中の人爆誕編Ⅰ ~Choo Choo TRAINでやってきた

Hi!どうもこんにちは、経産婦です。そう、もう「中の人などいない!」のです。お腹は軽くなり、体重は一気に妊娠前に戻り、全身のさまざまな不定愁訴はなくなり、全身になんかの伝染病患者のように出ていた湿疹や蕁麻疹も徐々に消えつつあるのですが、そんなことなどあまり意識してらんないくらい赤子との生活はハードです。そう、例えるならば1時間毎に火事が起きて出動する火の始末の悪い地域の消防士のような。こうやってPCに向かえるのもずいぶん久々です・・・と言ってるそばからオンギャーと泣かれてるんですがハイ。なんだまたオムツか、パターン青、シートットです!(※ 使用オムツは股間の青いラインでオシッコが出たと教えてくれる仕様 )

産んでから約3週間、ずいぶんいろいろなことがあったような気がします。しかし、ここで記しておかなければ日々の怒涛のオムツオムツ乳ミルク泣きウンコ尿オムツオムツ乳乳乳泣きミルクの奔流に流れて記憶も薄れてしまいそうな気がしてならず、ここらで出産~現在までのところを記録としてまとめておこうと思います。とりあえず爆誕編からいきますね。

プレイヤー(妊婦)設定:手術歴があるため自然分娩ができず、妊娠40週(自然分娩の場合この日が予定日となる)を待たず、38週で入院し、計画的に帝王切開で出産する。病院は都内の大き目の公立総合病院。

自然分娩の友人の話を聞くと、「48時間陣痛で叫び続けた」とか「外出先でいきなり破水、救急車で搬送された」とか、予定が読めずしかもハードな人はそれこそ人生で1番痛い経験となるというのが出産、といいますね。

しかし、中には私のように、下から産む経腟分娩が手術歴や既往症のためそもそもできない人、というのが一定人数います。分娩の途中で緊急事態が発生して帝王切開に切り替えることを「緊急帝王切開」、私のように日にちと時間まで決めて切るのを「計画帝王切開」といいます。コウノドリで緊迫した場面としてたびたび出てくるのが前者ですが、後者はいわば子宮筋腫の手術とほぼ同様で、手術の前日に入院、その日はひたすらだらだら過ごし、翌日の決められた時間に点滴つけてがらがら運ばれて行き、切られてオギャーというのがざっくりとした流れです。

あえて言おう、ラクであると。

このように「最初から経腟を回避しなければならない」時点ですでにハイリスク妊娠であるのは間違いないです。このコースになるのは、私のように子宮を一度切っている人(手術の人もそうですが一度でも帝王切開やっている人も同様)、骨盤の形などの問題で自然分娩が難しい人、双子以上の多胎妊娠、などであるようです。

しかし、予定日を過ぎても一向に陣痛がこなくてやきもきしながら待つとか、実際の分娩時にいきんで!っていうあのドラマチックなあれはありません。開腹手術ですからええ。


自然分娩の場合は「どんなお産にしたいか」的な話も聞いてくれるんですってね。バースプランなるシートにいろいろと書き込んだりなんだのと。ところがこちとらまあ普通の開腹手術なので、そういったことは一切聞かれず淡々としたもんです。病院によっては帝王切開でも立ち会えるところもあるようですが、うちの病院はそれもなく。
だが、手術であればこちらは経験済。なにせ腹腔鏡下とはいえこちとら二回やってますから慣れたもんよ。事前の麻酔科レクとかも通算3回目ですからサクサクです。

ただし、全身麻酔で手術開始から終了まで意識がなかった前回2回と比べ、今回は違うことがひとつありました。そう、部分麻酔である。
帝王切開の場合、痛みは感じないが意識はあり、下で何かが行われている触覚が感じ取れる部分麻酔で手術が行われるという。子を産む、という一大イベントもさることながら、「意識がある状態で自分の腹を切り開かれる」ということが地味に怖かったのです。

そして手術当日。手術着に着替えて血栓防止用の着圧ソックスを履きキャップを被り、腕に点滴を接続し、時間になるとベッドごとガラガラと運ばれて手術室に向かいます。夫とは手術室の扉の前で別れ、手術室へ。

私の手術を担当するオペ看護師さん数名、麻酔科医、これまで10か月お世話になった産婦人科の主治医、新生児科ナースなど、総勢10名くらいが代わる代わる挨拶をしにやってきます。ほぼ自分と同世代か少し下くらいの女子ばかり。生まれてくる子も含めて女子率ほぼ100%の手術室です。

部分麻酔は硬膜外麻酔といって、背中の骨の間からカテーテルで入れる方式のもので、ダンゴムシ的に前方に丸くなる姿勢のまま背中からブスっとされます。結論から言うと手術中で一番痛かったのはこの針が入る瞬間でした。

その後は下半身がしびれるというか、なにやらほわほわーと暖かいような、足だけ半身浴に入ってるような、いやむしろこれちょっと気持ちよくね・・・?となってるうちに上方では「よーこさんカイザーはじめます」「よろしくお願いします」みたいなテキパキとした打ち合わせが始まりました。よくドラマで言う「メス」みたいな呼びかけは無いんですが「ガーゼください」「ペアン(鉗子?)ください」みたいなちょっとした声掛けは交わされます。
「もう切ってますけど大丈夫ですか?」「あっ、そうなんですか何も感じません」みたいな様子。

お腹に何かが触る感覚とか、押される感覚や音、何かを吸引している音みたいなのは確かにそのままわかるんですが、とにかく足がほわほわと気持よくて心配していた不快感はほとんどありません。あとでわかったのですが部分麻酔って麻薬成分が多少はいっているそうで、ヘブン状態はもしかしてこのせいだったのかもしれないですね(笑)
手術のライトを見てしまうと術野が写り込んでいそうなので目をそらしつつぼーっとしていると、さっきからかすかにBGMとしてかかっている音楽に気が付きました。


ZARDだ。
それに同時代のいわゆるアイドル系の名前も知らないJ-POPとか、ジャニーズ系のなんかの歌・・・。
いわゆるSMAPとか私でもわかる部類の有名な曲ではない、たぶん今はもう活動してないんじゃないかと思われる知らないグループのわりと微妙なアイドル歌・・・。
筋腫の手術のとき、希望すれば自分の好きな曲をかけてくれる、というオプションが提示されていたのですが、今回はそれも特にありませんでした。いや、というかこれってどうなんだ。たぶん有線のチャンネルかなんかなんでしょうが、わが子がこの世で最初に聞く歌がこの自分が選んだわけではない微妙な選曲の90年代J-POPなのは。手術への恐怖は完全に明後日の方向に飛んでいきました。
そして聞こえてきたあれ。
ファーンファンーウィーヒッツザ ステーップステープ おなじかぜーのなか ウィーラーブウィラーブ

Choo Choo TRAINだ・・・しかもエグザイルじゃなくてZOOの方の・・・

なぜこの選曲なのか。もしかしたら先生たちの中にZOOファンがいるのか。なぜ今これを。
ああ、こんなことなら最後の診察のときにBGMについてせめて先生に要望を出しておくべきだった。生まれた子には音楽が好きになってほしい、と音という漢字を名前にわざわざ入れたくらいだというのに。ちゃんと出てきたときに最初に聞く音が、自分のお気に入りの曲のサビ部分になるようにセットリストを考えたのに。疑問でアタマがぐるぐるしているうちに、足元の方で水風船から水が漏れるようなゴボゴボっという音がしました。

「頭見えてますよー」「生まれます」
ファーンファーン・・・えっ?
かとおもうと、お腹の上に先生が体重をかけて乗ってきました。ぐええええええ重い!なにすんの


おぎゃあああああ

んっ?

「お誕生です」「おめでとうございます」

あー、やっと会えるんだ。無事に産めないかと心配したけど、元気に出てきてくれたんだ。ということに初めてここで気が付き初めてぽろっと涙が一粒こぼれました。でも、大感動でギャン泣きする妊婦さんが多いと聞いていたんですが、とにかくそれまで頭の中がファーンファーン で満たされていた私は感動はそこで打ち止めでした。くそう、ZOOめ。

でも、正直なところ「うわ、ほんとにお腹の中に違う生き物入ってた!」というのが感動よりも何よりも最初に感じたところでした。妊娠中のさまざまな不定愁訴もそりゃそうだよ、こんな大きい人入ってたら具合も悪くなるよ・・・・と納得していたら、赤子はキレイに洗われて、頭の横に連れてきてもらえました。ずっと羊水に漬かっていたからか、ふやけて不思議な生き物に見えます。

連れてこられた赤子は泣くのをやめて、じっとこちらを見ています。


「こ、こんにちは。初めまして」おどおどと思わず挨拶しておりました。

時間にして1時間足らず、娘はこうして生まれてきたのでした。
赤子対面をしたのち、多分外に出されている各種臓器を縫い合わせ、元の位置に収める、という作業がなされたと思われます。結構ぐいぐい力を入れていろいろ押し込まれてる感じがしました。先生たちも慣れたもんで、明らかに手術とは関係ない雑談(先日の飲み会の会計をだれがやったのかなど)が頭上で交わされていたのも印象的でした。

よく「自然分娩でないとお産でない」とか苦労して産んだ子でないと云々、というひどい言説が聞かれます。まぁ確かに、帝王切開は基本ドクターにお任せで妊婦は寝てるだけなので、出産そのものは非常にラクです。そして何より早い。酷い人では1日2日飲まず食わずで地獄の苦しみ、という長丁場の陣痛もなく、手術の時間自体は早い人では数十分で終わってしまいます。


さらに、全身麻酔ではないので麻酔後に真人間に戻るスピードも速く(全身麻酔の場合、麻酔から目がさめて意識が回復するまでに何時間かかかり、回復した後も麻酔の後遺症で一晩吐き続ける、などということがあります)、病室に連れてこられてからも夫や家族と雑談をする余裕すらありました。

辛くないと苦労しないと出産とは認めない!という人の言い分もまあわからないでもないなあ、と予想外にあっさり無事に終了した手術を終えてそんなことを思ったのでした。

しかし、その考えが甘かったことに気が付くのはわずかそれから24時間後であった。つづく。



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