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時間の中に私たちを閉じ込めたモノ
2024年3月23日に、佐藤友美さん主催「さとゆみゼミ」を卒業。卒業後も、文章力・表現力をメキメキと上げ続けるため、仲間と共に、note投稿1,000日チャレンジをスタート。
数年ぶりに映画館へ出かけた。高校生の次男と、アニメ・名探偵コナンの『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』を観るためだ。彼とふたりで出かけるのも久しぶりだった。
数日前、テレビでコナンの映画を観ていた彼が「今、新しいのやってるんだって。行きたいなぁ」と言った。最初は聞き流していたが、何となく「一緒に行ってみようかな」と思った。部活や友だちとの約束がないことと、本当に映画を観に行きたいことを確認して、映画館の席をスマホで予約した。
私はジブリやディズニー以外のアニメはほとんど観ない。コナンは、わたしの趣味の外側にあって、なんとなくストーリーを知っているだけだ。
なのになぜ、コナンを観に行くことにしたのか。3つの理由があった気がする。
・次男との時間を過ごしたかった。
・映画館で映画を観たかった。
・意外と面白いかもという期待があった。
次男は高校2年生。あと2年もせずに、家を出て行くだろう。最近、ちょっとした焦りがあるのだ。もっと一緒に時間を過ごしていれば良かった、という、母親の身勝手な焦り。
映画館までは、車で夫が連れて行ってくれた。車の中で、次男は英語の単語帳を見ながら、ブツブツ英単語を唱えていた。わたしはスマホでnoteでも書こうかなと思ったら、充電が22%しかないと気づく。充電が切れると映画のチケットを発券できないから、スマホをカバンに戻した。
映画館でチケットを発券し、夫にスマホを預けた。近くのカフェで仕事をして待っているというので、充電をお願いするためだ。
私と次男がシアタールームに入ったとき、上演まで5分と迫っていた。私たちが座る列の右端には、高校生くらいの男の子がふたり並んで座っていた。私たちは身を小さくしながら彼らの前を通り抜け、となりの席についた。「アニメとはいえ、小さな子どもばかりではないんだな」と、思う。場内はもう薄暗く、次男の英単語帳はカバンにしまわれた。
スクリーンには、夏に上映される映画の予告が流されていた。ゴジラやキングタム、ミニオンズ…。スマホも英単語帳も見られない私たちは、ヒソヒソとおしゃべりを始めた。
「キングダム、最初のやつ、一緒に映画館で観たよねーー。夏に最終章があるってことは、2があるってこと?見たっけ?Amazonプライムで見てみようか」。
ミニオンズのキャラクターを見ながら「ねぇねぇ、これって笑福亭鶴瓶さんの声じゃない?大阪弁、ウケる」。
「最近のゴジラ、すごいね!侮ってたけど、迫力すごいね」。
肝心のコナンの映画は……、残念ながらハマらなかった。大人になり過ぎた私の心。バイクから転げ落ちた後に走り出すとか、飛行機の翼の上で足の指の力だけでホールドして戦うとか、現実ではありえない展開にストーリーから思考が離れていく。
ストーリーには入り込めないのだが、映画からは逃げられない。脳は、つぎつぎと思考を展開し始めた。
最初の掴みは面白いな。
この動きには無理があるな。
ここはシリーズの既存情報なんだろうな。
大泉洋さんは声優をされているな。重要な役なんだろうか。
さとゆみさんと編集Lilyさんの対談を思い出した。本づくりは映画を参考にするというLilyさんが、「人を時間の中に閉じ込められるのは、神と映画だけだ」とおっしゃていた。読者を時間に閉じ込められるような本づくりを目指している、と。
次男と何気ないおしゃべりをし、ハマらない映画を最後まで観てあれこれ考えたのは、映画館の中だったからだ。すっぽり時間に閉じ込められて、いつもと違う体験ができた。
迎えに来てくれた夫と一緒に焼肉ランチを食べて家に帰った。コナンにはハマらなかったけど、胸もお腹もいっぱいだ。
関係ないけど……キングダムの予告を見て、1巻からマンガを読み返したくなっている。「図書館で1巻から借りられるよ」と、次男が教えてくれた。
2年後に彼が家を出たあとも、私はきっとこの日を覚えているだろうな。