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JR名古屋駅でカツサンドはやっぱり恥ずかしい

グルメレビューではないですよ。空腹状態でnoteなんて見ないでください。

僕は出身が東海地方なので、よく名古屋には遊びに行ったり、買い物をしたりしていました。魅力度最下位都市・名古屋ですが、周辺地域の人が日帰りで遊びに行くには丁度いいんですよ。わざわざ遠方から名古屋に泊まって旅行をしようとすると「頭がおかしい」と友達から縁を切られるだけの話であって、多分住むのには適しているんです。良いお店は多いし、飯はうまい。一応大都市だで仕事もあるし、交通機関も豊富だから都市基盤は安心なんだわ。ただ、小さい頃、「なごや」の由来は「人々が和やかな性格だから」と名古屋出身の小学校の先生が言うのを聞いて「へーー」と思っていたんですが、和やかだったのは気候・風土なのであって、そこに住む人々が和やかだからじゃないというのを後になって知りました。その先生と河村のおっさんには謝ってほしいんですが、今現在に至っては夏はクソ暑いし冬も雪降って電車止まるし台風は来るんで、まあ、同情してあげます。あんかけパスタを我慢して食べてあげます。

そんな素晴らしい町・名古屋市の中心にあるのが、中部地方最大のターミナル駅・名古屋駅です。

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この上の写真に写っているツインタワーはJRセントラルタワーズといって、ジェイアール名古屋タカシマヤなどが入っています。名古屋駅には、JR、名鉄、近鉄、名古屋市営地下鉄などが乗り入れていて、東海地方の田舎民にとっては迷路なんですね。名鉄名古屋駅なんかは、初見殺しのカオスな構造になっていて、分刻みで電車がやってくるのにホームは3つしかないんですよ。「○○行きはここに並んで」と書いてあるけど、次来た電車にそのまま乗ると空港に連れて行かれたりします。なにか非名古屋民に恨みでもあるんでしょうか。それゆえ「迷駅(名駅)」と揶揄されています。僕はもう何回も利用しているので、ある程度理解していますが、まだまだ自信はありません。

名古屋駅のデパ地下にはいろんなものが売っていて、地元にはそんなところないものですから、あの天井が低くて人は多い場所でショーケースに入った美味しそうなものを吟味していると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。基本的に高いんですよ、なんでも。お弁当だって、アベレージは1,200円くらい。ほっともっととかに比べたらそりゃ高いわけで、時間をかけて選びたくなるんですよね。

今年の2月頭、実家に帰るために名古屋駅を利用しました。時間があったので、久しぶりの名古屋駅を散策して、その流れでデパ地下にも行きました。別に買いたいものはないし、無駄にお金を(名古屋のために)使いたくないので、ウィンドウショッピングをしていました。もう疲れ始めて、電車に乗って実家に帰ろうかと思い始めたころ、なんていうお店だったかは忘れましたが、カツサンドを売っているお店を見つけました。結論から言うと、僕はこのお店のカツサンドを買いました。

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透明のプラスチックパックに大きめの4切れが入っていて、断面はパンよりもカツの幅の方が広い。名古屋なんで、味噌ロースカツサンドなんですよね。パンにも味噌ソースが染みていて、豚ロースの表面にはうっすらピンク色の脂が光っています。こりゃうみゃー。値段は1,000円弱くらいだったかな、そこまで高くはありません。デパ地下で何かを買う気はなかったはずなんですけどね……。

小学校の夏休みって「夏の友」みたいな課題冊子あったじゃないですか。国数理社の問題があって自由研究のヒントとかも書いてあって。あれの裏表紙の内側(表3)に、「夏休みに出かけた場所の思い出を貼ろう!」的なことが書かれたページがあったんですね。例えば、水族館に行ったらその写真と入場チケットを貼ったりするわけです。強制的にやれというわけではなかったはずですが、僕の母親はそこを埋めるために、毎年どこかへ連れて行ってくれていました。といっても、旅行みたいなたいそうなことはしません。特に貧乏だったわけではないですが、僕を含め子供は3人いるので、僕たちを大学まで進学させようとすると、大きな出費を頻繁にするわけにはいきません。ですから、母親に連れて行ってもらえるのはお金もかからない日帰りで行ける名古屋周辺なんですね。先ほども書いたように、周辺地域の家族がちょっと遊びに行くには丁度いいんですよ、本当に。名古屋港水族館、日本モンキーパーク、明治村、リトルワールド、僕の時代にはありませんでしたが、レゴランドーー。そういう、社会科見学で行きそうな施設は豊富にあるんですよ。母親が連れて行ってくれるのはまさにそういうところでした。(なんで父親じゃないんだという声は黙殺します)

小5か6だったか、ジェイアール名古屋タカシマヤで開催された「トリックアート美術館」の展示会に母親と姉と妹と行きました。夏休みの最終週でした。大盛況で、入場するまでに1時間以上並んだんですよね。展示会自体はものすごく面白くて、まったく進んでいない宿題のことなんて忘れて楽しんだ記憶があります。ただ、一つだけ懸念していることが小学生の僕にはあって、それは「こんな近場での経験を『思い出』として貼っていいのだろうか」ということでした。母親は多分、写真映えするし入場チケットもあるから、「夏の友」にピッタリだと思ったんでしょう。でも多感な時期の僕は、周りの子の「夏休みの思い出」と比較した時に、ちょっと恥ずかしいんですよね。他の子が北海道行ったり、東京行ったり、海外行ったりしているなかで、自分は夏休み以外でも余裕で行ける名古屋かと。それに加えて、宿題が終わっていないという焦燥感もありますから、心の中はざわざわですよ。非常に落ち着かない。

展示会も見終わって、記念にトリックアートのポストカードを買い、時刻はもう夕方です。母親も疲れているので夕飯を作る気が起きません。母はデパ地下で何か買って食べるかと提案しました。4人でデパ地下を歩き、あれが良いこれは嫌と口々に言いながらお腹を空かせていました。結局母親が買ったのは味噌ロースカツサンドでした。あ、1人1パックだと勝手に想像した人はブルジョア階級ですね。共産主義の敵ですよ。いいですか、4人で2パックが正解ですからね。デパ地下には座ってゆっくり食べるスペースがほとんどありません。家まで持って帰る手もありましたが、空腹なのですぐ食べようという話になります。カツサンド片手に今度は食べる場所を探して歩き回ります。あそこが良いここは嫌と言いながらも、最終的に母親は「ここでいいでしょ」と、腰を落としてしまいます。僕はその場所を見て、すぐに座る気にはなれませんでした。汚いとかじゃなくて、プライドが邪魔してるんです。

JR名古屋駅構内の金時計の傍にあるエスカレーターを上り、タカシマヤに上がっていくエレベーターを横目に外に出ると、桜通口を眼下に望む屋外の通路があります。そして、外に出て正面には、生垣を囲むタイルが貼られたコンクリートの段差があります。母親はそこに座ったんです。姉は躊躇なく座り、妹と僕は躊躇していましたが、立っている方が恥ずかしいので文句を言いながらも座りました。他にもサラリーマンの人とかがコーヒー片手に座っていましたし、座ってはいけない場所ではなかったはずです。しかし、段差は微妙に生垣の方向に斜面をつくっていて、座りづらいんです。後ろにひっくり返らないように脚と腹筋に力を入れながらカツサンドを食べました。何が嫌かって、めちゃめちゃ人目につくんですよ。目の前で大勢の人が駅構内に入ったり出てきたり。その人たちが、カツサンドを分け合いながら食べている僕たち4人を見て何を思うのか。もしかしたら、同級生と出会うかもしれない。そうなったらどれだけ恥ずかしいことでしょうか。母親の年齢にしてみればそんなことはどうでもよくて、座って腹を満たせればそれでいいんです。しかし僕は違いました。嫌だった。こんな自分を、家族を哀れだと思っていました。早く食べ終わってこの場から立ち去りたい。なるべく下を向きながら、カツサンドを頬張りました。

こういうとき母親ってずるくて「お母さんそんなに食べられないから」と遠慮するんですよね。もう人目を気にしなくなり、自分の欲望より子供を優先させる。母親ってそういうものなんでしょうけど、子供の僕からしてみれば張り合いがなくて、少し寂しいしなんか悲しい。心臓がきゅっと締め付けられる感覚がありました。今もそうです。唯一の男である僕は母親の一切れももらいました。夏休みが終わってしまうから日が暮れるのは嫌だし、宿題をやらなきゃいけなくなるから帰るのは嫌。でもここに座っているのも嫌。頭上には天に伸びるタワーが2本建っていて、後ろを振り向けば、開けた名駅通のロータリー交差点がある。巨大なソフトクリームの先端みたいなモニュメントをはるかに凌ぐ摩天楼がそこにはあって、でもそのときの僕にとっては逃げ場のない窮屈なところでした。

小学生のころの思い出が蘇り、思い立ってカツサンドを買ってしまいました。食べる場所は決まっています。

袋からパックを取り出し、輪ゴムを外します。パックは勝手に口を開けます。僕も負けじと大きな口でかぶりつきます。味噌の味が衣に濃く染みていて、豚の旨味・あまみとよく合います。豚ロースは“肉密度”が高く、突き刺した前歯は圧迫されます。ちょっと冷めていたけど、それでもパンの上からカツの温度とその分厚さが感じられて、指からでも美味しさを感じられました。20歳を目前に控え、法律上「大人」の仲間入りするので、あのころと比べたら母親の気持ちに少しは近づいたと思っていました。しかし。

まだ恥ずかしかった。やっぱり恥ずかしかった。少しは堂々としていたかもしれませんが、それは表情に出さずに取り繕うという技を習得しただけで、内心ビクビクしながら食べていました。

完食し駅構内へ戻ります。鼻に抜ける味噌ソースのゲップをお上品に済ましてから、電車に乗りました。半年ぶりの帰宅後、カツサンドでお腹いっぱいでしたが、遠慮する母親の分まで手料理を頬張りました。

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