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シャドウプレイ

 真夏の早朝。職場へ向かう途中に交差点での信号待ち。

太陽の光と、全面ガラス張りのビルに反射する太陽の光で、自分の影が二つできる。そこに自分が2人いるように見えて、心の中でもう1つの影と会話をするのが日課になっていた。

 「おはよう」
『おはよう。ごはん食べた?』
「いや、食べてない」
『寝坊したんだね』
「うん。コンビニでサンドイッチでも買うよ」

信号が青になった。

「じゃあ、行ってくるね」
『お気をつけて』
横断歩道を渡りはじめると、影は消えた。

 次の日は雨だった。光源が無ければ影はできず彼には会えない。暗い天気も相まって少し寂しく感じた。

 季節は秋になった。日の出時刻が少し遅くなり、朝はとても寒いが、昼は少し暑いという、服装に困る季節を迎えた。

まだ影と会話をしている。

「おはよう。薄くなったね」
『髪が?』
「いや影が」

一人でクスクス笑った。

「もう会えなくなるね」
『来年暖かくなれば会えるよ』
「そうだね・・・」

 彼はその年に仕事を辞めた。

知っている。

君はこの冬、死のうとしている。

職場では明るく振る舞っているが、その職場環境の劣悪さにうんざりしていた。

そして君は、そんな状況を誰にも話せなかった。

最期に人と会話をしたのはいつだ?

僕とは会話をしていた。しかしそれは君自身ではないか。

僕は光に当たった君の影だ。

だから僕は、明るく振る舞う君の、他の人に知られたくないかげの部分を知っている。

もうやめたい。もう死にたい。そんな心の声を毎日聞いていた。

 季節は春になった。日の出時刻が少しずつ早くなっている。

僕がこうして喋れているということは、君はどこかで生きているのだろう。

 全ての道が交わる街の中心で君を待っている。

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