TOB(株式公開買付)とは?
TOB(Takeover Bid、株式公開買付)は、主に企業が他の企業を買収するために、その企業の株式を市場取引(ザラ場)を通さずに、一定期間・一定価格で公開的に買い付ける手法です。TOBは、買付者(企業や投資家)が、対象企業の株主に対して直接株式の買い取りを提案し、その条件に応じた株主が売却に応じる形で成立します。
「市場を通さずに」という表現は、通常の取引所で行われるリアルタイムの取引(ザラ場)ではなく、あらかじめ定めた条件で、株主に対して特定の買付価格を提示し、公開買付期間内に応募を受け付けるという点を意味しています。
TOBの目的と思惑
TOBは、以下のような目的で行われます。
企業の買収・合併
他社を買収して事業拡大や経営権の取得を目指します。対象企業の支配権を強化するために、経営権を取得したい割合の株式をTOBで買い取ります。買収対象企業の株主が、提示された価格で株式を売却するかどうかを決定する形になります。企業防衛
自社の株式を他社や敵対的な株主による買収から守るため、経営陣が自社の株を買い集め、支配権を強化する場合もあります。これにより、外部からの経営権の侵害を防ぎます。資本提携・戦略提携
企業同士が資本や戦略的な提携を強化するために、TOBを通じて一定の株式を取得します。友好的な提携が目的の場合もありますが、その場合でも株主に対して公開的に買付が行われるため、プレミアム(市場価格に対する上乗せ価格)が提示されることが多いです。
TOBのルールと手順
TOBには厳密なルールがあり、特に日本では金融商品取引法によって規制されています。主なルールは以下の通りです。
公開買付期間
TOBには、通常20〜60営業日の公開買付期間が設けられます。この期間内に、株主は提示された条件で株式を売却するかを判断します。買付期間が終了すると、買付者は応募のあった株式を買い取ります。買付価格
TOBの買付価格は、市場価格よりも高いプレミアムが上乗せされることが一般的です。プレミアムの額は通常20%〜50%程度で、買収の成否に影響を与えます。買付株数の上限・下限
買付者は、取得したい株数に上限や下限を設定することができます。例えば、過半数の株式を取得したい場合、過半数未満の応募しかなかった場合はTOBを無効にすることが可能です。また、上限以上の応募があった場合には、比例配分での取得が行われます。証券会社を通じた応募
株主は自分の証券会社を通じて、TOBに応募します。買付価格や応募期間を確認し、期間内に応募する必要があります。
TOBの株価への影響
TOBの発表後、通常は対象企業の株価が急騰します。理由は、TOBで提示される買付価格が、現在の市場価格よりも高いためです。市場は買付価格に近づいて株価が上昇する傾向にありますが、TOBの成功や失敗、あるいは買収の合意がまだ確定していない場合、株価が大きく変動することがあります。
一方で、TOBが不成立になるリスクが高い場合や、買収防衛策が取られる場合は、株価が大きく下がる可能性もあります。
TOBの成功例と失敗例
成功例: ソフトバンクとスプリントのTOB
ソフトバンクは2012年にアメリカの通信企業スプリントをTOBで買収し、米国市場での事業拡大に成功しました。TOBによりスプリントの株式約70%を取得し、その後、再建を果たしました。
失敗例: ドン・キホーテとユニーのTOB
ドン・キホーテはユニーをTOBで買収しようとしましたが、最初の提案ではユニーの経営陣の反発を受けて失敗しました。その後、再交渉を行い、最終的には買収に成功しましたが、最初の失敗は買収戦略の難しさを象徴する事例です。
資本提携や戦略提携におけるプレミアム
資本提携や戦略提携を目的とするTOBでも、プレミアムがつくことが一般的です。これは、株主に対して市場価格よりも高い条件を提示することで、株式の売却を促進するためです。特に、提携によって企業価値が向上する期待が高い場合、プレミアムは重要な要素となります。
TOBの公開買付期間が持つ意味
戦略的なTOBでは、事前に企業同士で合意が取れている場合もありますが、それでも公開買付期間は法的に必要です。この期間は、すべての株主が平等に応募できる機会を提供し、透明性を確保するために設けられています。また、競合企業が新たな提案を出す可能性があるため、公開買付期間中の動向も注視する必要があります。