【帰ってきた】肉体の悶々(チ)我がお花系不妊治療戦記 Ⅰ

お久しゅうございます、最終更新からまる1年空きました、よーこです。久しぶりに留守宅に戻ってくると、noteも開設後のお祭りがひと段落して一気に観客が引いてしまった感がありますね。夏祭りの縁日の往来で並べるにはちょっと憚られるプライベートな話を、入場料形式にしてお話ししていた本シリーズですが、祭りが終わった今はたぶんそんなに人目に触れることは無いであろう、と判断してこの1年くらいの出来事を主に自分の備忘録代わりにつづってみようと思います。気分は田舎の無人野菜販売所。誰かのためになるかもしれないしならないかもしれない。

【これまでのあらすじ】出産しない女は人でない教の母に辟易して、特に子はいなくてもいいかという心持ちで20~30代を仕事と趣味等に忙しくのほほんと過ごしてきた私。だがレベル40(注:アラフォー)を手前にして妊孕性(物理的な妊娠アビリティ)の限界に近づくにつれ、「このレベルを過ぎるともう武器職人には転職が一生できないけれど、それでもいいかね? はい/いいえ」 というような選択肢ポップアップが出てきたため、迷ったあげく「いいえ」を選択して不妊治療を開始。ところが、気軽に選んだその選択肢の先には思いがけない困難が待ち受けていたのであった--

以前も書きましたが、「時間が自由にならない」「投資した時間とカネが結果につながるかどうかわからない」というのは不妊治療の特徴です。自分のスケジュールに合わせて卵工場の生産スケジュールを正確に知ることはできず、ドクターも内診とか血液検査で「だいたいこのあたりに出荷かねー」という予測は立てられるものの、それが確たるものかどうかはぜんぜんわからんわけです。だがしかし、基本確率論の世界になる卵出荷日と、種側の発送日がばっちり合わないとそもそも妊娠は成立しません。
ここで、金と時間と体の負担をかけてすこしでも確実性を高める選択肢を取るのか、いや、そこまでギリギリやらなくても~、というところで止まるか、で一口に不妊治療と言ってもさまざまな流派に分かれます。

基本は以下です。

【梅】内診と血液・尿検査などで卵出荷日を占い、指定の日に各自仕込み作業を行う「タイミング指導」 (保険適用)。場合によってはより確実に出荷が行われるよう投薬・注射で出荷を促す

【竹】梅と同様の手段で占って推定した出荷日に、あらかじめ採取しておいた種の中でも選りすぐりを選出、コマンダー部隊として再編制し、ナチュラル仕込み作業の際に本来種たちがスタートするスタートラインよりはるか前方ゴール近くまで大量搬送して一斉投入する「人口受精」(自費、3万円前後)

【松】出荷日を注射投薬などの方法である程度定時に絞り込む。さらに、通常は月産1個の出荷量を10倍増するためにドーピング処理を行うこともある。そのうえで、出荷前に卵をライン外(体外)に摘出。シャーレの中で竹と同様の手法で再編成したコマンダー部隊とランデブーを試みる。なお、ミッション・インポッシブルのトムクルーズ方式で選び抜かれた一名を強制的に卵内に投下する方法などのオプションもある。ランデブーに成功した卵は人工的に培養し、ある程度育ったら体内に戻して着床を待つ「対外受精」(自費、合計でだいたい50万円~)

さらに、この中でも、スパルタ流派(刺激周期派)となちゅらる派(自然周期派)に分かれ、特に松コースでは体外受精とかIVFなどと同じ名前がついていても大きくやり方が異なります。前者は、確実に出荷が行われるように、各種投薬や注射で実際に必要とされる出荷数よりかなり多い数の卵を取るやり方。当然ことながら体に負担(腹がパンパンに腫れたり明らかに体調不良になる人もいるらしい)がかかります。また、毎日注射のために通院するなどで時間的な負担も相当です。よく聞く「妊活のために仕事を辞める、休む」という人が出てくるのはこのあたりのコースに進んでいる人が多い模様です。ただ、1回で採れるタマ数が多いだけに、数打ちゃあたるじゃないですけど妊娠の確率は高いであろう、とされている。

後者は「体に負担をかけない」を売りに、使う薬の量も最低限にする流派です。1か月に採れる卵の量はせいぜい数個。それゆえ確率も低い、というデメリットもあります。

前置きが長いですが、以前の回でも書きましたけど子宮筋腫摘出手術の術前ホルモン治療で鬱寸前になった経験もあり、さらに治療のために仕事を辞めるとか問題外なので、両立できる方法として後者のなちゅらる派の病院を選択したわけです。

スパルタ派の病院、というと都内で有名なところは某系列の某院ですが(知ってる人は知ってるので敢えてここでは書かない)、地方からわざわざ通う人もいるとか、待ち時間5-6時間治療一日がかりとか、かならず夫の同伴を求めるとか、数十万円の治療費支払いにカードが使えない、とかなんかいろいろ怖い話を聞きました。「薬を使いたくない」という高齢の患者をいきなりどやし付けるとか、「その年で自然妊娠とか無理ですよ!」的なきつい言葉を投げつけるなどいろいろ・・・。
そーいうのに比べれば、そこまで肩肘張らずに、不妊治療に取り組めるのではないかと判断した某目黒区の不妊治療医院を、先輩の紹介もあり選択してみたわけです。先生が基本は一人でやっている、場所柄もあってかおしゃれな医院で、それでも毎回結構混雑していました。先生はなんか飄々とした方で
先生:(満面の笑みで)「よーこさ~ん、元気?ちゃんとタイミング(※業界用語で排卵日の性交渉)取ってる?たのむよ~!」
私「(お、おぅ)」という感じのやりとりが繰り返されるじつに明るい先生でした。

梅コースをだらだら1年ほど続けるなか、第二回筋腫が発見され、治療を休むこと約1年。「筋腫が取れると妊娠率も上がる」なる伝説もあるようなので、ちょっと期待しつつ再開するも効果は無し。思い切って竹コースにランクアップし、2回ほど試してみるもやはり同様、てな毎日が続きました。
ちなみに竹からは、自宅で採取した朝採り男性側検体を新鮮なうちに小さなコップに入れ、アルミホイルに包みカバンの底に忍ばせて院までの約1時間の電車通院を行うというイベントがついてきます。小屋やトイレの無い北海道山中でテント泊縦走をしたときに、携帯用トイレに自分の大小を納めてザックの中に入れて持ち帰るという体験をいたしましたが、そのときと同様に「今は絶対に事故等で死んではならない。とにかく今、他人に荷物を開けられてはならない」という恐怖心を強く感じつつも知らぬ顔で電車に揺られていました。


経験した人にしかわからないと思いますが、「今月こそは」「今度こそできたかも」「竹コースにしたんだし今度はうまくいく」という期待を毎月抱くわけです。ちょっとした体調の変化に「すわ?!」と心躍らせ、たかだか数日生理が遅れただけでも、目を皿のようにして基礎体温計を覗き込み、妊娠検査薬を何本でも消費して陽性の青い線が現れないかといつまでもトイレで待ってしまうわけです。まだ確定でも何でもないのに、取材先でわざとコーヒーを控えたりとか不要に体をいたわったりしちゃうわけです。アホですが。

でも、これも女性ならわかるんですが、自分の今月の体の中のサイクルが切り替わるスイッチが入る瞬間というのがあり、これはいくら頭で否定したいと願ってもわかってしまうのです、今回もまただめだった、と。

不妊治療をしていることは親しい友人以外には言いませんでした。次にいつ病院に行けばいいかは受診時に突然決まります。取材先とのアポ調整を右手でこなしながら、ニコニコの先生の「明日~これるかな?」といういいともみたいな無茶振りに答える日々が続きます。確かに薬はそんなに使ってないし、きついことも言われてもされてもいないけど、予約をしていてもおしゃれ待合室の堅い椅子で3時間くらい待たされることもありました。

手術での中断を含みつつ、あまりお金のかからない梅と竹を中心にこなして1年半くらい経過したでしょうか。といいつつ、突然注射と検査で1万2万ドン、という診察は1か月のうちに何度も入ります。たまごくらぶ的な妊婦雑誌や、卵活(卵子の質を上げる活動の略。ちなみに医学的なエビデンスが確立されている手段はない)特集~みたいな文字が表紙に踊る妊活雑誌がいっぱいおいてある待合室で、原稿書いたり仕事しながら待つたび、自分の内面が日に日に弱っていくのを感じていました。
ドラクエ的に表現すると「時間が経過するたびMPが1とか2とか、生死には影響無いレベルでじわじわ削られる状態異常」とでも言えばいいのでしょうか。

院側もいろいろ工夫はしてくれてました。いわゆる妊活者向けのさまざまなセミナーだのヨガだのお灸だの栄養教室だのを、クリニック併設の施設で定期的に催したり、メンタル面でのカウンセリングもやっていたり。「治療をいつやめるか」というセミナーをやってるのは不妊治療専門のクリニックにしては珍しいのかもしれません。とはいえ実際に参加したものはありませんでしたが。

このままじゃだめだ、と心を決めるタイミングが近づいておりました。桜のきれいに咲く春のことです。つづく。

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