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絵本の蔵書(その18)「南極のペンギン」「とんことり」他

 俳優・高倉健が映画のロケ地などで実際に体験し、感じたこと、また土地土地でふれあった人々のことなどが、やさしい言葉で綴られています。

南極のペンギン
高倉 健(著) 唐仁原 教久(画) (集英社)

 南極の雪あらしの後で見たペンギンの群。アフリカで出会った砂あらしを待つ少年。北極で暮らすインド人。オーストラリアの牧童たち。沖縄の住民総出の運動会。ふるさとそのものだったおかあさん。四十年余りの映画俳優人生のなか、世界中で出会った「優しい心」たち。誰のなかにもある優しい心のぬくもりを綴るハートフル絵本。

 短い文章でつづられた高倉健のエッセイを魅力的な挿絵で彩った大人向けの絵本です。亡くなってから、相続問題で色々書かれており、残念ながら“立つ鳥跡を濁さず”とはいきませんでした。人間には多面性があります。完璧な聖人君子など存在しません。高倉健をそのような存在に想わせるのは、映画の中の幻想です。
 でも、この本を読めば彼の優しい人柄は分かるはずです。


みずうみにきえた村
作:ジェーン・ヨーレン 絵:バーバラ・クー二ー
訳:掛川 恭子 ほるぷ出版)

 あたりまえのように感じていた、自然のすばらしさや、やすらぎを与えてくれた故郷の村が、ダム建設のため、水の底に沈められてしまった、そのようすを、ひとりの少女の目を通して、叙情的に描いた作品。(ほるぷ出版)

 祖父の墓石の上でピクニックをする描写に、文化の違いを感じました。絵を見れば分かるように、昔の墓地は公園のような所だったのでしょう(現在の墓地はどうか分かりませんが)。これなら昼間でも幽霊を恐れる雰囲気ではありません。

 私の住む北海道・十勝地方にも糠平ダムによって形成された糠平湖(ぬかびらこ)があります。子供の頃、冬場に何度も父親とワカサギ釣りに訪れました。温泉観光地なので湖のそばには町がありますが、かなりの山間部で、かつて貯水地の底に人々の歴史があったのかは分かりません。
 湖の底に沈んだ村のイメージは、悲哀とともにどこか幻想的です。


とんことり
作:筒井 頼子 絵:林 明子 福音館書店

 山の見える町に引っ越してきたばかりのかなえと、新しい友だちとの出会いが、かなえに宛てられた不思議な“郵便”の謎を通して、感動的に描かれます。(福音館書店)
 なんてことのない他愛無いストーリーなのですが、いい歳をした大人が読んで、何か心にぐっと来るものがありました。始まりは「千と千尋」を思わせるような引越し家族の日常ですが、ちょっとした不思議な出来事が、幼い子供のドラマを徐々に盛上げて行きます。

この解説を書くために初めてきちんと読みましたが、素晴らしい絵本です。


大人向けの小説であり、宝物のような絵本。

 以下の二冊は両方とも、ミヒャエル・ゾーヴァという著名な画家でイラストレーターが絵を描いている単行本です。厳密には子供向けの絵本ではありませんが、たぶん手にとってご覧頂けば、絵本でなければ何なのかと思ってしまう挿絵の多い読み物です。

エーリカ あるいは生きることの隠れた意味
エルケ・ハイデンライヒ(著) ミヒャエル・ゾーヴァ(絵)
三浦 美紀子(訳) (三修社)

 クリスマスの準備に忙しく、そして疲れてイライラしている道行く人も、私とエーリカを見れば微笑まずに入られなかった。エーリカというピンクの大きなブタのぬいぐるみが、生きることの意味をそっと教えてくれる大人の物語。(三修社)

 ささくれだった人の心を癒すもの。巨大なピンクの豚のヌイグルミを抱えた女性ベティは、疲労困憊した年末のクリスマス前に昔の彼氏から電話を受け、お土産を買うつもりがなぜか彼女“エーリカ”を買い求めた。飛行機を乗り継ぎ、電車に乗って目的地へと急ぐ。彼らの周囲には常に子供たちの好奇の眼と、大人たちの笑顔がついてきた… 男は終った関係を何度も蒸し返すが、女は一度終った関係に目もくれない。


ちいさなちいさな王様
アクセル・ハッケ(著) ミヒャエル・ゾーヴァ(絵)
那須田 淳・木本 栄(訳) (講談社)

 この世の中のことは全て本当のことなのか?僕の人差し指サイズの小さな王様。王様の世界では大きく生まれて成長するにつれ小さくなり、しまいには見えなくなってしまうという。長きにわたって愛されてきた30万部突破のドイツのベストセラー小説。「いま、大人が読むべき絵本」と柳田邦男氏推薦。(講談社)

 はるかな昔から世界中に妖精など小人の話は良くあります。また近年日本では“小さいおじさん”という都市伝説が聴かれますが、本書はそれに似ているような気がします。何かの自己投影が実体化して見えたもののようです。
 幻には違いありませんが、心の中にある否定し難い自分自身の欲求が象徴的な姿となって現れる。現代社会で疲弊した人間が生み出す心像風景が、いつか本当の伝説となって100年後に伝わるのかも知れません。
 残念ながら私は幽霊も小人もUFOも目撃したことがありません。超現実主義者だから、合理的でないものは一切見えません。見えたら楽しいと思うのですが…

「エーリカ」は一度読んだ記憶がありますが再読しました。「ちいさなちいさな王様」は初めてちゃんと読みました。短編小説ですので、読書暦に記録しました。どちらも同じ画家による表紙と挿絵ですが、作者も内容も全く別です。たぶんプレゼントに向いている本なのだろうと思います。
「エーリカ」は主人公が女性、「ちいさなちいさな王様」の主人公は男性。なんとなく年齢や仕事の疲労感が二人とも似ているところが面白いと思いました。メッセージ性の高い読み物なので、誰かに渡すのであれば、自分でも一度は読んでみる必要があります。有名な本だから、図書館に置いてあるかも知れません。


「絵本の蔵書」は、終了した「クックパッドブログ」で以前連載していた(所有している)絵本の紹介です。最終的には103冊ありました。(その20)まで続きます。古い名作絵本は、図書館に行けばたぶん見つかります。


<(ↀωↀ)> May the Force be with you.