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「好き」という気持ちを大事にしながら、いろいろなことに興味を持って世界を広げよう! 子どもの頃の話を聞かせて!「昆虫学者 丸山宗利先生」
角川まんが科学シリーズ『どっちが強い!? カブトムシvsクワガタムシ 昆虫王、決定戦』など、数多くの児童向け書籍で監修を務めている九州大学 総合研究博物館 准教授の丸山宗利先生。子どもの頃から虫が大好きだという丸山先生は、アリと共生する昆虫の多様性を解明する研究のため、世界中を飛び回りながら調査を行い、多数の新種や新属を発見しています。また、研究のかたわら、さまざまな昆虫の撮影を行い、虫たちの美しさ、カッコ良さを多くの人に知ってもらうための大型ヴィジュアルブック『驚異の標本箱―昆虫―』を2020年に出版し、話題を呼びました。2024年12月11日にはシリーズ第2弾となる『神秘の標本箱 ―昆虫―』を上梓したばかりの丸山先生は、どんな子ども時代を過ごし、昆虫学者になったのでしょうか。その道のりについて聞いてみました。
【プロフィール】
丸山宗利
九州大学総合研究博物館准教授。1974年生まれ。東京都出身。昆虫学者。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経て2008年より九州大学総合研究博物館助教、2017年より准教授。アリと共生する昆虫を専門とし、国内外で数々の新種を発見。より簡易な深度合成写真撮影法を考案し、研究のかたわら、さまざまな昆虫の撮影を行う。2020年にシリーズ前作となる『驚異の標本箱―昆虫―』を刊行し、2021年には『角川の集める図鑑 GET!昆虫』で総監修をつとめた。(ともにKADOKAWA)。ほか監著書多数。2024年日本動物学会「動物学教育賞」を受賞。2024年12月に『神秘の標本箱 ―昆虫―』を刊行。
Xアカウント 丸山宗利 Maruyama:@dantyutei
カマキリとバッタのカッコ良さに魅了された現体験が、昆虫研究の道へつながった
わりとはっきりと覚えているのですが、子ども時代に住んでいた東京の新宿で、カマキリを初めて見た、というのが物心ついた時の記憶でした。その不思議なかたちや美しい色に惹かれて、親に昆虫図鑑を買ってもらい、そこからはもう夢中になっていきましたね。今は、アリと共生する昆虫を専門に研究していますが、子どもの頃はカマキリやバッタといったカッコいい昆虫が大好きでした。
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そんな私を両親は自由にさせてくれていました。頼めば図鑑を買ってくれましたが、積極的にサポートするといった感じではなかったんです。でも、自宅の近所にあった草むらで採集してきたバッタやカマキリを家で飼育していても、温かく見守っていてくれましたね。虫だけでなく、生物全般が子どもの頃から大好きで、鳥や魚も飼っていました。彼らの世話は私が責任を持ってみていました。習い事も、書道教室には通っていたくらいで、放課後の時間はもっぱら昆虫採集にあてていた中で、小学校中学年ごろから、動物園の飼育員や生物学者といった仕事に就きたいな、と思うようになっていました。
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私には姉がいるのですが、正直、虫は嫌いだったと思います。それでも弟の趣味に干渉しないでくれていました。親も「息子が虫好きだからサポートしなきゃ」というのもなく、自由してくれて。あんまり親がサポートしすぎると、子どもも「好きでいなきゃいけない」とに思ってしまうので、すごく良い環境で子ども時代を送れたと感じています。
読書も好きなことの一つでした。小さい頃は、ひたすら図鑑を読んでいました。その延長で『ファーブル昆虫記』も好きになったのですが、皆さんが想像するような「僕もファーブル先生みたいになりたい!」という気持ちはなく、純粋に読み物として楽しんでいましたね。中高生になると、文学が好きになり、いろいろな本を読んで文章を読むおもしろさを知りました。芥川龍之介など文豪の小説も一通り読みましたが、やはり星新一のショートショートが一番好きでしたね。
中高時代の部活動を通じて得たタフな精神
獨協中学校を進学先に選んだのは、生物学者になりたいのと同時に、医者にもなりたいという思いがあったからです。私は生物学者への道を選ぶことになりましたが、同級生の1/3が現在、医者として働いています。
部活動は「高山植物が見たい」という動機からワンダーフォーゲル部に入り、さまざまな山に登りました。今、振り返ると、ワンダーフォーゲル部で経験した「山を登る」ということ自体が、すごく今の人生にも役立っているなっていう感じがしています。やっぱり山登りって、結構辛いんですよね。でも、辛いことでも最後までやり通すことを山登りから学んだ気がしています。登っている途中は、キツくて「なんで来ちゃったんだろう」と思うのですが、頂上に到着したら、そこから見える景色の素晴らしさが途中の大変さを吹き飛ばしてくれる。そんな風に、苦労したことで望んだ以上の結果を得ることの楽しさみたいなものを部活動を通して学びました。
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面白い発見が尽きない、昆虫の世界
鳥の保護活動をされている先生がいて、私もそうした活動に携わりたい。そんな理由で東邦大学を進学先に選びましたが、最終的に、昆虫の研究をするために北海道大学の大学院農学研究科へ進みました。
昆虫は、どれだけ観察したり、さまざまな場所に採集に行ったりしても、毎回いろんな発見があるんです。とにかくいろんな種類がいて、地域の固有種がいたり、新種が登場したりと、終わりがない。いつまでたっても新しくて、おもしろい発見がある、という多様性が、昆虫の一番の魅力だと思います。
大学院生の時、論文を書くのに標本の写真を撮らないといけない、というところからカメラをはじめました。一時期、アメリカに留学していた時に深度合成という、複数枚の画像からピントの合っている領域だけを選択しながら合成することにより、被写界深度の深い画像を作成する方法を勉強しました。その技術はヴィジュアルブックの『驚異の標本箱―昆虫―』『神秘の標本箱 ―昆虫―』にいきています。
大人にも昆虫の美しさを知ってほしいと思って作ったヴィジュアルブック・シリーズ
私が昆虫好きになったきっかけは、「綺麗だな」「かっこいいな」から始まっています。研究対象として面白いというだけではなくて、そのかっこよさや見た目の美しさも非常にモチベーションになっているので、多くの人に昆虫の素晴らしいビジュアルを見てもらいたいというのが、ヴィジュアルブックを作っている理由ですね。特に虫好きなお子さんをお持ちの親御さんに興味を持っていただきたいです。昆虫のことを嫌いでもないけど好きでもない、という方が多くいるので、そういう方々に少しでも好きになっていただくきっかけを作るために、虫の美しさを入り口にしています。
『驚異の標本箱―昆虫―』は、とりあえずいろいろな要素を全部入れたので、すごい本ができてしまったんです。今回、「第2弾を作ってください」と担当さんに言われ、『神秘の標本箱 ―昆虫―』を作ることになりました。また新しいものを作るということで、掲載する昆虫を考えるのがすごく大変でした。
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虫のキャッチコピーや紹介文は、ほとんど私が書いていますが、共著の工業デザイナー・吉田攻一郎さんと一緒に考えました。虫の美しさを皆さんにお伝えするために、ヴィジュアルブックの紙や印刷の発色など、仕上がりにはすごくこだわりました。このヴィジュアルブック・シリーズは、大人向けに作った本です。特に、「子どもは虫が大好きだけど、私はちょっと苦手」というお母さんにおすすめしたいです。昆虫の宝石のような美しさをとらえた深度合成写真をきっかけに「虫ってこんなにきれいだったんだ!」と思っていただいて、次に出会う虫に興味を持っていただけると嬉しいです。
日本語の解説と共に、英訳も掲載しているのは、日本を訪れた海外の方におみやげとして購入していただけたら、という思いからです。もちろん、お子さんにも楽しんでいただける本になっているだけでなく、めくるたびにいろいろな発見があると思うので、冬の寒い時期は、暖かいお部屋の中で、ぜひご家族そろってご覧になってください。
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虫好きのお子さん、その親御さんへのメッセージ
虫好きのお子さんをお持ちの親御さんには、お子さんの「好き」を否定しないようにするのと同時に、あんまり積極的に押しつけないのが大事だとお伝えしたいです。そして、子どもたちには、よく「どうしたら昆虫学者になれますか?」と聞かれるのですが、その時は、「昆虫以外のいろいろなことを知ることで、昆虫のことがさらにおもしろくなってくるよ」「国語でも算数でも、どんなことでも役に立つよ」と、伝えています。いろいろなことを知っているからこそ、「あれ、もしかしてこれって昆虫のこともでも一緒なんじゃないか?」といった、発想の広がりにつながることが研究者には特に大切なことなんです。ひとつのことだけだと行き詰まったりするので、「昆虫が好き」という気持ちを大事にしながら、いろいろなことに興味を持って世界を広げて欲しいですね。
ライター:中村実香
【書籍情報】
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『驚異の標本箱 -昆虫-』
著者:丸山 宗利 著者:吉田 攻一郎 著者:法師人 響
【定価】5,280円 (本体4,800円+税)
【発売日】2020年10月16日
【判型】A4変形判
【頁数】160頁
【ISBN】9784041094341
【全国の書店にて発売中!】
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『神秘の標本箱 ‐昆虫‐』
著者:丸山 宗利 著者:吉田 攻一郎 著者:法師人 響
【定価】5,500円 (本体5,000円+税)
【発売日】2024年12月11日
【判型】A4変形判
【頁数】160頁
【ISBN】9784041151341
【全国の書店にて発売中!】
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