「UNDEAD×UNKNOWN」水村ヨクト│第2話「切り離される」
第2話「切り離される」
親玉ゾンビから出てきた人間を見る二人。レイの一撃で体は真っ二つになっている。
ヒトマ「……人間? しかもゾンビ化した痕跡がない……」
レイ「ほお、こいつ、人間の脳を利用していたのか?」
ヒトマ「っ! なるほど、ゾンビにしては知能が高すぎると思ったけど」
レイ「この人間も災難だっ」
途端、レイの体が元に戻り、気を失ってしまった。
ヒトマがレイを抱きかかえる。
ヒトマ「……あんなに血ぃ出してたら、倒れもするよな」
レイの傷は既に治っていた。
*
ヒトマの父親の車を見つける二人。
レイ「移動手段確保だな」
ヒトマ「ああ! やったな……!」
レイ「朝飯前だ」
ヒトマ「すげえよ、すげえってレイ! 戦えるじゃん! 二人でも!」
ヒトマが屈託のない笑顔でレイを見る。
レイ「騒がしいなこの程度で。しかし、まだタイヤなんか使った乗り物とは、遅れている……」
言いながら、顔をそむけるレイ。少し頬が赤くなる。
そそくさと助手席に座るレイ。
ヒトマ「待って待って! 俺が運転するの!?」
レイ「? それ以外ないだろう。私はこの乗り物、見たことすらなかったんだぞ?」
ヒトマ「い、いや、俺だって免許ないし……」
レイ「免許ォ? 父親の運転を見ていただろう」
ヒトマ「それにしたってさあ……。しかもゾンビだらけの道をだよ?」
レイ「轢き放題だ」
ヒトマ「そういうことじゃ」
レイ「法律なんてとっくに無くなってるんだろう? 現に貴様は公共施設で不法占拠していたじゃないか。今更無免許運転など……」
ヒトマ「ま、まあそうだけど……」
レイ「腰抜けめ。貴様の志はその程度だったか」
ヒトマ「……え?」
レイ「貴様にとって詩乃とやらに会いたいという気持ちはその程度だったのかと言ったんだ!」
ヒトマ「ッ……!」
レイ「はあ~! そうかそうか、この程度で心が折れるとは、貴様にとってその女は大した価値もない人間なんだな! どうせ腹の底では好きでもなんでもないんだろ? 交尾が目的か?」
ヒトマ「はぁッ?」
レイ「この状況で奮い立ちもしないようなら、救う価値もないだろう。さあ、取引変更だ。別の願いはないのか」
俯き、震えるヒトマ。
ヒトマ「……俺のことはどうとでも言っていいけどよ」
レイ「なんだ」
泣きそうな顔を上げるヒトマ。
ヒトマ「詩乃のことだけは悪く言うんじゃねえ! なんにも知らねえくせに! 詩乃はッ……詩乃は! 俺の世界一の彼女なんだよ!!!」
レイ「……ッ」
ヒトマは再び俯き、足早に歩いてレイの元から消える。
レイ「おい待……冗だ、ん……」
車の窓から手を手を伸ばすも、すぐに引っ込めるレイ。
レイ「地球の、冗談……は分からんな」
*
立体駐車場のフロアを降るヒトマ。
ヒトマ(……ゾンビは、いないか)
フロアの片隅にある自動販売機横のベンチに腰掛けるヒトマ。
レイのセリフを思い出すヒトマ。
レイ「――貴様にとって詩乃とやらに会いたいという気持ちはその程度だったのか」
ヒトマ「……あああうおああぁぁ!!」
自分の髪をわしゃわしゃと掻くヒトマ。
ヒトマ「……くそ」
その様子を、物陰から捉えるアングル。
ヒトマ「? ……レイ?」
同時刻。
ヒトマの父親の車内。
首の機械を弄るレイ。
レイ「やっぱりダメか」
突然首元の機械が光り、音が鳴る。
レイ「! 直った!?」
通信相手『ザッ……聞……るか? 聞こえるか? レイ、応答しろ』
レイ「! はいッ! 聞こえます!」
通信相手『無事か』
レイ「私は無事ですが、帰還手段を失くしました」
通信相手『現在の状況と、これまでに至る経緯を全て報告しろ』
レイ「了解」
これまでの経緯を全て話すレイ。
通信相手『非常に分かりやすかった』
レイ「ありがとうございます」
通信相手『さて、レイ。今の話を聞いた上での命令だが』
レイ「はい! どんな命令も遂行します」
通信相手『帰還はしなくていい』
レイ「……ッ!」
通信相手『地球はもう諦める。そんな状態ではな……』
レイ「……では、私はどうしたら」
通信相手『さあな。自分で考えろ。上はもうお前は異星の地で戦死したことにしようとしてるよ』
レイ「ッそ、んな……」
通信相手『”何にもできない落ちこぼれ“って落胤を押されちまった自分を憎むんだな』
通信が切れる。
項垂れるレイ。
レイ「何にもできない落ちこぼれ……」
自分のセリフがフラッシュバックする。
レイ「――実験が終わったからモルモットを処分しただけだ」
ヒトマのセリフがフラッシュバックする。
ヒトマ「――すげえよ、すげえってレイ!」
ついに涙が零れるレイ。
軍の休憩室での会話がフラッシュバックする。
軍人1「何もできない無能にお似合いだぜ」
再びヒトマのセリフがフラッシュバック。
ヒトマ「――レイのお陰だ!」
ボロボロと涙が零れ、くしゃくしゃの顔でレイは笑った。
レイ「くそったれ……! これじゃあどっちが愚かな人類だ」
*
ベンチに座るヒトマ。
ヒトマ「レイだろ? 怖ぇから普通に出てきてくれ――」
姿を現したのは、1体のゾンビだった。
ヒトマ「……あぁ、まじか」
ゆっくりとヒトマに向かって来るゾンビ。
ゾンビとの間合いを測るヒトマ。
ここだというタイミングで、振り向き走り出す。
ヒトマ「……ッッ!!」
その振り向いた先にも、2体のゾンビが蠢いていた。
ヒトマ「こんなことってあるかよッ……!?」
駐車場の通路でゾンビに挟み撃ちに遭ったので、仕方なく車と車の間を縫って逃げ出す。
ヒトマ「くそッ、奴らが邪魔でレイと合流できねえ」
下フロアに向かう通路に走るヒトマ。
ヒトマ「ぅッ!?」
下から無数のゾンビが上がってくるのが見えたヒトマは、踵を返し身を隠せる場所を探す。車の扉を探るも、運よく鍵の開いた車が中々見つからない。
ヒトマ「なんでッだよ!」
気づくと四方をゾンビに囲まれ、追い詰められたヒトマは、フェンスによじ登る。
ヒトマ「こんなの……時間の問題……」
足元にゾンビが迫り、今にも掴まれそうである。
一体、突然変異か、巨漢のようなゾンビが迫り来る。
ヒトマ「ああぁぁあッ……!!」
そのとき、けたたましいエンジン音とブレーキ音が鳴り響き、ヒトマを取り囲んでいたゾンビが一瞬にしてはじけ飛ぶ。
ヒトマ「!?」
突然姿を現した車のフロントガラスに、目元を真っ赤にしたレイの顔が映る。
ヒトマ「レイ!」
レイ「なァに勝手に死にかけてるんだ貴様はァァ!?」
車から飛び降り、自らゾンビに噛まれるレイ。
即座に変身し、ゾンビをなぎ倒す。
ヒトマ「な……ッんで……?」
レイ「全然戻ってこないし! なんか変な音するし! 臭ぇし! もしかしてって思ったんだッ!!」
ヒトマ「心配、してくれたのか」
レイ「うっせぇなあ! 貴様が持ってるその球がないと困るんだよ!!」
ヒトマ「ていうか運転!?」
レイ「地球人ごときが作った車の運転など、朝飯前だッ!」
次々と小物のゾンビを倒していき、だいぶ数が減ってくる。
瞬間、レイの両腕に巨漢のゾンビが掴みかかる。
レイ「ぅぐッ」
巨漢ゾンビはそのままレイを宙に持ち上げ、腕を引っ張り続ける。
レイ「ああぁぁぁあああっぁぁああああぁあっぁぁ」
ミシミシとレイの腕から音が鳴り、徐々に胴体から裂けていくのが分かる。
レイ「~~~~~~~~ッッッ!!」
遂にレイの両腕は巨漢ゾンビに引き千切られる。
しかし、それで自由の身になったレイは地面に落とされた衝撃を利用し飛び上がり、変質した鋭い歯で巨漢ゾンビの首元を嚙み千切った。
巨漢ゾンビはその場に倒れ、再起不能になる。
それからしばらくレイによる殺戮が続いた。
その場にいるゾンビを全て倒し終えると、レイはヒトマにもたれかかるように倒れる。
ヒトマ「レイッ……!」
レイ「……ヒトマ、私……帰る場所がなくなってしまった」
ヒトマ「……そうか」
レイ「……私は、弱い」
ヒトマ「そんなことない。今、俺を守ってくれた」
レイ「……私は、落ちこぼれだ」
ヒトマ「違う」
レイ「……」
朦朧とするレイ。
レイ「…………さっきは、酷いことを言った。……ごめん」
ヒトマ「……うん」
レイは微笑み、そのまま眠ってしまった。
目が覚めるレイ。
前方が大破した車の後部座席で、ヒトマは隣に座っている。
ヒトマ「起きたか」
レイ「……ああ」
ヒトマ「……助けてくれて、ありがとう」
レイ「はっ……私がいないとダメだな、貴様は」
ヒトマ「ごもっともで」
レイの腕は再生が始まり、傷口はふさがっていた。しかし、肝心の腕は生えかけで、肩から細い突起が出ている。
レイ「だが、これでは私は戦えないかもしれない」
ヒトマ「一度戻って立て直すか?」
レイ「立体駐車場に出る扉、バリケードを直す暇などなかったろ」
ヒトマ「……あ」
レイ「今となっては、貴様の棲み処も安全ではないだろうよ」
ヒトマ「……」
レイ「貴様が、やれ」
ヒトマ「は!? いや、無理だって……」
レイ「ここまで来て、引き返すのか?」
ヒトマ「でも」
レイ「……まあすぐに答えはいらん。もしかしたら、詩乃の元へ辿り着くまでに私の腕が治るかもしれんしな。考えておけ」
ヒトマ「……ああ」
レイ「しかし、これでは移動手段にならんな」
前方が大破した車を見て、レイが言う。
ヒトマ「……いや、ゾンビの気配もないし、今なら……」
*
デパートの前。先程とは別の大きめの車に乗る二人。
ヒトマ「キー刺しっぱなしの車、奇跡的に見つかってよかった」
レイ「そういうこともあるのか……」
ヒトマ「レイが周りのゾンビを掃討してくれたおかげで探す時間が取れたんだ、ありがとう」
周囲にゾンビはいないが、遠目にはそこそこの数が見える。
慎重に車を運転するヒトマ。
ヒトマ「運転なんか初めてだ……」
レイ「いいか、できるだけスピードを出して、ゾンビ共に押し止められないようにするんだ」
ヒトマ「さ、流石に軍人さんは冷静……」
レイ「死にたくなければ、そうするしかない」
ヒトマはレイの目を見てから、また前を見て深呼吸する。
ヒトマ「よッッしゃ」
ヒトマはアクセルを思い切り踏み込む。
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