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大学生の大事な日常とGOTOキャンペーン

小学生から高校生の9年間、プライベート時間はほぼバスケットボールに捧げてきた。中学・高校は、それこそお正月三ヶ日以外は必ずボールに朝晩触れていた。「バスケットボールで食べていきたいかも!? 」と頭をよぎることもあったくらいには打ち込んでいた。「このまま大学でも!」と思い一旦は入部を決め、体育館に通ったものの、大学1年生の初夏に「いや、待てよ」と退部をした。

いろいろな理由はあったが一番に私が考えたのが、「このまま大学4年間をバスケットボールに捧げてしまい就職してしまったら、一生、自分の時間を自分でコントロールできずに終わってしまうのかもしれない」というようなことを考えたから。この頃は、社会人=「決められた時間に出社し、与えられた任務を粛々とこなしていく」というイメージを持っていた。

仲間と同じ目標に向かって何かに取り組むことの尊さは理解できていた。けれども、練習と試合のスケジュールがフィックスし、それに沿って生活をしてきた私は、授業や部活をサボッて突然電車に飛び乗って海を見に行ったり、映画館に入り浸ったり、青春18切符を握り締め目的地を決めずに旅に出たり……そんな刹那的行動にとても憧れを抱いていた。

結果的に、自由を謳歌しきれず、極めて怠惰な4年間を過ごしたという自覚しかないけれど、とにかく「自分の全ての時間を自分でコントロールしたい」という欲求にかられ、バスケットボールから離れた自分への後悔はない。

昨日は、 #大学生の日常も大事だ というハッシュタグの投稿を眺めていた。現在、大学生活を送る学生たちには、あの時の私のような選択肢がない。

PCに向かって大量の課題提出に喘ぐ毎日の中で、地方から上京したばかりの大学一年生は友達をつくることも、ライブ会場などに足を踏み込むいれることも、突然江ノ島の海を眺めに行くことも、大学四年生はおそらく来春に卒業旅行へ旅立つことも……ましてや学校の図書館で勉強することもままならない。自分勝手な行動の権利、つまり、行動の取捨選択の自由。私が大学生活で大切に思ってきたことを奪われることの息苦しさや悔しさを想像するだに、本当に泣けてきてくる。

感染者が爆発的に増えているアメリカだが、現時点で好転の兆しを見せているニューヨーク州の学校再開に向けてのガイドラインが発表された(アメリカは、州=国であるくらいの引いた目線で見ないとなかなかに分かりづらい)。それは、「州が定めた安全基準を満たせば、再開できる」という極めてシンプルなものだ。細かくはいろいろあるようだが、一番シンプルなところを抜き出せば、「1日の感染率平均が5%以下が14日間続くこと」ということになるらしい。教育そのもの議論ともに、過ごす時間(交通機関、学食、課外活動など)の安全性の確保をどうするか、その両面からの議論が必要で、その後者に対しての具体的なプロセスづくりもかなり進んでいるようだ。

賛同者からは「いつかはやってほしいけど、今じゃない!」や「国民の命、健康をないがしろにしている」、「この予算を観光業や医療関係へダイレクトに回してあげてほしい」などの声が上がっている。

日本では、GOTOキャンペーンが行われようとしている。「今、やっている場合ではないだろうよ」という訴えに異論の余地はないと思う。大打撃を受けて瀕死の旅行業界を救済する必要性ももちろん理解するので、特産物のEC販売のプラットフォーム構築の人的&金銭的サポートであるとか、利用期間を未来に設定した旅行券だとか、「何か他の具体策はないものなのか」と、ない知恵をふり絞って考えてみたりもする。

一方で、観光産業に携わってきた方の悲痛な文章を読み、ことの複雑さに対する自分の安直さを猛省し、多面的な視点で物事を捉えつつ、ヴィジョンをもって、そこに具体的な道筋をつくり、説明する作業の困難を思う。

キャンペーンが業界への補助ではなくあなたへの補助なのは、あなたの助けを何より必要としているからだ。けれど助けを求めたはずのあなたに口を塞がれ、何度も何度も蹴られこの業界は死ぬ。これは無知で浅はかなデモに叩かれ、疲れ、呆れ、憤りを込めた遺書だ。舌の根の乾かぬうちに掌をひるがえして日本の良さを説き嘆くであろうあなたを、不要不急の最前線にある墓場で待っている。

大学生と観光産業に携わる方の悲痛な叫び。誰しも明日降りかかる可能性がある。

ニューヨークタイムスはアジアの拠点を、情勢が不安定な香港からソウルに移した。ひと昔前だったら、きっと東京を選んでくれたように思う。

小雨もパラつくぐずついた空の下、昨日は一日中暗澹たる気持ちで過ごしていた。

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追記】

GoToキャンペーンがあって初めて旅行に行こうと思う方のほとんどは、旅行をしない人、旅行会社を使ったことがない人で、GoToキャンペーンが見合わせになればきっとキャンセルになるでしょう。キャンセル業務だけが溜まっていくのでしょう。明日が怖くて眠れません。GoToキャンペーンが中止になるのも決行されるのも、どちらにしても待つのは地獄です。




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