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絵本の蔵書(その14)「紙しばい屋さん」「月夜の誕生日」他

 時代とともに、変わってゆくものと、変わらないもの……。透明感あふれる絵で情感豊かに描かれる、ひとりの紙しばい屋さんの物語。

紙しばい屋さん アレン・セイ 作 (ほるぷ出版)

 日本で生まれアメリカへ渡ったコルデコット賞作家、アレン・セイの絵本。(ほるぷ出版)

 この本はむしろ作家のプロフィールの方が興味深いと思われるので書き出してみます。(裏表紙の袖に書いてあります)
 アレン・セイ。本名はジェームズ・アレン・コウイチ・モリワキ・セイイ。1937年横浜生まれ。アメリカ在住。中学生時代に東京で漫画家の野呂新平に師事し、絵を学ぶ。16歳で渡米し、兵役を経て写真家に。本業のかたわら、小説なども執筆した。1972年に初めての絵本を出版。50歳を迎えた頃から絵本創作に専念し、1989年“The Boy of the Three-Year Nap”がコルデコット賞オナーに選ばれる。1994年には「おじいさんの旅(“”Grandfather's Journey)」(ほるぷ出版)でコルデコット賞受賞。

 久しぶりに紙芝居を用意して自転車で都会へやってきたおじいさんは、すっかり様変わりしてしまった世の中にびっくりします。誰も見向きもしない紙芝居で一人語りをしていると、気づけば昔子供だった大人たちが懐かしんで取り囲んでいました…。

 現実はこんな上手くはいかないと思うので、あくまでも作者が想い描いたファンタジーなのでしょう。私も紙芝居は全く記憶に残っていない世代ですが、親の絵本の読み聴かせに近いもののように感じます。残念ながら、現代の子供はさらに派手で騒々しく、スピード感のある情報を欲しがるようになりました。つまり紙芝居が廃れた要因は、今の情報伝達の速さが関係しているのではないかと思います。
 速くて便利な方を取るか、遅くて不便な方を取るか。果たしてどちらが人間にとって良い事なのか。私の言葉には何の真実もありませんが、便利な世の中は嬉しいけれど、忙しない今の人の心はあまり好きになれません。


月夜の誕生日
作:岩瀬 成子 絵:味戸 ケイコ (金の星社)

 今夜は月食。月の消えた間の不思議な誕生会で、いろんなものをあげてしまった女の子は、まるで生まれ変わったようで嬉しくなります。桃色の月影の下で繰り広げられる、幻想的な出来事を描いた美しい絵本。(金の星社)

 すべてを否定するわけではありませんが、日本の新しい絵本はどうも中身が薄いように感じてしまいます。面白くても心に何も残らない。優しくて軽くて、何の痛みも覚えない世界には何の魅力も感じません。時にはトラウマになるような物語こそが、子供に本物の人生を教えると、遠い昔の思い出の中に記憶しています。そんな私は間違っているのでしょうか。


木を植えた男
作:ジャン・ジオノ 絵:フレデリック・バック
訳:寺岡 襄 (あすなろ書房)

 フランスの山岳地帯に一人とどまり、何十年もの間黙々と木を植え続け、森を蘇らせた男。その不屈の精神を感動的に綴る物語絵本。

 とても有名な一冊だと思いますが、これはフィクションです。現実的なことを踏まえた虚構であろうと思います。お洒落なプロヴァンス観光に興じる人々への眼一杯の皮肉かも知れません。いつの世にもどこかに存在するであろう名も無き聖人の物語。
 現実にここまで完璧な人物は存在しないかも知れませんが、近い存在や似たような人物は無数にいるのではないかという想像です。
 ただそういう人はいつも人知れずどこか目立たぬ所に生きています。ちょっと宮沢賢治の“アメニモマケズ”に通じるところがあるようです。この本を読んでもう一つ思いだすのは漫画「風の谷のナウシカ」です。知っている人にだけは伝わるはずです。

 字幕をONにすると日本語が読める英語の朗読アニメーション動画ですが、最後の3/3は未訳。ご覧になれば、この絵本の雰囲気が分かります。


森のおひめさま
作・絵:ジビュレ・フォン・オルファ-ス
訳:秦理絵子 (平凡社)

 森のちいさなおひめさま、ちいさなすてきななかまたちと、きょうもたくさんわらって、あそんだ。幸せな子どもの1日をやさしく、いきいきと描いたドイツ古典絵本の名作。待望の翻訳です。
 作者は貴族の家柄に生まれ、修道女になって絵本も書いたそうです。この表紙は少し地味に見えます。中のページをめくっていると、もっと表紙に相応しい絵が他に沢山あるような気がしました。擬人化された森の精たちは、任天堂マリオシリーズのキノピオを連想させます。


ベルベットうさぎのなみだ
文:ルー・ファンチャー 絵:スティーブ・ジョンソン ルー・ファンチャー
訳:成沢栄里子 原作:マージェリィ・ウィリアムズ (BL出版)

 クリスマスに男の子の元へやってきたうさぎのぬいぐるみ。木綿のベルベットでできたこのうさぎは、長い間遊んでもらえずに、子ども部屋の隅ですごしていました。あるとき、おもちゃの馬が「ほんものになる」ことを教えてくれます。それ以来、うさぎは、ぬいぐるみ以上のほんものの「何か」になろうと決心し……。愛される幸せを、せつなく、あたたかく描いたM・ウィリアムズの名作が、美しい絵本になりました。(BL出版)

 「ビロ-ドうさぎ」という児童文学をもっと子供向けに書き直した絵本だそうです。ですが、決して無理やりダイジェストにした感じではなく、自然な名作絵本として成立しています。アニメ映画のトイストーリーなど、擬人化された世界の感動に飢えた人の心には必ず響く物語です。


「絵本の蔵書」は、終了した「クックパッドブログ」で以前連載していた(所有している)絵本の紹介です。最終的には103冊ありました。(その20)まで続きます。古い名作絵本は、図書館に行けばたぶん見つかります。


<(ↀωↀ)> May the Force be with you.