今年のM-1。壮大なる復讐劇を目撃す
敗者復活戦を観ることはできなかったが、M-1の決勝戦を。昨年は、ミルクボーイ、ぺこぱに代表される「肯定」の波が押し寄せたが、今年は漫才の型にハマらない「破壊」の波がきた。
優勝したマジカルラブリーのネタ。野田さんは、ただただ床の上をのたうちまわった。村上さんは、それにツッコミまくった。審査員の志らくさんは、それを「喜劇」と評した。
同率2位となった準優勝のおいでやすこがのネタ。こがさんは、ただただ4分間、歌った。それに、おいでやすさんがツッコミまくった。
これは、漫才なのか? 話芸なのか?
これまで私たちが「漫才」と思っていたものの枠の中で評価するなら、最後に残った3組の中で見取り図だけが漫才をしていた。でも、その枠を超えたところで、それ以外の2組がつき抜けた。
決勝戦前に、松本人志さんがつぶやいた。
その後の打ち上げで、マジカルラブリーの村上さんは、(決勝1発目)「おいでやすこがさんの次だったが、その直前までどっちのネタをやるか決めていなかった」と、野田さんは「フレンチの後半が弱い自覚はあったけれど、CMに入った瞬間、おいでやすさんのつくった空気が沈静したのでフレンチに決めた」と告白した。新宿でも渋谷でもなく、大宮の板の上で鍛え抜かれた強さが出たんだなぁ、などと思う。
打ち上げでも、敗者となった方たちがスタイルを貫いたマジカルラブリーの強さを称えた。先日の甲本ヒロトの言葉が思い出される。
音楽って何がいいかというと、形とかがないところ。結局、やったるでっていう気合。そんなのが一番大事。
決勝戦後、ヒロトの音楽に助けられたと語る松本人志さんのつぶやきにグッとくる。きっと東京に出てきたばかりのうまくいかなかったあの頃の自分を思い出したのではなかろうか。
いろいろなもののボーダーがなくなり、シームレスになる今、「遂に漫才もそうなったのだなぁ」と思ってしまった今年のM-1。
この他、個人的には、コンプライアンス時代に軽犯罪を笑いに昇華したニューヨークにもグッときたが、フレーズとしてはウェストランド井口さんの「お笑いは今まで何もいいことがなかったヤツの復讐劇なんだよ!」に最もグッときた。実は、これが、今年のM-1を象徴するツッコミだったように思う。
三年ごしに決勝戦の場所で、上沼さんへの因縁をはらしたマジカルラブリー。
マジカルのネタに上沼が「頑張ってるのは分かるけど、よう決勝残ったなと思って」と指摘すると、ツッコミの村上(36)は「こんな怒られます?」と苦笑。野田はツイッターで「大恥かいたんだけど」と嘆いていた。
ニューヨークは松本人志に(注:昨年、M-1の決勝の審査で、『ツッコミが好みじゃない』と言われる)。おいでやすこがはR-1に(注:ルール改正で、R-1出場の権利を失う。2人ともピン芸人で、今回はM-1のために組まれたユニット)。マジカルラブリーは上沼恵美子に。
今年のM-1は、壮大なる復讐劇だったのかもしれない(私が面白いと思った3組は少なくともそう)。その念が一番強かったコンビが優勝を果たした(今までにいいことがなかった順番だったのかもしれないとさえ思える)。
それに尽きる。
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