとだけ嘆きたい……
上記のような、一時金給付等による経済的に厳しい学生への国からの支援はともかく、そして、目的が経済的支援であるかどうかは置いておいて、芸大・美大生がこれまで求めてきたように、授業料を減免しようという声が野党から法案という形で上がってきていることは大きいと思います。
授業料の減免については、新型コロナの影響でやむなくオンライン授業化した大学に直接求めても仕方がないし現実的ではない、各大学にではなく国が大学に対してお金を出すしかないと僕が過去に記事で書いたように、「学生支援法案」でも、授業料の減免分を国がその全額を負担するということが書かれています。
ただ、この法案には、対面授業が必要不可欠なのにオンライン授業になってしまった演習系の授業について、学生が必要な教育を受け学修の機会が確保できるよう必要な配慮・措置(実施時期を後ろ倒しするなど)を行うことを義務づけるなどといった内容は盛り込まれていません。当然といえば当然です。
「授業の質の確保」ということ自体、経済的支援のように金銭で解決できるものではありません。文科省も既に事務連絡を出し、実習等の授業について大学等に学修機会の確保の配慮をお願いしています。そもそも、法律に書くことではない気がします。と言っても、「お願い」された大学側も対応に限界があります。つまり、「芸大・美大のオンライン授業化問題」には、明確な解決への糸口が存在しないのです。これには嘆くしかありません。
政治の新たな動きは……
「学生支援法案」作成にあたり、野党各党の議員はツイキャスによる「野党合同『#つくろう学生支援法』WEBヒアリング」を行っていました。このヒアリングは、ツイキャスのコメントやTwitterでのハッシュタグ、メールによる学生からの意見募集をしており、集まった意見や電話で登場した学生団体の代表の方も、僕たちと同じような、実習等の授業の取り扱いについてどうにかしてほしいという声を上げていました。
これを受けて進行を担当していた城井議員は以下のように発言しています。
(実習等の授業カリキュラムへの配慮について)政策要望という形や国会での委員会質疑などを通じて、しっかり正して参りますとともに、もしそれでも制度が邪魔になって政策が変わらないということでありましたら、私ども野党側から改めて法律案の形で改善を促していくことを検討していければと思います。
(発言の流れはこの動画の51:08ごろから)
法案には直接、実習等の授業カリキュラムへの配慮については盛り込まなかったが、今後“制度が邪魔になって”弊害が発生するようだったら新法案作成を視野に検討する、というのが現時点での野党の姿勢のようです。
では、文科省としてはどうなんでしょうか。
萩生田文科相は5月12日の会見で、以下のように発言しています。
それぞれの地域や、あるいは学部によって応援の仕方は変わってくると思うんですよ。オンラインとかの環境整備をすればいい授業を受けられる学部もあれば、やっぱり、集まって実技をしないとなかなか授業が進まない学科もあるわけですから、そういうものも含めて各大学でまずご努力をいただきたいなと。で、私たちは別に、大学任せで言ってるんじゃなくて、一緒に伴走して考えますよってことは申し上げているわけですから、そこは大学もちゃんと一緒に考えていただかないと困るんじゃないかと。
(発言はこの動画の16:40ごろから)
大臣の発言は、大学・学生への国による経済面での支援についての質問から派生して出てきました。文科省としては、まず大学が学生を守るために動いてもらい、文科省も一緒に対応を考えますよ、という姿勢です。
【5月18日 追記】
5月11日、3つの大学団体も、文科相に学生支援を要望しました。以下、ニュース記事の引用です。
要望では、学生への支援を各大学が行うことには限界があるとし、返済の必要がない給付型の奨学金の拡充や、家計が急変した学生に対して大学が緊急に実施する授業料免除への財政措置、それにオンライン授業の実施に向けた通信環境の整備や通信料への支援を求めています。
これに対し、萩生田大臣は「緊急支援のための政策をスピード感を持って行っていく」と述べたということです。
やはり、大学側としては、金銭的な支援に限界があるため、国に支援を求めています。
【5月19日 追記】
5月19日、政府は、新型コロナの影響で経済的に困窮する学生に対し、10~20万円の給付を行うことを閣議決定しました。
(追記終わり)
既述したように、文科省は事務連絡で実習等の授業カリキュラムへの配慮を大学等にお願いしています。金銭的支援で解決できない以上、(というか文科省としては、授業料減免を国が負担することにも、上記のような姿勢なので、消極的です)やはり大学側が第一義的には、実習等の授業カリキュラムへの配慮を行うべきなのだと。僕もそう思います。
その上で、必要であれば、政府・与野党問わず、政治からのアプローチを行って欲しいです。今後を注視しましょう。
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