周邦彦 「六醜・薔薇謝後作」
[散り落ちた薔薇]
いまや単衣の 新酒の味を試る季節
わたしは旅の身 いたずらに時を過ごしている
しばし留まれと願うも 春は帰りを急ぐ鳥の翼
ひとたび去れば 跡形もない
花はどちらへ と尋ねてみる
楚国の美女は 夜の嵐に葬られ
落ちた簪に香りを残し
桃の小道にみだれ散り
柳の通りに舞い飛ぶ
この花を惜しんでくれる者などいない
ただ蜂や蝶だけが 言付けでもするかのように
しきりに窓の格子をつついていた
ひっそりとした東の庭は
いつしか深い緑がこんもり茂る
静かに茂みをそぞろ歩けば ため息が絶えない
長い枝が 旅人を引き止めてくるのだ
尽きぬ別れの思いの丈を 話したくて仕方がないというように
散り残る小さな花を わたしの頭巾にかざしてみたところで
女の頭にあるように ゆらゆらと愛嬌を振りまいてはくれない
水に落ちても 潮には流されないでおくれ
その紅い花びらに徴された あふれる想いを
見ることさえできなくなってしまうから
正單衣試酒
悵客裏 光陰虛擲
願春暫留
春歸如過翼
一去無跡
為問花何在
夜來風雨
葬楚宮傾國
釵鈿墮處遺香澤
亂點桃蹊
輕翻柳陌
多情為誰追惜
但蜂媒蝶使
時叩窗隔 東園岑寂
漸蒙籠暗碧
靜繞珍叢底
成歎息
長條故惹行客
似牽衣待話
別情無極
殘英小 強簪巾幘
終不似一朵釵頭顫裊
向人欹側
漂流處 莫趁潮汐
恐斷紅 尚有相思字
何由見得