「0(ゼロ)から1」の難しさはどこにあるのか
企業が独創性のある製品、サービス、ビジネスの形を創造することは、今日の社会ではますます大切になっています。どの業界においても、既にあるものを上手に作り、発展させる企業は数多く存在していても、唯一無二の製品、サービス、ビジネスモデルを生む企業は少数であることから、「0から1」が簡単ではないことは明らかです。問題はなぜ難しいかです。
われわれが「0から1」は難しいと考える時、有名な天才的な人物を思い浮かべて、とてもそのような発想は常人にはできないとイメージするのではないでしょうか。例えば、スティーブ・ジョブズがiPhoneを発売して世界を一変させたように。そして、日本にはなぜスティーブ・ジョブズが生まれないのか、と議論したりします。
その前提には、創造性は、特別な才能に恵まれた一部の人のものだというイメージがあります。スティーブ・ジョブズも、実際には一人でiPhoneを作ったわけではないですが、少なくとも、一人の創造的な人物が強力に組織を導いて革新的な成果を上げた事例であり、その意味では、特別な才能に恵まれたスティーブ・ジョブズがiPhoneを生み出したと言ってよいかもしれません。
しかし、我が社にもスティーブ・ジョブズが欲しい、という願いが叶えられる可能性は限りなくゼロに近いのです。各分野で優秀な人物は常にそこそこに存在します。しかし、何もないところから世界を一変させるようなアイディアを、一人で発案できる人物は、どこかにいることにはいるかもしれませんが、世界的に稀少です。我が社にそのような人物がいる確率は絶望的に低いのです。我が社(あるいは我が国)に、特別な才能を持った人々がなぜ現れないのかという問題設定にはそもそも無理があります。
それに対して、特別な才能を持っていない人々が集団として創造的成果を上げる方法を探求しようという考え方があります。チームで創造的成果を求める実践活動では、「早く行きたければ一人で行け、遠くまで行きたければみんなで行け」というアフリカのことわざがよく引用されます。特別な才能を持っていない人々が集団として創造的になる方が一人の天才を探すよりも現実的であるだけでなく、その結果として生み出されたもののインパクトは、個人の創造性に頼った場合よりも、遙かに広がりが大きく、かつ持続的であると考えているのです。
いかにすれば、おおよそ特別な才能を持っていない人の集まりである企業は創造的になれるのでしょうか。創造性に関しては、個人のレベルから、チームや部署などの小集団、企業全体のレベルまで様々な角度から研究がなされていますが、現在のところ決定版というべき解答が出ているわけではありません。ただ、創造的成果が求められる時、既存のモノやコトを発展させるのとは異なる考え方やプロセス、組織のあり方が必要とされるのは確かです。これが、企業の直面している「0から1」の難しさなのです。
2023年5月1日に刊行予定の拙著『共観創造: 多元的視点取得が組織にもたらすダイナミズム』は、企業が創造的な成果を生む様々な要因の一つとして、チームのレベルでの「多元的視点取得」あるいは「共観」に注目しています。
共感ではなく、共観。 に続く
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