憧れの先生のように、わかりやすく楽しく、植物の魅力を伝えたい! 子どもの頃のこと、教えてください!「植物観察家・植物生態写真家 鈴木純さん」
身近な植物の魅力を多くの人に伝えるべく、活動を続けている植物観察家・植物生態写真家の鈴木純さん。2022年に発売された『ゆるっと歩いて草や花を観察しよう!すごすぎる身近な植物の図鑑』は、公園の草木や街路樹など、まちなかで出会える身近な植物の驚くべき生態をテーマに、子どもから大人まで楽しめる観察例をまとめた図鑑で、子どもから大人まで幅広い層に人気の一冊です。同書で解説と写真を担当した鈴木さんは、植物が身近な環境で子ども時代を過ごしたのかと思えば、実は東京都の出身とのこと。そんな鈴木さんが、どのような子ども時代を過ごし、植物観察家・植物生態写真家として活動しているのかなどを聞いてみました。
家族の愛情をたっぷり受けながら、プロサッカー選手をめざしていた子ども時代
子どもの頃は、ひたすらサッカーをしていました。おじがサッカー大好きな人で、かすかな記憶では、僕が幼稚園に通っていた頃からサッカーを教えてくれていたようで、ものごころついた頃には典型的なサッカー小僧になっていました。毎日サッカーに明け暮れていて、「このままサッカー選手になるんだろうな」としか考えていなかったですね。小学校高学年の時には東京都小金井市の選抜メンバーに選ばれたりしていたので、本気でサッカー選手を目指していましたね。僕の世代は三浦知良選手に憧れていた少年ばかりだったので、もちろん僕も「将来はブラジルかな」なんて、漠然と思っていました。
今思えば、そんな僕の夢を家族は、しっかり支えてくれましたね。特に母は、仕事で忙しい父の分まで、毎試合毎試合、必ず応援に来てくれていましたし、手作りのお茶も持たせてくれていました。当時のことを思い返すたびに、母がいろいろしてくれていた姿が思い浮かぶということは、相当応援してくれていたのだと思います。具体的に思い出せないのが、本当に親不孝ですが(笑)。母は、とにかく優しい人で単純に甘えられる存在という安心感がありましたね。
二歳年上の姉の存在も、僕にとってはとても大きくて。すごく面倒を見てもらっていました。家族を支えるために父が仕事に打ちこんでいたこともあって、僕は母と姉に育てられたという意識が強いですね。日常の暮らしの中では、姉がいろんなことを教えてくれたなっていうのはすごく覚えていますね。今でも僕は、姉が大好きで「姉ちゃんがいてよかったな」と、いつも思っています。いつも一緒に遊んでくれていましたし、小さい頃の写真とか見返すと、僕、スカートとか姉の服着てるんですよね。多分、姉は姉で、僕で遊んでたと思います(笑)。
自然が大好きな父の赴任先・小笠原で出会った植物たち
父は、自分なりの哲学を持っている人で、僕が日常の中で疑問に感じたことを聞くと、とりあえず何でも答えてくれていたことを覚えています。本当に、どんな些細なことも「そんな細かいこと気にするな」と受け流すことはまったくなくて、何を聞いても真剣に答える人でした。子どもの頃って、「人はどうして死ぬのかな」とか、思ったりしますよね。そういう深い質問は、もっぱら父に聞いていました。
そして、父は僕の将来に対して、否定的なことは言わない人でしたね。「お前は絶対サッカー選手になれるぞ」とはげまし続けてくれましたし、長距離走も得意な僕に「マラソン選手にもなれるよな」と期待してくれていました(笑)。いつも「お前は絶対大丈夫だぞ」という前向きなメッセージを常に送ってくれていましたね。
父は、姉と僕が生まれる前には小笠原村にちょっと住んでいたそうなんです。小笠原でサーフショップを開きたかったくらい好きだったと聞いたことがあります。その後、東京都の職員となった父は、仕事で小笠原村にかなりの期間、単身赴任していたので、小学生時代の夏休みは、東京都心を離れ、自然豊かな父のもとで過ごしていました。その頃に触れあった、手つかずの自然との関わりが、今の僕を形づくっていると思います。
憧れの先生との出会いが運命を変えた
プロサッカー選手をめざして、練習にはげんでいた中2の夏、骨折してしまいました。自分では、チームメイトの中でもかなりサッカーが上手だと思っていたのですが、練習ができなかった2ヵ月の間に周囲のみんながすごく上手くなっていたんです。それまではスタメンから外れたことがなかったのに、骨折以降は控えばかりという大きな挫折を味わったのが中学2年生のできごとです。
僕が通っていた中学校には、ものすごくわかりやすい授業をしてくれる先生がいらっしゃったんです。それまで勉強に対して、そんなに意識が向いてなかったんですけど、その先生が雲ができる仕組みをすごくわかりやすく教えてくれて、ものすごく感動したんです。「今までずっと見てた雲ができる仕組みがあったんだ!」と思って。そこから理科、中でも生物に興味が沸いてきて、生物はひたすら勉強するようになりました。
プロサッカー選手への夢と入れ替わるように、「この先生みたいになりたいな」という思いが生まれて以降、ずっと生物の教師を目指して、教員免許が取得できる大学を受験し、東京農業大学へ進学しました。僕は今も、この中学時代の生物の先生を目指しているといっても過言ではありません。「とにかく楽しく、わかりやすく植物のことを教えることができれば、植物の魅力に気づいてくれる方がもっと増えるに違いない」。これを信念として活動を行っているのは、僕が同じ経験をしているからだと思います。
今後も人と植物の架け橋として
実は、小さい頃から本が大好きでした。中でも、児童文学作家の岡田淳さんの作品が大好きな姉の影響を受けて、図書館に行っては岡田さんの本を探してひたすら読んでいました。中学時代の生物の先生と同じくらいに、岡田さんの本にも人生を大きく変えられたような気がします。教科科目でも現代文が一番得意だったりするので、そう言った意味では「文系として植物をやっている」というスタイルですね(笑)。以前、植物の世界の先輩に「純くんは文系の人に植物の魅力を広めているんだと思う」とはっきり言われたことがありまして、その言葉がすごく腑に落ちたんです。それは、子どもの頃から本が大好きだったことにつながっていると思います。
僕には、今、5歳になる娘がいます。ついいろいろ教えたくなっちゃうのですが、親に教えられすぎて植物のことが嫌いになるのは避けたいので、聞かれたときにだけ、答えるようにしています。でも、一緒に散歩中、娘が花を摘んだ瞬間など、植物に興味を持ったタイミングでは囁き続けていたんです。そうしたら、かなり植物に対しての知識が蓄積されているようで、どうやったら種ができるのかなどはもう理解しているようで、すごいなって思っています。僕が子育てで意識しているのは、とにかく邪魔をしないこと。僕のパートナーがすごく上手なのですが、娘が「何かしたい」と思ったときに、それができる環境を整えてあげることを心がけています。
僕の本『ゆるっと歩いて草や花を観察しよう!すごすぎる身近な植物の図鑑』は、「都市環境において見ることができる植物」をテーマにしてるので、その気さえあればどこでも見つかる植物を紹介しています。そして、私たち「人」という命の生き方と、「植物」という命の生き方の比較ができるような形で読んでもらえるとうれしいですね。
2024年3月に発刊した写真絵本『シロツメクサはともだち』では、植物生態写真家として身近に咲いているシロツメクサの美しさと不思議さを紹介しています。植物写真家の方々に植物の魅力をいっぱい教わってきて、とても大きな影響を受けているのですが、やはり、先輩方のような人を唸らせるような芸術的な植物写真は撮れないので、僕は僕なりの写真表現としてわかりやすい写真を撮ることを心がけています。今後も、人と植物の架け橋となれるよう、活動を続けていきたいと思っています。