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日本人の資産形成・資産運用に対する考え方は 世界標準から見ると異質 「世界標準の資産の増やし方 」
世界標準の資産の増やし方: 豊かに生きるための投資の大原則(東洋経済新報社)から、note限定で1章の1-1を抜粋します。
1 日本人の資産形成・資産運用に対する考え方は 世界標準から見ると異質
1 世界でも突出して貯金が大好きな日本人
日本人は貯金が大好きな国民です。「お金を減らしたくない」「万一の時に 備えておきたい」という気持ちがとても強い人が多いと感じます。働いて稼 いだお金を好きなことに使ったり、投資に回したりするよりも、貯める方が 正しいという教育を社会から刷り込まれてきたこともあります。
戦後に国を復興させるために預貯金を推奨した制度も高度経済成長期に国 民の貯蓄率向上に一定の役割を果たしました。預貯金を奨励する政策の 1 つ が、少額貯蓄非課税制度(マル優)でした。預貯金や国債などの利子が一定 額まで非課税になるという制度で、現在は一部の対象者を除いて制度が廃止 されています。時代が変わり、NISA(ニーサ・少額投資非課税制度)とい う国民の投資による資産形成を助けるための制度が運用されるようになりま した。これは、貯蓄から投資へというスローガンを、制度面でもしっかりと 担保したという意味で、画期的です。
日本人の貯金好きはデータでも裏付けがあります。主要国の金融資産のう ちの現金預金の割合を見ると、日本は 54.1%と現金の割合が高い国だと分か ります。ドイツも現金預金の割合は 42.8%と高く、続いてスイス 31.4%、ス ウェーデン 14.4%、米国 13.4%などです(図表 1 - 1)。米国は現金預金の割 合は低いですが、株式投資や投資信託の割合が高くなっています。つまり、 1資産を貯める意識がなく、旺盛な消費文化の結果、預金が少ないという理由 だけではありません。これは、米国が投資をする際に様々な税制優遇を受け ることができる環境も金融資産の構成が異なる大きな理由として考えられま す。日本でも出遅れたものの、新 NISA の非課税限度額の拡大によって制度 が整えられたことで、預貯金から投資への割合が変わる可能性もあります。
日本人が金融資産を保有する目的としては、「老後の生活資金」「子供の教 育資金」「病気や不時の災害への備え」といった中長期的な目標が動機と なっています。また、「特に目的はないが、金融資産を保有していれば安心」 となんとなく貯めている方も多いようです(金融広報中央委員会「家計の金 融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和 3 年)」)。
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その結果、過剰にお金を貯め過ぎて、結局使い切れずに人生を終える方も 多数います。FP の花輪陽子さんが独立をした当初に相談を受けた日本在住 の 80 代の女性は、1 億円の現金を保有しているのに、「老後が不安」だと 言っていたそうです。80 代になっても相続対策の準備もしておらず、結局 は残された家族も慌てて税理士を探し、高い相続税を支払うということもよ くあります。他方で、十分な収入がないため、十分な貯蓄ができずに、周囲 に頼れる人も少なく、老後に貧困に陥る方も日本には多くいます。一億総中 流の時代は終わり、貧富の差が徐々に大きくなっており、政府が出すモデル ケースではなく、それぞれがライフプランとキャッシュフローシミュレー ションを行い、人生プランを立てなければならない時代になってきたのです。
海外で生活をしていて、中華系や欧米系の方とライフプランの話をすると、 彼らの方がより明確に前向きな人生設計を立てていて、「なんとなく不安」 と言ったネガティブな理由で目的もなくお金を貯めている方は少ないように 感じます。各自が自分のプランを持っているために、隣の家庭と比べるとい うこともしません。収入や貯蓄などのあらゆる条件がそれぞれの家庭で違い 過ぎるために比べることが無意味だからです。日本人は若い方も「将来が不 安」「先が見えない」といった理由から消費や投資に対して保守的になり、 消極的な選択肢として貯蓄を選ぶ方が多いように感じます。人生においては 何事においても目標設定が重要ですが、お金に関しても単に無駄をなくすと か投機をしないとかいうことだけではなく、何をするためにどのような使い 方をするか、どうしたら豊かな生活ができるかという知識を持ち実行するこ とは重要です。
現在の日本経済は長く続いたデフレの時代が終わりつつあり、マイルドな インフレが始まる可能性が高まっています。私たちはこれまでのデフレとい う異常な状態の常識にとらわれるのではなく、マイルドなインフレが続いて きた普通の国の資産形成を学ぶことがとても重要となっています。
日本人が好きな現金預金や債券(国や企業などが一般の投資家から借り入 れを行う目的で発行され、満期まで待てばお金が戻ってくるほか、利子も得 られる)はインフレ時に弱いという大きなデメリットがあります。現金で 1 万円を持っていれば、額面上は減ることはないかもしれません。ところが、 物の値段が上がり、紙幣の価値が下がると、生活を維持することが少しずつ 難しくなります。同じ 1 万円でも物価が 3%上昇すれば、1 万円で購入でき る物が減るからです。その分、節約をして消費を減らしたり、貯蓄を取り崩 したりするなどをしないと購買力を維持することが難しくなります。
利息がある預金や債券も、物価上昇のスピードに利息の上昇が遅れる場合 もあります。日本人の富裕層や金融機関は保有資産の大部分を債券(Fixed Income)で運用をしています。債券投資の特徴は、英語の名前の通り、大 きな損失を避けながら、一定のリターンを確保するということです。反対に、 株式に投資した時と比べるとリターンが制限され、インフレが続く経済には 弱いというデメリットもあることを意識しておく必要があります。
また、大部分の資産を日本円の預金にしている方にとって、円安は大きな デメリットになります。海外旅行をしないという方も、輸入品を購入するで しょう。スマートフォンの価格が上昇すれば家計は打撃を受けます。また、 旅行や留学などで海外に出る場合は自国通貨が弱くなることは、非常に痛手 になります。日本から一歩も出ないで生活をしていると気付きにくいですが、 海外に住んでいると円の価値の目減りには敏感になります。例えば、1 万円 の報酬を受け取り、それを米ドルに替えると、1 米ドル 100 円の時は 100 ド ルですが、1 米ドル 150 円の時は約 66.66 ドルです。以前と同じパフォーマ ンスで仕事をしていても、海外で使えるお金は少なくなってしまうのです。
シンガポールには 3 万 2743 人(2022 年)の在留邦人がいます(在留届提 出済の数)が、コロナとインフレの影響からか 2021 年の邦人数から 3457 人 減少しています。2022 年はシンガポールの消費者物価指数は 6%上昇しました。2023 年は、物価上昇率はやや落ち着いたものの、月によっては前年比 4 ~ 5%前後の上昇でした。これはローカルの方向けの物価で、外国人向けの 賃貸住宅の上昇幅は場合によっては現地通貨ベースで 130%程度値上がりし ていたりと非常に大きく、為替レートも 1 シンガポールドルが 80 円前後か ら 110 円台後半まで上昇をしています。
日本円ベースで考えている日本人からすると、1 シンガポールドルが 80 円だった頃より 1.4 倍も高くなっており、物価上昇を考えるとコロナ前の 1.5 倍程度のイメージです。そのために、現地の商工会議所などに所属をしてい る大企業の駐在員と話していても、物価の高さに驚きを隠せないという声を 聞きます。スイスなど、より物価の高い国への駐在が決まった場合は、考え てしまうかもしれないという方もいました。日系企業の駐在員は一定の家賃 や子供の教育費などの手当は出るものの、賃金の上昇などは本社の影響を受 けるので、現地の物価上昇率に賃金上昇が追いつかない場合が多いからです。 特に円ベースで日本の銀行に給料が振り込まれている方はやりくりが非常に 大変だと聞きます。すぐに外貨に替えて、利息が高い現地の銀行に送金をす るのだそうです。
物価の上昇が続いている米国、スイス、シンガポールなどで生活をするに は現金を持っているだけでは不十分で、収入を得たら積極的に資産運用を考 えて、増やしていく必要が出てきます。何もしないと保有している現金の価 値は低下していくため、インフレに負けてしまい、将来の購買力を維持でき なくなるからです。
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