もうすぐ結婚する娘と父のはなし
今までどれだけの愛を注いでもらっていたんだろう。
見えないものは与えられてると気づいている人にしか見えないらしい。
新しい生活に向けて、家族と話すことが増えた。今まで知らなかった親の思いや想像以上の愛情に気づくたびに、感謝となんとも言えない気持ちが込み上げてくる。
昨日は、婚姻届の証人欄を記入してもらいに実家に帰った。
嬉しそうで少し寂しそうな両親と、いつもと同じようにご飯を食べて、買い物をしておやつを食べた。
昔だったら、ねだっても絶対に買ってくれなかったワンピースを母に買ってもらって、昔だったら、決まった日以外に絶対に貰えなかったお小遣いを母に内緒と言いながら父が渡してくれて何だか言葉にならなかったけど、
「どこに行っても私たちの子供だよ」
って言われているような気がして暖かかった。
父と私は昔からよく言い合いをしていた。父が理想とする安定の道と、好奇心旺盛で不安定な道を行く私は交わらなかった。
その頃の私は、「なぜ私のやることに反対ばかりするのだろう」「どうして私のことを信頼してくれないのだろう」と思っていた。私は自分の人生を自分で選びたかった。結局私は父が希望する道に進まず、大学を卒業してから「小学校教諭の免許を取得する」と言って通信制の大学に通いながらアパレル企業に勤めた。
昔から大好きだった洋服と過ごせる仕事に就いた。
父は何も言わなかった。
就職してから数年たったある年の誕生日、父に「お誕生日おめでとう」と送った返事に「お前たちは私の誇りです」と返事がきた。自分で選んだ道が、父に認めてもらえた気がして少しホッとした。
母は「お父さんはあなたのことが可愛くて仕方ないのよ」って言ってたけど、あまり信じていなかった。それくらいたくさん喧嘩をしてぶつかってきた。
離れて暮らして知らない父の姿をたくさん知った。
私が出演したテレビを録画した話を嬉しそうにしてくれる父。写真が掲載された雑誌は2冊も買っていた。ホームページに掲載された写真は何枚もプリントアウトしてクリアファイルに閉まってあった。
私が幸せそうにしていると父は嬉しそうだった。
父が安定した道を進めたり、失敗のない道をすすめるのは私が傷ついたり、落ちこんだりしている姿を想像するだけでも辛かったのかもしれないと思った。
父は頑固者でたくましいように見えるけど繊細だ。
「私もとうとうお嫁に行くんだね」
「俺は嫁に行くっていう言葉は好きじゃないな。結婚する、でいいじゃない」
そうだね、もうすぐ私は結婚する。
滅多に話さない自分の気持ちを言葉にした父の声に、また愛を感じた。
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