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泥と針

 ナノマシンを掘るのが俺の仕事だ。

 そんなモノ掘れるのかって? 掘れるんだな、この星では。珍しい事に。
 大昔この星で生きてた、カル何とか言う文明。数万年くらい前、そいつらは何かやらかして、母星諸共ナノマシンの塊に変わっちまったんだ。

 その後この星は連合に発見され、調査され、価値を見出された。
 何に使うのか? そりゃ色々さ。命令一つで何にでも形を変える泥みたいなもんだからな。

 医療。建築。芸術。軍事作戦。ナノマシン自体は珍しくも無いが、ここ程大量に手に入る場所は無い。問題は星を覆う泥、ナノマシンが自律反応で攻撃して来る事だったが、連合はそれも解決した。「針」によってだ。

 針。
 それは全長三百メートルにも及ぶ巨大なアンテナだ。それを星のそこかしこに突き刺してナノマシンに干渉、操作、鎮静化。もって危険な人食い星は、カネと利権の塊に変わった。

 ってのは昨日までの話だ。
 俺達は今、針の一本にある暗い制御室の中で、ひたすら縮こまっている。
 時刻は夜。宇宙服に灯る各種装置のランプと、天井の弱い非常灯だけが、窒息しそうな俺達の顔を浮かび上がらせている。照明はつけない。アイツは光に反応する。

「ヒッ」

 うっかり窓の外を見た眼鏡の女が、反射的に口を抑えた。針よりもデカイ泥人形が、意志を取り戻した攻性形態ナノマシン塊が、窓の外を通り過ぎる。

 連中は何もしない。少なくとも今は。
 その間に針のシステムを起動し、連中に飲まれた宇宙船を引き出して脱出する。それが出来ればどれだけ良いだろうかね。

 息を吐き、俺は壁際を見る。そこには一人の船員、だったものが寝かされている。
 そう、だったもの。つまり死体だ。

 胸には丸い焼け穴。ナノマシンの仕業じゃない。光線銃によるものだ。
 つまりこの狭い針の中に、殺人犯が居る。
 この星を安全に逃げ出すには、まずソイツを捕まえるしかない。

 笑えるね。どうしたもんだか。

【続く】


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