見出し画像

整理解雇が有効と判断されるために会社が行うべきこと

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今日は整理解雇についての裁判例を紹介します。

 整理解雇は、解雇される方も解雇する方も、心身共にすり減ることになります。

 会社の経営さえ上手くいっていれば解雇しなくて良かった人のクビを切るという意味で普通解雇や懲戒解雇とは意味合いが少々違っており、その手続きは特に慎重に行う必要があります。

 整理解雇が有効であるというためには、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③被解雇者選定の妥当性及び④解雇手続きの相当性という4つの要素を総合的に判断して、解雇権の濫用になっていないことが必要です。

 では、どのような事情があればこれらの要素を満たすと判断されるのでしょうか。
 この点についての判断がなされたのが、クレディ・スイス証券事件(東京地方裁判所令和4年4月12日判決)です。

事案の概要

 原告は、原告が当時働いていた別会社のプライベート・バンキング部門の事業譲渡を受けた被告会社との間で労働契約関係に入りました。
 原告の業務は、被告会社のマルチ・アセット運用部でのプライベート・マンデートに関するもので、年俸は約1850万円でした。

 しかし、平成25年12月から販売が開始されたプライベート・マンデートは、売上げが低迷し、改善策も見つからなかったため、平成30年1月には新規顧客の勧誘・受付は停止され、同年2月には、原告の所属していたマルチ・アセット運用部は廃止されました。

 原告は、翌年2月18日に解雇されたので、その解雇等を不服として被告会社に対して解雇無効等を求めて訴訟を提起しました。

東京地方裁判所の判決

 東京地方裁判所はまず、本件解雇は、原告の能力不足の面があるとしても、会社側の経営条の必要性から行われたことには変わりないことを理由に、整理解雇の4要素に照らして慎重にその有効性を判断しなければならないとしました。

 その上で、各要素について、以下のように判断しました。

① 人員削減の必要性

 プライベート・マンデートの新規受付停止、マルチ・アセット運用部の廃止を受け、被告会社には人員削減の必要性があることを認めました。

② 解雇回避努力

 被告会社は、原告と個別面談をしてその意向や希望を聴取し、原告が被告会社又はそのグループ会社内で働き続けることができるように、その意向や適性にできるだけ合ったポジションを紹介したので、解雇回避のために相当な努力をしたと認めました。

 他方で、原告は、被告会社の配慮や提案に対して真摯な対応を長期間にわたって怠っていたということで、被告会社が当初の提案するポジションへの応募が不可能となった後に新たな異動先候補となるポジションの提案等をしなかったとしても、原告の不誠実な対応を考慮すると被告会社は信義則上要求される解雇回避のための努力を尽くした、と判断しました。

③ 被解雇者選定の妥当性

 本件解雇時には、マルチ・アセット運用部の廃止によって生じた余剰人員として残っていたのは原告のみでした。したがって、原告を被解雇者として選定したことは妥当であると判断されました。

④ 手続きの相当性

 そして、最後に手続の相当性については、被告会社の以下のような手続きを評価しています。

  • プライベート マンデートの新規顧客の受付停止とマルチアセット運用部の廃止を決めた後、原告と複数回にわたって面談し、マルチ・アセット運用部廃止等を決定するに至った経緯や理由を説明している。

  • 原告の意向や希望も聴取した上で、適切と考えた合計5つの社内公募案件のポジションを提示するとともに、募集要件を充たしていないポジションについても、本部長が口添えをするなどして可能な限りのサポートをすることを申し出るなど、原告が被告会社又はそのグループ会社内で勤務し続けることができるようにするための手段をとることができる機会を与えている。

  • 本件自宅待機命令から本件解雇までの間、約1年間にわたって、原告に対し、解決策を協議するために更なる面談を求めたり、上記社内公募案件のポジションの紹介と並行して、退職金以外に約1146万円を支払うことなどを内容とする退職パッケージを示すなどして退職勧奨をし、相当期間の生活を保障しながら、外部労働市場を通じて原告の職歴 等や希望に沿うポジションを社外に見つける機会を提供するなどした。


 裁判所は、これらの要素を総合的に考慮した上で、「被告が経営上の必要性を理由としてした本件解雇は、本件就業規則第42条第4号所定の『その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき』に該当し、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めることができる」としました。

 原告が真摯に対応していなかったことも理由の1つにはなっていますが、それは、会社側ができる限りのことをした上でのことです。

 したがって、万が一整理解雇をしなければならない事態に陥った時には、会社としては、解雇しようとする従業員がもともと能力や態度に問題があるような場合であったとしても、まずは会社側でできるかぎりのことをするようにしなければならないことがよくわかる裁判例だと思います。

いいなと思ったら応援しよう!