共感ではなく、共観。
「0(ゼロ)から1」の難しさはどこにあるのか
の続きです。
2023年5月1日刊行予定の拙著『共観創造: 多元的視点取得が組織にもたらすダイナミズム』のタイトルの話をしたいと思います。
共観創造というタイトルを、「共観」ではなく、「共感」と見間違えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。チームで創造的成果を生み出そうとする実践では、ユーザーとの共感や、メンバー間の共感が大事ということがしばしば言われるので、それは無理もないことです。スタンフォード大学のデザイン思考のプロセスでも、「共感」が冒頭に登場します。
共感という言葉を聞くと、企業の方にとっては、仕事の場で私的な感情を持ち出しているようで、少し違和感があるかもしれません。違和感を覚える原因は、共感という日本語には、他人の感情に自分の感情を同調させるようなイメージが強いからではないかと思います。他の人が喜んでいるのを見ると自分も嬉しい、落ち込んでいるのを見ると自分も落ち込んでしまう、といった情動の共鳴現象です。
共感には情動的共感と認知的共感の2つの側面があります(梅田他, 2014)。他者の感情につられてしまうのは情動的共感で、受け身で身体反応を伴う働きです。それに対して、認知的共感は、他者の心の状態を理解するという、能動的で理知的な働きです。
創造プロセスを効果的なものにしていこうとする時には、特に、認知的共感(その中でも、多元的視点取得)を意識すると良いのではないかというのがこの本の主なメッセージです。共感という言葉が情動的共感を思い起こさせるならば、認知的共感には「共観」という言葉を当ててみたらどうだろうということで、本書では、認知的共感のことを共観と呼んでいます。
共観という言葉は、日常ではあまり使われていませんが、英語のsynopsisの訳語です。synopsisの語源は古代ギリシア語で、共に/全体的に観るという意味です。転じて、現在では、概要、大意という意味で使われています。また、キリスト教では、マタイ、マルコ、ルカの3つの福音書は、共通した記述が多いことから、共観福音書と呼ばれています。
本書における「共観」は、宗教的な意味はなく、また、概要という意味でもなく、原意に近い「共に観る」という意味で使っています。
梅田聡・板倉昭二・平田聡・遠藤由美・千住淳・加藤元一郎・中村真(編). (2014). 『共感』 岩波書店.
多元的視点取得とは につづく
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