徹夜のスイートポテト
好きなお菓子はしょっぱいものなので、ハロウィンにちなんだ企画のお題にそぐわないかなと思い、甘いお菓子を作ったときのお話にしたいと思う。
甘いお菓子の話だが、少しほろ苦い話となり、みなさんの素敵なお話と一線を画すので、それでもよいという方にだけ読んでいただければ幸いである。
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「ハロウィンに、女子みんなで手作りお菓子を持ち寄ろうよ!なるべくかぶらないようにしようね!」
高校二年生のとき、クラスの中心にいた女の子が言い出したことがきっかけとなり、ハロウィンパーティーが10月31日の昼休みに開催されることになった。
その子はお菓子作りが好きで、ケークサレを作るという。
みんな楽しそうに自分は何を作ろうと盛り上がっていた。
31日は水曜日。手作りだから、日持ちもしないし、部活終わりに前日作るしかないか。
料理は目分量、レシピから簡単になるようアレンジが当たり前で、きっちり計り、行程を疎かにできないお菓子作りを普段しない私には、正直少し気が重かった。作れそうかなと思うものは、みんな作ると言っていたものばかり。どうしたものかと考え、レシピサイトを調べる。
チョコ系はバレンタインと被るからそれ以外ということになり、愕然とした。お菓子作りが苦手な者にとって、チョコレートは救世主なのだ。簡単に見映えのするおいしいお菓子ができあがる。その選択肢は哀しくも潰えた。
他にお菓子、お菓子。クッキーはなんだか難しそうだし、ケーキはみんな作るって言っていた。お菓子というと、チョコ、パウンドケーキ、ブラウニー、ゼリーしか成功したことがない。シュークリームは以前失敗したし。りんごパリパリ(注)をお菓子として持って行ったら、小学生の時以上に馬鹿にされる。そういうキラキラ女子たちの前でも見劣りしないものは…
サイトをスクロールしながら、これ食べたいなぁと思ったのが、スイートポテト。
秋らしいし、作るって言っていた人もいないから被らない。これしかない、と思った。
今考えると、いっそパイシートを買ったほうがお手軽だったかもしれないし、出来合いのものにデコレーションだけして持って来ていた人もいて賢い!と膝を打った。
ただ当時の私は必死だった。
そうと決まれば、週末の部活帰りに、さつまいもを始めとする材料を調達した。
前日。
午前中の授業の予習は昼休みに済ませ、部活を終えるとすぐバスに飛び乗り、バスの中で宿題を進める。
帰宅し、夕食と入浴を済ませ、お菓子作りに取り掛かる。
見かねた母が手助けを買って出てくれ、さつまいもは洗ってくれていた。
まず皮を一緒に剥き、茹でる。
計算外だったのは、ここにえらく時間がかかったことである。
レシピには、茹でて柔らかくなったら潰し、裏ごしする、ここまでの行程を一行でさらっと書いてあった。
パッと見のレシピは数行で簡単に見えたのもあってスイートポテトを選んだが、甘かった。
クラスメイト十数名分のさつまいもは尋常じゃなく多い。数回に分けて茹でる。
それが柔らかくなるまでに時間を要し、やっと潰しにかかるところで、また誤算。
今度は、なんだか水っぽい。茹で汁がボウルに入ってしまったようだ。牛乳の量を減らすことで対処した。
ここまでで既に時計の短針はてっぺんを過ぎていた。
さすがに申し訳ないので、後少しだから、と母には休んでもらう。
ボウルに材料が入りきらず、また数回に分けて潰し、混ぜ合わせる。
ようやくまとまって、成形に入る。
やはり少しゆるいが仕方ない。小さな俵形になるよう成形し、溶いた卵黄を刷毛で塗る。
ちなみに刷毛はこのために百均で買った。
誤算は続く。
薄々感づいてはいたが、そう、オーブントースターが非常に小さいのだ。
一回に二個ずつ、家族分も含め十一回焼いた。
最後にアルミカップに乗せて完成。
疲れたー。
家族用に作ったほうの自分の分を、一口食べてみる。
おいしい!熱々で秋の深夜に冷えた身体が温まり、少し焦げ目のついたところが香ばしく、さつまいもの優しい甘さが口いっぱいに広がり、すべてが報われる気がした。
でもこれで眠れるかというとそうではなく、残った宿題と午後の授業の予習が待っていた。
すべてが終わった頃には空が白みはじめていた。
昼休み。
いよいよハロウィンパーティーの開幕である。
華やかなお菓子が繋げた机上に広げられていく。恐る恐る自分の作ったスイートポテトを並べる。
「うわー!スイートポテト!おいしそうー!」
「食べてもいい?」
「うん。」
ドキドキ。
「おいしいよ!」
「よかった~、初めてやけん心配やったんよね。」
結果は好評。終わりよければすべてよしである。
とはいえ大変で、次のバレンタインデーは簡単なものにしようと決めた。
早くも、来年受験で断れるからよかった、なんて思ったものだ。
(注)りんごパリパリとは、以下の記事で紹介した、りんごジャムを使ったおやつです。