映画『永遠に僕のもの』と『太陽を盗んだ男』。美しい男は、ひとり踊る。
日本映画で好きな映画のひとつに『太陽を盗んだ男』がある。
ジュリー! ジュリー!
ジュリー演じる中学の理科教師・城戸が東海村の原子力発電所を襲い、プルトニュウムのカプセルを盗み出す。アパートの自室で、たったひとり原爆の製造に成功。国家に次々と要求を突きつける……なんとも荒唐無稽。奇想天外。鼻歌を歌うかのように悪事を重ねるダークヒーローなのだが、ジュリーのあまりにも妖艶な佇まいにその事実を私たちは(少なくても私は)忘れてしまう。
希林さんではないが、当時のジュリーには身悶えるしかない。
実在したブラック・エンジェル
一方、今回紹介する映画『永遠に僕のもの』の舞台は、1971年ブエノスアイレス。荒々しい魅力を放つラモンと意気投合したカルリートスは、二人で様々な犯罪に手を染めていく。銃や宝石など、欲しい物は何でも手に入れ、目障りな者は誰でも殺す。
こちらは実在の人物を原案にしている。そのカルロス・エデゥアルド・ロブレド・プッチは、そのビジュアルから時に、「ブラック・エンジェル」「死の天使」と称されたという。※ちなみに、映画の原題は『El Ángel(天使)』。
↑こちらはモチーフとなったカルロス。
↓こちらは本国のポスター。
美しい男は、ひとり部屋で躍る
『太陽を盗んだ男』でジュリーはひとり、部屋で躍る。原爆製造の完成を祝福する。ラジオから流れてくるボブ・マーリー『Get Up Stand Up』。差別や権利について声を上げ続けたボブ・マーリーのレゲエのリズムに合わせ、軽やかに、そして、とても楽しそうに躍る。
私は、このシーンがとりわけ好きだ。
『永遠に僕のもの』でも、主人公がひとり、部屋で踊る。ダンスするように罪を犯し続ける彼の哀しくも美しい、極上のシーン。こちらはアメリカ合衆国の伝統的なフォーク・ソング『朝日のあたる部屋』が流れる。
こちらは娼婦が半生を懺悔する歌と言われている。これまでアニマルズやボブ・ディランなどいろいろなアーティストにカバーされているが、個人的にはちあきなおみさんバージョンが最も胸にくる(最後まで聴いてみてください、鳥肌たちます)。
墜ちる。
それが、『永遠に僕のもの』のキャッチコピー。
『太陽を盗んだ男』にしても、コチラにしても、美しさで犯罪が肯定されるわけはないのだが、映画を観ている間、私の中の倫理観はぶっとび、ただ、その堕天使に夢中になる。
嘆美に浸る快楽よ!
妖しく美しく、脆く、危うい。
SNSの発達のせいか、とかく「分かりやすい正義」が世間のムードを支配する。時に、創作の世界の中では、理不尽なデカダンスに身を埋めていたい。
【余談】
主演のロレンソ・フェロは、お腹がややぽっこりとした幼児体型。一方、当時のジュリーも、(もちろん幼児体型ではないけれど)マッチョではない。色気には、“贅肉”をほどよくまとうことも必要なのかも、とも。贅沢の“贅”だし!