Netflixへの果し状⁉︎ 映画『1917 命をかけた伝令』
今年のアカデミー賞は『パラサイト』と『1917 命をかけた伝令』の一騎打ちといわれていた。結果、『パラサイト』旋風が吹き荒れたことに何ら異論もないし、素直に祝福の気持ちしかない。
『1917 命をかけた伝令』をIMAXで観た。
没入感! 没入感!
と騒がれていたが、本当に没入感がすさまじかった。ワンシーンワンカットで描かれた脅威の映像は、本当にVRや『バトルフィールド』のようなゲームで味わえる没入感に近いのだと思う。
第二次世界大戦中のアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の1日半を主人公の目線からワンシーンワンカットで撮影し、カンヌでグランプリをとった『サウルの息子』や
クリストファー・ノーラン監督が第2次世界大戦中の1940年に起こった「ダンケルクの戦い」を描いた『ダンケルク』。
それらの作品と対比されることも多い。けれど、それらを観た後に押し寄せたなんとも言えない、どうしようもないやるせなさが襲ってこない。戦争映画でもあるし、悲惨さや不条理さも描かれているのに、ただ、ただ、この映画は「走れメロス」なのである。というわけで、通常の「戦争映画」という尺度ではかる作品ではないと考えている。
そして、それを支えているのが飽くなき視覚効果の追求(ちなみに、音響もすごい)。『1917』のような広大なスケールの「ワンカット映画」を可能にしたのは、VFXの新技術なくしてはありえない。
「ワンカット映画」として注目を浴びた2014年の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』では、主人公が壁に隠れて見えなくなったり、角を回って歩いて行ったりすることで、ひとつのカットがつくられている。『1917』では、大半のアクションが野外で行われるため、このようなカットをつくるチャンスはずっと少ない。
「5~10年前にも多くのことができましたが、ここまでの詳細かつ高度なものはできませんでした。でもこれが本作の真髄なのです」と、(サム・メンデス監督と映写技師のロジャー・ディーキンスとともに本作にかかわった)ロシェロンは言う。「これはトリックだと感じた瞬間に、虚構の世界は崩壊します。この幻想を、2秒ではなく2時間続けなくてはならないのです」
社会問題をユーモアを絡めながら掘り下げ、構造を複雑に見せて行き、それを脳内で紐解かせることで観客にカタルシスを味合わせる『パラサイト』に比べ、『1917』は本当にシンプル。とにかく観客が鑑賞中に抱く思いはただひとつ、「走れ!」である。ストーリーも副題がすべて「命をかけた伝令」。それ以上でも、それ以下でもない。視覚や聴覚は、とにかく本能に直結している。『パラサイト』が思考で観る映画なら、『1917』は本能で観る映画と言えるのかもしれない。
Netflixに代表される動画配信サービスへの果たし状。それくらい、『1917』は「映画館で観る意味」でしか作られていない。現時点で映画で表現できる視覚効果がつまっている。おそらく数ヶ月後に家のテレビで観られることになるのだろうが、それで初めて観たら「すごいのはわかるけど…?」と拍子抜けすると思う。
アカデミー賞史におけるエポックメイキングは『パラサイト』だったが、映画史においては『1917』なのではなかろうか。とりわけ夜のシーンは白眉! IMAXの追加料金にさらに追加の投げ銭をしたいくらいの映像体験であった。
とにもかくにも、言いたいことはただひとつ。
映画館に、走れ。
【余談】そこかしこに英国の名優が出没してくるのも楽しいです。
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