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大切にするよ

女性芸人だけの賞レース『THE W』。以下の2組のネタがダントツでおもしろかった。

もじゃ『大切にするよ』

廃品回収業の男。トラックで街を走る。10年以上たったものは買い取れない。ただし、希望されれば回収はする。家電、オートバイ、型が古いものたちをせっせと積み込む。途中、意外なものが持ち込まれる。

というようなストーリー。観た人にしかわからないと思うけれど、わかりやすくいうならトーンは『世にも奇妙な物語』的な世界観。いきすぎた資本主義の末に訪れたディストピアの中で、関係性を考える話である。

だけれど、その男の背中に私は『Perfect Days』の清掃員・平山を見たし、男の最後の決め台詞には、『ロボットドリームズ』のアライグマを見たし。なんなら彼の日常は、『岬の兄弟』の片山監督が描いたらヒリヒリする物語になるし、いや、『万引き家族』の是枝監督が家族を語り直す映画にしてもいいのかもしれないし…など、やたらとイメージが広がった。

「アニメには重量表現が大切だ」とはよく耳にする。廃品群をマイムのみで表現するもじゃの身体表現は、アニメにおけるそれと同じようにたしかに「重量」を十分に感じさせてくれた。その重量が切なさに、それこそ重みを加えていた。間の取り方とかも含め、ひとりコントの力量、素晴らしい。

いわゆるこれまでの「お笑い」文脈ではないのでかもしれないが、世界に輸出できる普遍のストーリーで、ヴィム・ヴェンダースだけでなく、クリント・イーストウッド、ケン・ローチなどの監督たちの作品でも夢想できちゃう。私の中では優勝だった!


忠犬立ハチ高『風刺』

国会答弁。ゆるふわの与党議員と激昂する与党議員。意見を交わすわけではなく、相手の話を聞こうとしない互いの態度。永遠の平行線かと思われたが、あることをキッカケに俄然、連帯意識が芽生える。

完全に風刺が効いたコント。ティピカルな政治家の振る舞いを見続けることが辛くなったあたりからドライブ。しっかりと現代の政治風景を描き、笑わせつつ、皆が共感できるネタをぶち込んで、「こんなふうに互いにもっとわかり合おうとしたら仲良くできるのかもよ」ととれる強いメッセージ。リベラル批判が噴出してる年に素晴らしい。上手。

1本目に比べ、ちょっとわかりづらかったような気がするが、2本目も風刺。季節の情景は見事に文学的表現できるのに、こと女性(女体/性描写)に対しての解像度はめちゃくちゃ下がる作家の話(おそらく男性。三島由紀夫を官能小説家と捉えているという前フリあり)。作家という設定はおいておき、メタ視点で考えれば、現実世界(主にSNS)でよく見かける風景だ。

ポップなキャラクターな皮を着てるけれど、このコンビはかなり狼=策士なんだな、と思う。

まとめ

すぐにその場で理解しやすい早い笑いと後からいろいろ考えてしまうジワジワとおもしろみが増す遅い笑い(funnyとinterestingの違いなのかも?)。賞レースには前者の方が有利だと思うのだけれど、「世界の喜劇王はチャップリンである」ということをなんだか思い出した夜だった。

memo


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