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「子どもの歯の健康を守る【4~6歳 就学前編】」~知っておきたい口腔ケアの基本~

 近年、小さいころからの正しい口腔ケアが、その後一生のからだの健康に影響するという見方が浸透してきています。今や歯医者は「歯が痛くなったら行く」だけの場所ではなく、定期的な口腔ケアと治療を支える、おつきあいの長い場になっているといえるでしょう。

 生まれてから変化しつづけていく子どもの歯の健康を親はどのように守っていけばいいのか、【1~3歳 乳幼児編】【4~6歳 就学前編】【7歳以降 就学後編】の3回に分けて、子どもの歯を専門に診察・治療を行う、小児歯科専門医の坂部 潤先生にお話をうかがいました。

 今回は第2回の【4~6歳 就学前編】をお届けします。

◆第1回【1~3歳 乳幼児編】はこちら

【プロフィール】
坂部潤(さかべじゅん)
歯科医師、歯学博士(小児歯科学)、日本小児歯科学会認定小児歯科専門医、4児の父親、小児歯科専門医院「キッズデンタル」を目黒、成城、麻布、代々木上原、麹町にて運営〈www.kidsdental.info

4~6歳の成長期に起きること

 子どもの歯の成長期には、将来の歯の健康を左右する大事な過程が詰まっています。
 通常3歳までには乳歯が生えそろい、それから顎や歯の構造が変化していきます。この時期に健康な歯と顎の発育をサポートすることは、将来の永久歯の健康や噛み合わせに大きく影響を与えます。

①乳歯の生えそろいから安定へ
通常、3歳頃までに乳歯20本(上10本、下10本)が生えそろいます。
4~6歳頃は、乳歯が抜け始める前の「安定期」にあたり、歯ならびの乱れや噛み合わせがこの先どうなっていくか、専門家が見ると、おおよその検討がついてくる頃でもあります。

②顎の成長
この時期は顎が成長し、永久歯が生えるスペースが徐々に準備されます。
やわらかい食べ物ばかりを食べていると顎が十分に発達しないことがあるため、かみごたえのあるものをしっかり噛む習慣をつけることが大切です。

③永久歯への移行
5~6歳頃からは乳歯が抜け始めます。通常最初に抜けるのは下の前歯(下顎中央切歯)。それに伴い、永久歯が生えてきます。
6歳頃には「6歳臼歯」と呼ばれる永久歯が一番奥の乳歯のさらに後ろに生えます。この歯は噛む力を支える重要な役割を持つので、虫歯予防が特に重要です。

歯ならびはこの時期に決まる?

 基本的に3歳までは、歯ならびが気になっても特殊な治療をする必要はありません。ただし、反対咬合(受け口)や極端な噛み合わせの問題がある場合は、3歳以降の早めの矯正が必要な場合もあります。
 永久歯が生え始める6歳以降では、特に前歯や奥歯が重要です。この時期に噛み合わせや歯ならびの問題を発見し、必要であれば矯正治療を始めるのが効果的です。そのままにしておいて小学校高学年を過ぎてしまうと顎の骨が硬くなり、矯正が難しくなる場合があります。早めに小児歯科などでチェックを受けることで、将来の矯正の負担を減らせる可能性があります。

お口のケガには気をつけて

 つかまり立ちや歩き始めの頃に歯をぶつける外傷が起きやすいのですが、活動がより活発になる3歳以降もケガが多くなりますよね。
 特に乳歯が歯茎に埋まってしまったり歯の色が変わってしまったりした場合は要注意。乳歯の下に隠れている永久歯の芽を傷つけないように、慎重な対応が必要になります。
 乳歯の根の近くには、永久歯の芽(歯胚)があります。口をぶつけるなどで乳歯の損傷が歯胚に影響すると、次のような問題が起こる可能性があります。

●歯の形成不全: 永久歯のエナメル質や象牙質の発育が不完全になることがある
●歯の変色: 永久歯が生えてきた際に、表面が黄色や茶色に変色している場合がある
●歯の位置異常: 乳歯が早く抜けた場合、隣の歯が動いてスペースが狭くなり、永久歯が正しい位置に生えなくなることがある(歯ならびや噛み合わせに影響する)

 子どもが転んで顔や口をぶつけてしまったときには必ず口の中の状態も確認し、転んだときの頭や体の受傷のケアが済んだら、歯科も受診しておきましょう。

指しゃぶりの影響って?

 3歳までは指しゃぶりなどの癖があっても、それを無理にやめさせる必要はありません。おしゃぶりを使っている子も、3歳までは気にしなくていいでしょう。
 が、3歳を過ぎても指しゃぶりが続く場合は、歯ならびや噛み合わせに影響を与えることがあります。
 ただ、指しゃぶりの癖は、子どものストレスや不安を和らげる手段であることも多いので、無理強いしない範囲でやめさせるよう努めることも肝心です。スキンシップで安心感を高めたり、指しゃぶりの代替に手を使う遊びに誘ったりも効果があるかもしれません。

~セルフケアの本格的スタート~

★歯みがきの習慣化

 3歳あたりからは自分でちゃんと鉛筆持ちで歯みがきができるようになるので、もちろんお家で練習してもらってもいいですけど、それこそ歯医者さんで教わりつつ、上手にできるようになってもらうということがとても大切です。
 また、この頃からは社会性がより増えるので、与えられたものだけ食べているのではなく、あれがほしいこれがほしいと主体的に食べ物を欲しがるようになります。そこでどうしても甘いものの頻度が急激に増えるのもこの時期の特徴なので、歯みがき習慣をちゃんと身につける、その大事なステップの期間だととらえてほしいと思います。

★仕上げみがきの必要性
 仕上げみがきはもちろん、絶対に必要です。
 一応、仕上げみがきは8歳までは必要とされているのに小学校でやめちゃう保護者ってとても多いんです。でもそこはもうちょっと頑張って続けてほしいところですね。
 この時期は親が見守りながら自分で歯をみがく練習をさせつつ、必ず親が仕上げみがきをする。子どもに自分でみがかせるのはあくまで正しいみがき方と習慣をつけさせるためで、まだ自分だけでは歯の汚れを残さず取ることまではできません。
 ですから親による朝晩の仕上げみがきは、お子さんのお口にとって一番重要なケアだと思ってください。
 永久歯って、生えてきたときにはもう大人と同じフルサイズなんです。だから大きさは成長しないんですが、最初の2、3年は「幼若永久歯」といって歯質がやわらかいという特徴があります。なので、小学校1年生のあたりで6歳臼歯という奥歯で大人の歯が初めて生えるんですが、これが一番虫歯になりやすいと覚えておいてください。
 また虫歯は歯と歯の間にできやすいもの。仕上げみがきでは、歯ブラシやデンタルフロスを正しく当てることで、食べかすの残りやすい場所を意識してケアしましょう。

虫歯のできやすい場所(歯と歯の間)

歯ブラシの正しい当て方(歯の面に対して90°にブラシを当てる)

★かかりつけ歯科医を持とう

 もうひとつ、3歳過ぎたら必ず歯医者さんを探しておくことをおすすめします。
 みがき方指導や歯ならびチェックのほかにも、発音やものの食べ方、普段から口を閉じて鼻で息をする鼻呼吸や、いわゆるお口ポカンなど、そういう口腔機能のチェックと予防も3歳ぐらいから始めるほうがいいという説が出てきています。
 生活の中で改善していけることもたくさんありますし、早いうちのほうが対策の選択肢も多く、歯科医と相談して選んでいけるでしょう。

 4~6歳は、お口の中が大人の歯になっていく大切な準備期間です。 乳幼児だった頃より手がかからなくなることでつい生活習慣が乱れがちですが、ここで虫歯になりにくい食生活や歯みがきの習慣をつけておくと、この先のお口の健康管理を本人も親もしやすくなるでしょう。

 次回第3回は、歯が永久歯に生え変わっていく7歳以降の話を中心にお伝えしたいと思います。

◆第3回【7歳以降 就学後編】はこちら