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「早口言葉は、ちょっとだけ気持ちを込めて言う」―ミュージシャン 小田晃生さん

10月23日(土)。朝は少し雨降りだったものの、午後からは冬晴れ。今日は日詰町屋館で小田晃生さんのトーク&ミニライブの日。

小田晃生さん講演2

古民家をリノベーションしたこの建物の小上がりをステージに見立て、イベントがスタート。

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「まず、僕の曲の中で一番短い曲を演奏させてください。
 歌詞だけ先にいうので、一緒に言ってみてください。」

「ざらめあたため かぜあてまきあげ
 からめとってかたまれば わたあめ」

いきなりコール&レスポンスで早口言葉を求められたら困惑するかと思いきや、なかなか適応力の高い参加者さんたち。楽しそうに追っかけていて、ふわっと場が緩む瞬間を見る。
「これを歌にするとこうなります」とギターを弾いて歌詞を載せて、曲になる。小田さんのライブは、”歌う人”と”聴く人”だけの関係性に止まらない。

住田町のお寺で育った、ゲーム好き少年

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「生まれは東京ですが、まもなく父親の実家である岩手県・住田町に来ました。父は住職で、家もお寺とくっついていたので、家中全部使ってかくれんぼしたり、本堂駆けずり回ったり、家の中で遊んでました。小学校は全校生徒60人弱、1けた台の生徒数の学年もありました。」

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「自然たっぷりだったので外でも遊ぶし、野球もやっていましたけど、ゲームとかクロスワードパズルも好きでした。自由帳を1冊分、まるまる迷路を書いてゲームブックにして友達にやらせたり。迷路もだんだんこずるいもの、絶対クリアできない迷路とか、"ネオ迷路”のようなものを作ったり。」

音楽はいつはじめた?

「中学の頃、友達の家でゲームをしていたら、バンドやりたい、と話し始めた人がいて。「LUNA SEAで誰が好き?」と聞かれて、当時僕が、ドラマーの真矢さんのラジオを聞いていたので、「真矢がすきだ」といったら、「じゃあドラムね」となりました(笑)。

家には仏具はあるけど、ドラムがないので。『少年ジャンプ』にガムテープを巻いて、ここはスネア、タム、フロアタム、ハイハット、シンバル…と、ぐるぐるまきにした『ジャンプ』を、プラスチックのハンガーで叩いてました。そんなイメージトレーニングをしていたら、担任の先生が、学校の予算でドラムセットを学校の備品として買ってくれたんです。やがて家の物置からギターが発掘され、それも使い始めました。

"文化祭ではライブというものをするらしい"と何かの漫画で読んで。ライブをやらせてくれと学校に直談判。そうして学校史上初の後夜祭ライブが立ち上がり、それが人生初のライブですね。生徒たちが熱狂しすぎて半狂乱になり、音も予想以上に大きかったのか、途中で強制終了されましたが。」

高校は、埼玉の「自由の森学園」で寮生活

「中学で楽器に目覚めたのと同時に、演劇にも興味を持ち始めて。高校進学を考えたときに、当時は近隣の市に、自分の興味のある分野で活動できる高校がなかったんです。長男で、寺を継がなくてはいけないのか、”やりたいことをやれないってどういうことだ?”という疑問が芽生えてきました。僕なりに色々やりたいと思っていることと、家への不満があったから、ここじゃない選択肢はないのかと親に相談したら、思い切って東京の学校を見てみるか、となったんです。そして”自由の森学園”を選びました。
制服なし、テストなし、校則もなし。授業終わりにレポートをまとめて提出。授業も単位制で、半分大学みたいなシステムの学校でした。今までいた場所と真逆の場所です。学校のそばに寮があって、三年間住んで。高校で知り合った同窓生と『コケストラ』というバンドがスタートしました。」

自分で曲をつくるということ

「高校卒業後、18の時に作り始めました。つくるっていう発想が最初なくて、つくらなくちゃだめか!と思ってあわてて作り始めました。はじめて作った頃は、夜書いた歌詞を朝に見ると恥ずかしくて、捨てる、みたいな繰り返しで(笑)。でもある日、夜書いたものが恥ずかしくなくなった瞬間があって。そのときに、あ、書けるようになった!って思いました。
夜書いた自分と朝の自分が別の人だったのが、一人の人になったような感覚ですかね。」

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ー「自分が出したものを見て慣れられる」のも大事かもしれないですね。
「そうそう。いまだに自分で描いたものが信じられないときもあるんですけど(笑)。今は、ここ直すといいなとか分析できるようになってきました。最初は当たって砕けろで、作っては捨て、でしたね。いっぱい録音してみたりしました。」

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間に、岩手での経験を歌った曲『里帰り』『となり町の映画館』の演奏を挟みます。『里帰り』は、当時のメンバーに初めて褒められたという話や、『となり町の映画館』は住田町のお隣の陸前高田にあった映画館、交友館にお父さんと見に行ったとき、トイレのドアでひざをケガをした日のこと、その思い出が込められているというエピソードも添えられる。

早口言葉を早く言うワザ

「音楽教室のお手伝いもするようになり、毎年発表会で、僕の作った曲を小学生と一緒に歌う機会があるんですが、子供を満足させる曲って難しくて。
”あいつらが歌いたい曲を作らなくちゃ”と思って、早口言葉をテーマに音楽にしたらどうなるかを試してみたんです。昔ゲームやパズル、迷路が好きだったのもあって、言葉を組み合わせは改めて面白いのではないかと。」

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「一時期流行った”ナンクロ”も好きで。ますの中に数字が書いてあって、同じ数字に同じ文字が入るパズルなんですが。あるとき、”○○め○こ”という並びをみて、”フラメンコ”だと思ったら、正解が”にらめっこ”だったんです。そのとき、にらめっことフラメンコが出会った!と思って。言う面白さや、似てるだけで近づく、早口言葉にしかできない言葉の出合わせ方があることに気づいていったんですよね。有名な早口言葉も、”その状況どういうこと?”を分解して言葉にするのも楽しいですね。」

「ではみなさんも。せーの」と、有名なあの早口言葉を言ってみる。

「となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ」

苦笑しながら言うお客さんに、小田さんがアドバイスを添える。
「早口言葉を早くいうポイントがあるんですよ。
唇をやわらかくする、ほっぺたをやわらかくする。
そして最後が大事。
ちょっとだけ気持ちを込めて言うこと」です。

”隣の客はよく柿食う客だ”と言わなきゃいけなくなった人の気持ちを少し想像して言う。言葉を言おうというよりも、その気持ちになる。ちょっと尊敬していうと言いやすくなります。」

「隣の客は、よぉく柿食う客だぁ〜〜」
”たいしたもんだねぇ〜”と続きそうな、めいっぱいの尊敬を込めて言う小田さんの言い方に一同爆笑。確かに、感情を載せると一気に言いやすくなる。

「次は僕のオリジナルです。

”はだかだからだからだがらくだ(裸だからか体が楽だ)”

これを、お風呂上がりに解放感とともに、伸びをしながら言う感覚でいってみましょう。」
なるほど、「言うぞ!」と言う気持ちから抜けた自然さで、気づけば言えてしまうのかと納得する。

「そして次のはちょっと難しいです。
”このコートどう?と問うても弟とんと応答なし。
 このトートどう?と問うても弟とっくのとうに遠くに逃亡”


そして小田さんはこれをギターと歌に乗せていきます。そのままでは口を噛んでしまうような早口言葉が、メロディに乗ると、さらに自然さが増して言いやすい。早口言葉の魔力に引き込まれていく。

複数人でやる活動との違い

「ソロ以外にも、現在は2つのバンドとユニットをやっているんですが、それぞれが違うきっかけで始まって、その思いもそれぞれに違うんです。」

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「保育園の先生をやっていたメンバーのつながりからはじまったバンド『COINN』。おじさん四人で、「バンドって楽しいだろう?」って思わせるようなものを、大人と子供と両方に見せられる新しいバンドをやろう!という誘いをもらって、ドラマーとして参加しています。メンバーもそれぞれがソロ活動やバンド活動をしていたり、みんな歌も歌うのでリードボーカルが曲によってかわる、ごたまぜのバンドです。」

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「優しいだけじゃないもの、苦味とか辛味とか、そういうものも音楽にはあるので。色んなものを浴びてほしいと思っています。子供たちの反応もいいんですよね。バンド名の由来は、”お金”なんですけど。芸術とか音楽が、お金になっていくことがもっと普通になるといいよねという願いも込めています。親子向けは特にボランティアのオファーも多いので。そればかりでは音楽家は生きていけないので、お金を巡らせながら責任をもって活動したいねという気持ちを、”マネー”とか”ビル"じゃなくて小銭にしました(笑)。」

大人が得意も不得意も見せる

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「もう一つやっているユニット『ロバート・バーロー』は、メンバーはイラストレーターの木下ようすけ、ダンサーのいづみれいな、歌手の野々歩、ベーシストの田中馨と、僕。音楽と絵とダンス、それぞれの特技がごちゃ混ぜで"遊ぶ”ユニットです。ダンサーでもない僕が踊ったり、歌わないはずの人が歌ったり、お互いが本業じゃないものもやってみる。だから僕たちも"先生"のようなスタンスより、一緒に、”できないこともやってみる”という感じです。”遊ぶ”ことが一番やりたいことに夢中になってる時間かもしれないね、という思いで、何かを残すために創作すると言うより遊ぶということで新しいものを生み出せないか試しています。」

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現在は山梨県上野原市で古民家暮らし

「家が最低でも築120年くらいと言われている家を直しながら暮らしていて、奥さんは野菜農家を本業にしています。」

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「もともと東京でのつながりの仕事が多いので、上野原市は東京と往復してもそんなにかからないので、東京と行き来して音楽活動も続けています。」

「最後の曲は、住田町でのことを曲にしました。たぶん世界で唯一の"真っ暗闇についての歌”ですね。情景としては、暗すぎてびっくりする歌(笑)。比喩じゃなく暗い。田舎だと街灯がないところで夜中外に出ると懐中電灯ないと出歩けないじゃないですか。そこについての曲で。東京では”そんななんだ!”と言われるんですが田舎だと”あるある”の歌になる歌です。」

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締めの一曲『畦道に宇宙』、聞き手だった天野までコーラスで便乗参加しました(笑)。

イベント後は、夜の部として、"野村胡堂・あらえびす記念館”の野外ステージにてコンサート”夕方の小さな音楽会”も行いました。明るい空から、ちょうど夕陽が翳っていく時間。生のギターと伸びる声を直接浴びる心地よさに、体がこれを求めていた……!という感覚がありました。
寒空の下でしたが、終演後も興奮さめやらぬ様子のお客さんたちが余韻に浸る姿を見て、ああ、いい1日だったなとしみじみ思いました。

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〈講師〉小田晃生(おだこうせい)- 音楽家
音楽家。作詞作曲と歌、演奏楽器は主にギター、パーカッションなど。
2006年頃よりギター弾き語りを中心としたソロでの活動を始める。些細な物や出来事をモチーフにした、虫眼鏡な作品づくりが十八番。 また、作詞から発展した言葉遊び「オリジナル早口言葉」を様々な形で披露している。
ソロ以外には「COINN」「ロバート・バーロー」など、子どもたちへ向けた創作活動を行うグループにメンバーとして所属。そのほか、ギターレッスン講師、映像作品の音楽制作や出演、ナレーションなども務める。
1983年生まれ、岩手県出身。
最新アルバム『ほうれんそう』、各種サブスクで配信中
Instagram LIVEにて、弾き語り練習「よるのおつとめ」を21:30頃〜 なるべく毎日配信中。

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イベント主催:YOKOSAWA CAMPUS
トーク進行・記事執筆:天野咲耶
サポート:岡本夏佳
感染症対策:星真土香
写真:南條亜依(2,6,7,15)、伊東唯(16,17)
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