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ひと駅分の物語。 「香るユキヤナギ」

 「香るユキヤナギ」 



 通りからは見えない縁側で
  過ぎし日の思い出を
 ワイングラスに注ぎ
  その思い出に陶酔していると

 入り戸から
  化粧くさりを頼りに落ちる
   雨音が語りかけてきた

「いつまで過去を放浪しているのか」

すると、それを聞いた
庭の隅の薄氷が
驚いた顔の私を見て
失笑するように 割れた

 季節は少しずつ暖を増し
  わたしの命も熟していく

 風花のようにゆっくりと
  残された日々が過ぎていく

殴り書きのような青春の時代も
うめき声のような彷徨の時代も

もう静けさに消えて無くなり
 輝いていた時代の記憶に
  依存して生きている

 そんなわたしは
 庭を舞う
 ユキヤナギの
 香るファンファーレに後押しされ

もう少しだけ
 生きもがいてみようかと 
もう一度、入り戸の方へ眼をやると

 そこにはただ、意地悪な雨音の
  乾いた抜け殻だけが淀み  
           水たまりの小さな波紋に
    伝言を託していた

「時が過ぎ去るのではなく
  人が過ぎ去るのだ」

 ほんの、ほんの半世紀程の
 私の歴史の中にはいつも
 灰色の耳鳴りの向こうで
   FEN(ラジオ)から
古いカントリーミュージックが流れていた

通りからは見えない縁側で
  今、ユキヤナギが香る


今日は暖かく日中は
半袖のTシャツで過ごしました。

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思い初めるは、星月夜。
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