連載「静岡から愛知へ②~演劇の何が面白いのか~」
どうも、横田です。長らく間が空きました。「静岡から愛知へ」という連載の第二段の記事が出来ました。
先日、静岡市にあった小劇場「七間町このみる劇場(※)」で、劇場主の蔭山さんのご後援により、『演劇の何が面白いのか』というトークイベントを開催いたしました。
俳優の関根淳子さんを招いて、横田の演技法を、少しだけ体験してもらいました。関根さんは、かつての僕の職場でもあった静岡県舞台芸術センターの俳優さんです。お互いに戯曲を書く身として、静岡で一緒に何かできないか、と話が盛り上がり、企画が実現に至りました。
横田のワークを理解してもらえたかどうかはさておき、何回か稽古をしていく中で、お互いの演劇観の違いがハッキリしてきて、それが面白かったので、記録することにしました。
時:2017年3月7日 場所:このみる劇場(静岡市)
※「七間町このみる劇場」は、H29年4月に閉鎖しました。
※連載第一回「記譜のフォーマットを考える」https://note.mu/yokotatakao/n/n0eaf92e5aef4
■挨拶
横田 こんばんは。今日は、よろしくお願いします。「演劇は何が面白いのか」というタイトルをつけさせていただきました。演劇について熱く語る夜にしていただければと思います(笑)。
関根 SPAC演技部の関根淳子です。私と横田さんは、同じ職場で働いています。二人とも戯曲を書くのですが、AAF戯曲賞に去年二人とも応募したということを、たまたまフェイスブック上で知って、せっかくSPACの中に、戯曲を書いている人たちがいるんだから、普段職場で話さないようなことを話そうよ、という話になりました。……彼が書く戯曲は、すごく分かりづらいんですね(笑)。でも面白いんです。それで、私が書く戯曲は、すごく分かりやすい(笑)。逆に普通過ぎて、何が面白いのか分かりづらい。……だから、演劇は何が面白いのか、ということを探る企画にしました。
横田 えー、今日はですね。演劇について語った分だけ、投げ銭いただければ幸いです(笑)。
■ワーク①:音階を平坦にして「わたし」と言ってみる
横田 まずはワークショップをしてみたいと思います。
(参加者が舞台に上がる)
横田 人間は、言葉の意味に捉われています。その意味を解体して、改めて復活させる、ということやりたいと思います。……単純なことをやっていただきたいと思います。「わたし」という言葉を、先入観から解き放つワークをしてみたいと思います。リズムとテンポ、音階をなくして「わたし」と言ってみます。日本語ですと「わたし」は、「わ」が低くて、「たし」が高いんですね。音階を平坦にして発音してみたいと思います。……では、お願いします。
参加者 わたし……。
横田 五回くらい、繰り返しましょうか。そうしたら、意味が分からなくなってきますので。
参加者 わたし、わたし、わたし……。
横田 「わたし」という言葉自体が、解体されていく感じがあると思います。……では、次に体を動かしながら「わたし」と言ってみてください。
参加者 わたし、わたし……。
横田 ……ありがとうございます。どんな感じがしますか?
(参加者、それぞれの意見を言う)
横田 ……ありがとうございます。今日は短縮版なので、細かいところまで話せないんですが、音階を平坦にしようとすればするほど、学習された音階が、思い起こされるんですね。習慣によって、言葉と体がいかに結びついているのかがわかると思います。
■ワーク②:裏打ちで「わたし」と言ってみる
横田 「わたし、わたし、わたし」と同じ音階で言ってもらいましたが、次は裏打ちの練習をしてみたいと思います。歩きながら、足を踏んだ時が表拍で、膝を上げているときが裏拍です。これをやると、不思議とリズムというか、音楽性が生まれてきます。まずは、足が地に着いたときに発語する、表拍のリズムでやってみたいと思います。
(参加者、めいめいに足踏みをしながら「わたし」とつぶやく。)
横田 はい、ありがとうございます。次に、膝が上がっている時に発語してみたいと思います。これ、すぐにはできないかもしれないんですが、(実演する)こうですね。「わたし、わたし……。」では、お願いします。
(参加者、めいめいに足踏みをしながら裏拍で「わたし」とつぶやく。)
横田 はい、ありがとうございます。これ、もっとたくさん練習すると、もっと分かりやすいんですが、今起きていることを言葉で説明すると、表拍の時は三拍子なら三拍子、四拍子なら四拍子で「わたし……」というリズムになっています。裏打ちでやる場合、「わたし」の発音する一つ前に強勢のアクセントが入ってくるんですね。表拍だと「わたし」ですが、裏拍だと「んわ、んた、んし」になります。リズム感が生まれてくるわけです。ノリが良くなるというか、若者っぽくなりますね(笑)。……ありがとうございました。
■トーク:演劇の何が面白いのか
横田 言葉と体は密接しているんです。それを引きはがしてみるというのが、演劇の面白さではないかなと思っています。
関根 横田さんは、自分の劇団をやっていたんですよね? 東京でもこういうことを、やっていたんですか?
横田 そうですね。それで作品を作ったりしていましたね。関根さんにさんざん分からないといわれてしまうんですが(笑)。
関根 言葉の意味を解体して統合する。それが、演劇の面白さですか?
横田 人間は、何も知識や経験――それは愛だとは思うんですが――がないと、世界とは結びつけない。世界とぶつかってしまう。世界が痛く、トゲトゲしく当たってしまうんですね。言葉を学ぶと、世界と親しみを持てるようになります。言葉を通じて、世界と親しみを持つのが、演劇の役割であり、演劇の面白さだと思っています。
関根 その手法が、言葉を解体していく、ということですよね。私も同じようなテーマを考えているんですが、手法が真逆なんですね。私は、スパック以外だと、お寺とかでお仕事させていただいているんですが、そこでは分かりやすい一人芝居をやっています。……横田さんとは真逆にいっているなと。
横田 関根さんが、演劇の面白さだと思っているものはなんですか?
関根 演劇を通じてやりたいことは、他者の他者性をしみじみと感じたい。世界との出会い方が色々あるとして、普段生活していても、いろんな人、いろんなことがあるなあと思うんです。息子や家族、両親などの身近な人、そして自分でさえ、こんな人がいるのか、って思うことがあります。また逆に、遠い人や嫌いな人とでも、共通しているところがあったりもする。人はそれぞれ違うんだ、ということを感じる時があると思います。違うものが重なる瞬間をみんなで共有する瞬間がある。それを演劇で生み出したい。それともう一つ。演劇には人が出てきて、人が見ているわけじゃないですか。人が作品の中で変化する瞬間を共有するのが面白い。人や、人と人との関係が変化する、その仕掛けを書いたのが戯曲だと思います。人が変化する瞬間って、美しくいとおしいですね。
横田 そうですね。あ、もう時間ですね。……30分は短いですね。本日は、ありがとうございました。
(拍手)
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出演者:横田宇雄、関根淳子
2017/03/07収録
会場:七間町このみる劇場(静岡市)
関根淳子さん
静岡県舞台芸術センター-SPACの俳優、演出家。東京生まれ、東京大学卒業。SPACでは『マハーバーラタ』『忠臣蔵』などで国内外の演劇祭に出演。劇団音乃屋を主宰し、一人芝居と日本舞踊、生演奏を組み合わせた「音楽物語」「舞語り」などで独自の舞台世界を創り出している。