女子クラスから見える世界。
Twitterではしばしば、男女論が盛り上がる。男性はこうだ、女性はこうだと喧嘩になる。そんなのは当たり前だ。男性と女性で見えてる世界は全くもって違うのだから。
その中でも、疑われやすさ、怒られやすさという点においては圧倒的な性差があると僕は感じる。おそらくほかの男性陣もそうだろう。
今回は、男性と女性でどれくらい見えている世界が違うのかという事について、僕の特殊な経験を踏まえて書いていこうと思う。
ふわふわで優しい世界
僕がこの世界に触れたのは、ちょうど中学二年生になった頃だった。僕はあるきっかけで祖母の住む小さな田舎の学校に転校した。そこは僕以外の男子がいないという極端な男女比のクラスであった。
女子だけのクラスとなると男子にはまずクラスに馴染めるか否かの裁定が下される。コミュ力や見た目、能力によっては二年間微妙な立ち位置で孤立しかねないという危機的状況にいきなり直面した。
僕はその状況から運動や勉強で優秀な成績を残し、コミュニケーションもクリアしたことで、女子だらけのクラスという特殊なコミュニティでの立ち位置を確保するに至った。ようするに運が良かった。
クラスに馴染んで数ヶ月、僕はそのコミュニティの異常さにふと気付いた。異常と言っても悪い意味ではない。なんと「めちゃくちゃに居心地がいい」のである。居心地が良すぎてそこに疑問を持つに中々至らなかった。具体的に言うと「怒られる」という事象が起きないのである。起きても「え.......それだけ?」というしょぼいレベルのお叱りのみ。
中高生なんて生意気盛りで反発したり軽口を聞いたりとムカつく子供が一番多い時期である。例に漏れず僕のクラスの女子もまぁまぁ軽口が飛び交ったり先生を明らかに舐めているような態度もしばしば見受けられた。僕が女子の軽口を「それはヤバいのでは.......?」と思って先生の方に目を向けると、先生は怒るどころかニコニコと微笑んでいるのである。
これには本当に拍子抜けした。授業中に机に突っ伏しておでこに鉛筆を押し付け鉛筆がくっつくか実験をしていたところ、それを先生に目撃されてクラス全員の前で説教をされた五年生のあの日のことを思い出しながら、俺より舐めた態度を取っているのに怒られないだと.......?という衝撃を受けたのだ。
少し話が逸れたが、とにかく教師の機嫌が良いのである。舐めた軽口も馴れ馴れしい態度も、女子であればフレンドリーという言葉に変わるのである。まるで魔法である。間違いなく男子なら説教コースだ。
もう一つ例を出そう。
一つ下の学年は男子の割合が多く、強面の体育教師が担任だった。隣のクラスからはよく「なんだてめぇらおい!聞いてんのか!おい!」という怒声が鳴り響いた。その後輩たちは、年相応の生意気さはあったものの極端に態度が悪いという事はなかったのに、よく怒鳴られていた。
そんな恐ろしく厳しい体育教師が僕らのクラスに保健体育を教えに来る際は終始ニコニコ、軽口が飛ぼうものなら「はははは」と軽快に笑い出すのである。鼻の下も伸びていたかもしれない。恐怖だ。
この時僕は初めて、世界は全く平等などではなく、属性によって扱いに大きな差が出てしまうことを知った。でも考えてみてほしい。確かに中学生男子の軽口はムカつくが女子のだったら許せる気がする。男子には舐めてんのかオイと言いたくなるが女子は「こらこら」くらいであまり怒る気にはなれない。
これが幼少期からの刷り込みなのか本能的なものなのか、その両方か分からないが、明らかに男子と女子では同じ行動でももたらす結果に差があるのだ。
僕は幸いにもその恩恵にあずかることになり、二年間を非常に快適な空間で過ごすこととなった。
卒業後、男女比が普通の共学に進学した際に、その空間は終わりを告げた。男女比がそこそこになってくると、今度は男子は男子、女子は女子または全員まとめて怒るの三択になる。僕のフィーバータイムは完全に終了していた。もちろん馬鹿では無いので怒られるような事は滅多にしなかったが、怒られないにしろ男女のほんの少しの扱いの差みたいなものを如実に感じ取るような体質になってしまっていた。
優しさや親切を求める行為について
最近Twitterの話題になった大人が子供を助けない問題。大人の男性の主張としては、通報されるリスクが怖いというものだ。当然である。
普通の男として二十数年生きていれば必ず男女の怒られやすさの違いには敏感になる。更には、社会の採点の目は厳しくなり声掛け通報などをよく耳にするようになった現在、余程見た目がよく周りから丁寧な扱いを受け続けられた人間でない限り「通報されるリスクより子供が優先だろ」とは言えなくなってきている。
そんな中で、そういった怒られるリスクに縁遠く無頓着な人間からの「何で親切にしないの?」という全く親切でも無ければ想像力や優しさの欠けらも無いような発言がタイムラインを駆け抜けていく。本当にやるせない気持ちになる。
僕個人としては、女性が男性のリスクや辛さに無頓着な事は仕方がないと考えている。当然である。逆に男性も女性のリスクや辛さに対しては知識がないし無頓着であったりするからだ。
毎日泥水を飲むのが当たり前の貧困層の子供達のように、毎日怒られるリスクが低く優しく接してもらえるのが当たり前な女性達が、そうでは無い人間達の当たり前への想像力を働かせるのは難しい。僕でさえ、女子クラスに入るまでこんなにも快適でこんなにも優しい世界があるとは知らなかった。
もちろん、それが当たり前の世界に生きてるからこその辛さもあるだろう。女性は歳をとると明らかに優しくされなくなったり(それでもオッサンよりはマシな扱いを受けてるが)、セクハラや痴漢などのリスクもある。男には縁遠く想像するしかできない類いのものだ。
男性にも女性にもそれぞれ違ったリスクがある。性差もある。一概にどっちが楽とかどっちが生きやすいかとかは言えない。ただ、知っておくことは損じゃないとは思う。男は怒られやすいし疑われやすいというのはそれはもう紛れもない事実である。
だからどうしろと言うつもりはない。
ただ、僕はこういう世界を見てきたと、ここに書いておこうと思った。