愛だらけ
あなたの成分は何でできていますか?
黒縁メガネで薄っすら髭を生やしたその男は言い放った。
え?
私に言ってるの?私に聞いてるの?
男の目の前に座っているのは私一人だから、どう見ても私への言葉なのだろう、、
だけれど、男の目線の先はどう見ても私ではない。
私の頭の少し上を見ている。梅雨時期は髪が上手くまとまらない。生まれつきクセ毛の私には厄介な季節だ。私の頭部のパヤパヤのアホ毛を視られている気がして、ふいに頭をなぜた。
え??
何かが手に当たった。少しだけ硬いのにスライムみたいな感触もある。それは起き上がり小法師のように一度倒れ、また起き上がったのがなんとなく分かった。
「相当困難な状況をシンドいと感じるセンサーがバカになってます。」
黒縁メガネは言った。
「私が診てみます。」
薄ら髭は言う。
「ずいぶん摩耗しています。」
男は、私の頭上の起き上がり小法師のようなものを触ろうとした。
「そうなんですよ、この子はとても頑張りやさんでね、いつも頭が上がりません。と言ってもね、私はこの子の頭上にいるのですから、私の頭が上がらないことなど、この子は知るよしも無し、見ることも無しなのですがね、おほほほ。」
おほほほ、じゃないのよ、私の頭の上で何を??誰??そんでもって、目の前の黒縁メガネの薄ら髭男はどこの誰??
こんな時いつも笑えてくる。人生は思いもよらないことが時々起こる。
目の前に男が立つ。You are Amazing!と書かれたTシャツの文字が目に飛び込んでくる。男の胸から温かな温度が漂っているのをキャッチし、私の心はとても安心した。
「はい、これでオッケー。あなたのことはあなたが思うよりずっと、彼がよく知っていますから、これからはいつでも彼を頼ってくださいね。」
そう言って男は、私の頭を撫でた。
「そうなんですよ、もっと言ってやってください。とても頑張り屋さんでね、だけどまぁ、そんなところも好きなんですがね、おほほほ。」
「そういうことですから。これからもまたメンテナンスに伺います。あ、そうそう。あなたの成分ですが、愛100%でできていました。私が診たので間違いないです。頭上の彼からもお墨付きですから。だから自分をそんなに責めなさんな。」
私がずっと欲しいと思っていたものを、私が持っていた。
黒縁メガネの薄ら髭も、起き上がり小法師も、私も。なんだよ、愛だらけだったじゃないか。
今夜の夕飯のメニューは、温かいスープにすることに決めた。
喉を通る前に、もうすでに心が温かかった。
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