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10. 蝶の変態、鳩のセッ久(^_^)
アゲハ蝶の蛹、二匹を観察したときのことを思い出す。中は泥々としたクリームのような液体のような感じだが、それは絶えず変化を続ける。
外側はまったく動かない蛹。中では羽ばたくための準備を続ける。不必要となった足を破壊し、筋肉を育てるための栄養とする。体を大きくし、翅を厚くしていく。途中、一匹は上下に、もう一匹は左右に嘴で切り裂いた。食べるためではない。ただ、どうなるか見ようと思ったのだ。一つの生命が二つに分裂するのではないか、そんな期待に鳩胸を膨らませながら。
乾いてしまったら、いけない。私は蛹をなるだけ湿度の高い日陰のほうに慎重に運び、毎日朝と晩、喉からピジョンミルクを出して切り口の部分に塗りつけて葉で蓋をした。それを二週間ほど続けると、上下に裂いたものの上半分が、頭だけで変態した。翅もちょうど半分あった。下半分は変態せず、カビが生えて腐った。左右縦に切ったほうは、どちらも腐った。
私は上半分の脱皮を手伝った。「痛いか?」と聞いたが、蝶は言葉を発しなかった。触角を動かしながら、ただ私を見るだけだった。
「体が軽いといいだろう?」
そう聞いたが、蝶はやはり何も答えなかった。
「飛べるか?」
蝶は葉に体を凭れ、動かなかった。
神経伝達に成功すれば成虫になる。それがたとえ飛べようが、飛べまいが。
「ニックって、本当に変よ。おかしいわ。そんなにじっと、どこをみているの。セックスに集中してよ。どこを見ながら腰を振っているの。おかしいわ。人間の子どもみたい。だって、人間の子どもって私たち鳩のことを必要以上に見つめてくる。あなた、人間の子どもなんじゃないかしら。鳩の体をしているだけで、本当は。なんて、冗談よ。そんなに、世界をじっと見つめなさんな。狂ってしまうわ。私だけを見て。私とのセックスに集中して。そうすれば、あなたはきっと大丈夫。私とつがいになるのよ。さあ」
昼。気温が一気に上がる。
私は果てたあとも腰を振り続けている。デイジーは半ばヤケになりながら喘いでいた。体育館裏。しずかっちと龍星が話している。高田はいない。
「付き合うわけないじゃない。私たち、そういう関係になれるわけない。私は役者。あんたはカメラマン。高田くんは監督。それだけの関係」
私は腰を振り続ける。フラれた龍星を観察しながら。
「ニック。さっきのは撤回。あなたはもう、とっくに狂っているわ。苦しくないの? 苦しいなら、そこから出してあげる。私は、手段でも構わない。あなたがそこから脱出するための、手段で」
校舎の上から大きな物体が墜ちるのを横目に見た。それは大きな音を立てて地面に着地した。
私はそれが何か、急いで見に行った。
それは、高田だった。
次第に野次馬の生徒が集まってくる。救急車が呼ばれる。
「ニック。どうしてあなたはそんなに人間を見るの。やめなさいよ。人間なんか、見ちゃいけないわ」
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